薬師組合−3

 猪を狩った次の日は魔法の練習をした後に、ベスは用事があると帰っていった。

 狩猟をしないのならと、薬師組合で買った物と採取した薬草を整理していた。


 二日後の朝、ポンチョを作りながら待っていると、ベスがやってきた。

 ベスとテレサさんは何故か荷物を持っている。

 何を持っているのかと思っていると、ベスから持っていた荷物を手渡された。


 受け取ると思った以上に軽いこと驚く。


「これは?」

「服ですわ」


 頼んでいた服を揃えてくれたようだ。

 ベスにお礼を言って、中に入っていた服を取り出して見ていく。

 見た目も良く、動きやすそうで普段使いに良さそうだ。


 ドリーの分はテレサさんが持っていたようで、ドリーはテレサさんから服を受け取っている。

 ドリーも服を広げて喜んでベスにお礼を言っている。

 今回は急ぎなので古着で揃えたが、何着か仕立てる予定だとベスが言う。


「お母様が私に選ばせたので心配ですわ」

「ベスが選んでくれたのか。気に入ったよ。ありがとう」

「本当ですの?」

「うん」


 ベスは心配そうな顔をしていたが、良かったと言った後に嬉しそうに笑った。

 服は自信があまりない分野なのだろうか、普段のベスと違って本当に心配そうだった。

 ドリーもベスに気に入ったと伝えている。


 ドリーが早速着て行きたいと言う。

 確かに今来ている服は洗って綺麗にしているが、随分と傷んできた。

 皆には外で少し待っていてもらって、俺とドリーは着替えることにする。


「エド、ドリー似合っていますわ」

「ベス、ありがとう」

「ありがとう!」


 俺とドリーがお礼を言うとベスは嬉しそうだ。

 着替えた後は魔法の練習を行う。


 今日は順番が回ってきた俺が最初に魔法を使う日だ。

 昨日は三人とも長時間魔法を維持できたが、最後には制御に失敗してしまった。

 今日こそは成功させたい。


 エドは最初に比べれば簡単に動かせるようになった魔力を動かし、杖から出して魔法へと変える。

 水の玉を浮かせたまま魔法の制御を続ける。


「エド、暴走する様子がないので、魔法の制御は成功したと言って良いでしょう」

「本当ですか?」

「はい。次は魔法を消して見てください」


 エレン師匠に魔法を消すと言われて困惑する。

 確かにエマ師匠やエレン師匠は俺たちの暴走した魔法を消していた。

 実際にやってみろと言われるとどうやるのかが分からない。


 手探りで魔法を消せるか試してみる。

 水を水蒸気に変えるつもりで、魔力を水蒸気に見立てて拡散させるが少量しか消えていかない。


「エド、魔力は制御を手放さなければ魔法を変えられます」

「魔法は変えられるんですか?」

「そうです」


 危なくない魔法は何だろうと考え、光の玉なら危なくはないだろうと思いつく。

 水の玉全てを一度に変えては目が潰れてしまいそうなので、先程の水蒸気を拡散させるように魔力を光の玉へと変えてみる。


 思い付きで始めた制御は思った以上に上手くいった。

 水の玉から光の玉が出て、光の玉が暗くなるにつれて魔力が無くなっていく。

 光の色を変えたりもできて、楽しい上に幻想的な光景だ。


 全ての魔力が無くなるまでかなりの時間がかかってしまった。

 エマ師匠やエレン師匠のようにはいかないようだ。


「エド、綺麗でした」

「ありがとうございます。もっと早く消したかったんですが無理でした」

「エドは難しく考えすぎです。消すという魔法を使えば良いだけです」

「え?」


 魔法は消すという変化もできるのか。

 消す方法があるのだと思っていた。

 難しく考えすぎて、複雑なことをしてしまった気がする。


「エドは複雑な方法で魔力を消していましたから、魔力が残りませんでしたが、普通は消した後に魔力が残ります」

「魔法を消しても魔力は残るんですか?」

「そうです。本来の手順としては魔法を消して、次に魔力を手放す、という順番だったのです」


 エレン師匠は俺が危ない魔法に変化させなかったので、止めなかったと言う。

 更に魔力の制御を手放す場合は水の玉ではやらないようにと注意された。


 確かに水の玉で制御を手放したら、水がそのまま落ちてきそうだ。

 俺が出した量を考えれば大変なことになる。

 というか、ショッツの記憶を思い出した時は、落ちてきて溺れかけたのか……。


「それと魔法によっては、制御を手放してもそのまま残るので注意が必要です。大半の物は少量残る程度ですが、水は比較的残りやすいです」

「消えていくのではなく、魔法って残るんですか?」

「媒体となる物があれば残ります。水は空気中に含まれるのではと推測されています。アルバトロスのような水が近い場所だと残りやすいようです」


 空気中の水分を媒体として水が残るのか。

 水が増え続けたら大変なことになりそうだが、一体どうなっているのだろうか?

 魔法使いが水ばかり生み出している訳ではないので、問題ないのかもしれない。


 エレン師匠の説明が終わったところで、皆の元に戻る。


「エド、綺麗でしたわ!」

「エレン師匠の説明だと失敗だったんだけどな」

「やってみたいので教えて欲しいですわ」


 エレン師匠に教えても問題ないか聞くと、問題ないとのことだった。

 上手く説明できるか分からないが、ベスに水蒸気の話や光について説明をすると頷いている。


 まずは魔法の制御を成功させると、ベスは準備を始めた。

 ベスが魔法を維持し続けると、エレン師匠が制御に成功していると言う。

 そのまま俺と同じように水の玉から、小さい光の玉を出して徐々に消していく。


「成功しましたわ!」

「おめでとう」


 ベスは魔法を覚えるのを嫌がってたとは思えないほど喜んでいる。


「ドリーもやりたい!」


 ドリーはそう言ってエマ師匠とエレン師匠の元に行った。

 エマ師匠とエレン師匠が、気合の入ったドリーを落ち着かせている。


 ドリーが落ち着いたところで魔法を使い始めた。

 ドリーは俺やベスと同じように魔法を成功さる。

 ベスにした説明をドリーは聞いていたのだろう、ドリーは水の玉を光の玉に変えていく。


 俺はドリーに色々と教えているのだが、どうしても地球の知識が前提となる事が多い。

 ドリーはまだ小さいが、教えていたことを基礎に説明を理解したのだろう。


「にーちゃ! できた!」

「凄いな、ドリー」


 俺以外からも褒められたドリーは嬉しそうだ。


 魔力が無くなって魔法が使えなくなったところで、今日はどうすかという話になる。

 ベスが今日は予定がないと言う。


「それならベス、少しだけ付き合ってくれない?」

「なんですの?」

「薬師組合で買ったもので作りたいものがあるんだ」

「ドリーが言っていたものですわね。構いませんわ」


 ベスが同意してくれたところで、部屋に戻ってシャンプーとコンディショナーを作ることにする。

 実は昨日エマ師匠とエレン師匠から相談されて、ベスは魔道具作りに興味がないと思うが、やり方を覚える程度には物作りに慣れさせたいとのことだった。


 シャンプーとコンディショナーは初めての素材で作ったが、ドリーが調整してくれたので分量さえ間違えなければ危なくは無いはずだ。

 ドリーは感覚で必要量を予想できる能力を持っている。


「エド、魔道具を借りてきました」

「エマ師匠、ありがとうございます」


 エマ師匠が借りてきてくれたのは、酸性やアルカリ性が分かる魔道具だ。

 魔法使いが成分を分離できるので、人間に有害な成分かどうか調べるための魔道具が揃っているらしい。

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