薬師組合−4
成分が詳しくは分からないことも多いが、経験上問題ないなどで魔道具を作っているとのことだ。
俺は早速ドリーが昨日作ったシャンプーとコンディショナーを調べてみる。
色で見分ける事ができるようだが、どちらも基準内に収まった。
俺が別で分量を変えて試しに作ったものを測ると、偏りすぎているものがある。
「ドリーが試作したのが良いみたい。ドリーの分量で作ろう」
「うん!」
昨日は試作だったので少量しか作っていない。
今日はベスに手伝ってもらって量を一度に作る。
俺は一人でかき混ぜられるが、ドリーは量が増えると難しい。ベスにはドリーの手伝いをお願いした。
シャンプーを作るのは危険ではあるが、魔道具を作る時はもっと危険な作業があるらしく、怪我をしたらエマ師匠が治すことになっている。
テレサさんには昨日の段階で、手紙で相談済みだ。
「ドリーは簡単そうに作業をしますわね」
「ベス、ドリーは適当にやってるように見えるかもしれないけど、量は測ってるからね」
シャンプーを作るための素材となる、石鹸を作るときに使うという結晶と、油を混ぜ合わせる。
更に追加で蝋から取り出した成分などを追加してクリーム状にしていく。
アルバトロスに来てから協会では固形石鹸が普通に置いてあって驚いたが、魔法使いが素材を作っていたから固形石鹸が出回っていたようだ。
ターブ村ではアルカリ性の物質を作るのが大変だったが、アルバトロスでは買えば手に入るので楽で良い。
ドリーがあまりにも簡単に作業しているので、ベスが勘違いしてしまいそうだ。
ベスにドリーが扱っている物は手についたら洗い流す必要があると、危険性を伝える。
「ドリーにやらせるのは危なくないですの?」
「そう思うだろうけど、俺よりドリーの方が上手なんだよ」
「そうなんですの?」
俺が頷くとベスが驚いている。
ベスにドリーの指示に従うように伝えると、ドリーと一緒に作業し始めた。
俺はシャンプーではなく、コンディショナーを作る。
コンディショナーの方をベスに任せる事も考えたが、ドリーがやるならシャンプーだろうと、ベスにはシャンプーの手伝いをしてもらっている。
コンディショナーは弱酸性の液体を作り出す。
更にシャンプーと同じように、蝋から取り出した成分を追加してクリーム状にする。
アルカリ性のシャンプーなので、酸性のリンスで中和するのが目的だ。
「混ぜるだけなら簡単ですわ」
ベスの方を見ると、かき混ぜるのが重そうなシャンプーを楽そうに混ぜていた。
隣でドリーが「すごいすごい」とベスに伝えている。
俺もコンディショナーを頑張って混ぜ続ける。
混ぜ終わりそうになったところで、一度作業を止める。
最後に匂い付けに香油を足す。
これで最後まで混ぜ合わせて完成だ。
「かんせい!」
「変わっていますわね。ところでこれは何ですの?」
「かみのけ洗うの!」
ベスへの説明はドリーに任せて、試しにシャンプーとコンディショナーを使ってくることにする。
協会の大浴場は清掃中以外は基本的にいつでも入れる。
大量に作ったシャンプーとコンディショナーを容器に少量入れて、大浴場へと移動する。
大浴場で頭を洗い始めると、以前作った物と違って随分と泡立ちが良い。やはり素材が良いから完成した時の出来が違うようだ。
シャンプーとコンディショナーを順番に使って、洗い流して部屋に戻る。
部屋に入ると注目された。
「エド、使ってきたんですの?」
「試す必要があるからね」
「髪が綺麗ですわね」
見える範囲の髪を摘んで見てみるが、正直近すぎて分からない。
自分の髪を見て確認していると、ケネスおじさんとドリー以外の皆に注目されているのに気づいた。
女性が多いからだろうか、気になるようだ。
今更だが女性が多いな。
元々ベスに教える前提だったから、女性で周りを固めていたのかもしれない。
「私も試したいですわ」
「協会の大浴場なら構いません」
「テレサ、良いんですの?」
「以前に許可は頂いております。条件として私も入ることになっています」
「楽しみですわ!」
シャンプーとコンディショナーを容器に入れると、俺とケネスおじさんを残して、女性は部屋を出ていった。
女性は皆髪が長めなので、髪を洗うのは時間がかかるだろう。
俺はその間ポンチョを作っていることにする。
時間があるときに進めていたからか、ポンチョも随分と形になってきた。
「にーちゃ!」
ドリーが部屋に戻ってくるなり、俺のことを呼んだ。何だろうとドリーを確認すると、髪が普段より輝いてみえる。
自分では確認できなかったが、どうやらシャンプーとコンディショナーは上手く作れていたようだ。
ベスも髪が先ほどより輝いて見える。
貴族のベスでも綺麗に見えるということは成功と言って良さそうだ。
「エド、これ良いですわ」
「気に入ったなら良かったよ」
「持ち帰りたいのですが、もう少し量を作れませんの?」
「素材はまだあるから作ろうか」
俺はポンチョを置いて、再びシャンプーとコンディショナーを作ろうとする。ベスがドリーと二人で作るので、俺はポンチョを作ってて良いと言う。
どうしようかと思ったが、ベスが楽しそうだし任せることにする。
俺がポンチョを縫っている間、ベスとドリーは楽しそうにシャンプーとコンディショナーを混ぜ続けている。
しかし、想像以上にすごい量作っているのな。
「ベス、一回でそんなに使わないからそこまで量は要らなくないか?」
「皆、欲しいと言うので量を作っていますわ」
エマ師匠とエレン師匠だけではなく、テレサさんまで欲しいと言った。
それでも多い量な気がするのだが……。
「私とエレンが使っていれば、他の魔法使いから欲しがられると考えたのです」
「エマ師匠が使っていれば確かにそうかもしれません」
エレン師匠から知り合いが多いのはエマ師匠だと言われている。
実際まだエマ師匠に会ってから四日ほどしか経っていないが、エマ師匠から紹介された魔法使いは多い。
そんなエマ師匠が使っていたら徐々に協会に広がりそうだ。
俺とドリーだけでは作れる量は限られているが、魔法使いならシャンプーとコンディショナーを作れるだろうし、あまりにも増えたら作り方を公開すれば良いだろう。
薬師とは関係のない技術だから問題はないはずだ。
「私たちがほとんど使ってしまいますし、また今度組合に素材を買いに行きましょう」
「確かに補充しておいた方が良さそうです」
補充ついでに匂い付けの香油を色々と揃えても良いかもしれない。
今回はドリーが好きな匂いをつけたが、好きな匂いをつければ、より気にいるだろう。
俺が匂いについて説明すると、エマ師匠とエレン師匠が香油を取ってくると部屋を出ていった。
「ベスは普段使ってる香油はないの?」
「ありますが詳しくは知りませんわ」
「どういう匂いが好きとかでも作れるよ」
「柑橘系の果実のような匂いが匂いが好きですわ。匂いが甘すぎない方が好みですの」
甘すぎない柑橘系か。
香油を混ぜて匂いを作っても面白いかもしれない。
今日は香油がないので無理だが、今度組合に行った時に香油を揃えてもらおう。
エマ師匠とエレン師匠が香油を持って帰ってくると、シャンプーとコンディショナーを分けて匂いをつけている。
匂いを調整していると、シャンプーとコンディショナー作りは結局一日掛となってしまった。
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