薬師組合−2
俺とドリーは普段から用意していた薬を思い出して、グレゴリーさんに薬師組合にある素材まで案内してもらう。
色々と素材を買っているからだろうか、エマ師匠からどのような薬を作るのかと尋ねられた。
俺とドリーは熱冷ましから傷薬と様々な薬を上げていく。
皆からそんなに作れるのかと驚かれる。
「免状を持っている薬師ならその程度は作れますよ。アルバトロスでは少々珍しい薬も入っているようですが」
「そうなんですか?」
「内陸特有の病気に使う薬がありますね」
確かにアルバトロスは沿岸部だから必要がなさそうだ。
ターブ村で薬を作る時と同じように揃えてしまうところだった。
グレゴリーさんの助言に感謝を伝えて、買う予定の素材を減らす。
素材を揃えていくと、服を引っ張られた。
俺の服を引っ張るのはドリーしかいない。どうしたのかと尋ねる。
「にーちゃ、シャンプーとコンディショナーほしいの」
「確かに。重たくて持ってこれなかったからな」
地球のシャンプーとコンディショナーとは違って、ターブ村ではそれっぽい物を作っていただけだ。
それでもドリーは気に入っていた。
ドリーが遠慮気味なのはお金の心配をしているのかもしれない。
山羊を売ったお金などあるので十分足りるだろう。
それにグレゴリーさんに魔法使いが作るという素材を見せてもらった時に、シャンプーやコンディショナーを作れそうな素材があった。
しかも以前作ったものより素材が良いので、良さそうな物が作れそうだ。
それらの素材を買い揃えることにする。
グレゴリーさんにお願いして追加で素材を注文した。
グレゴリーさんが素材の代金を出してくれたので、お金を払おうとすると、エマ師匠が払ってしまった。
「エマ師匠?」
「欲しい薬ができたら二人にお願いするので、今日は私に払わせてください」
「えっと……。ありがとうございます」
エマ師匠が気を遣ってくれたのが分かる。
俺は断るのも失礼かと考え、エマ師匠にお礼を言った。
買った素材に関しては組合が協会まで運んでくれる事となった。
グレゴリーさんが書類を持ってきたので、部屋の番号などを書き込んで荷物が届くよう必要なことを書き込んだ。
用事は済んだので、グレゴリーさんにお礼を言って組合を出る。
馬車に再び乗ると、ベスがまだ時間があるので狩猟をしたいと言い出した。
「確かにまだ時間はあります。エリザベス様、鍛錬ではなく狩猟でよろしいので?」
「昨日もう少しだったのが悔しいですわ」
「なるほど。分かりました」
テレサさんの返事を聞いたベスは、持っていた大きな袋から弓を取り出した。
ベスは最初から狩猟に行くつもりだったようだ。
テレサさんは弓を一瞬見たが何も言うことはなかった。
昨日と同じように、貴族が狩猟する時に使う場所へと向かう。
馬車を降りると俺とドリーも持ってきた弓を取り出す。
「今日こそは当てますわ」
ベスはかなり気合が入っている。
俺とドリーが先導して小動物を探す。
ベスに動物の痕跡をどうやって辿れば良いか話しつつ、森の中へと進んでいく。
ウサギを見つけると、ベスに合図を出す。ベスがゆっくりと弓を構えた。
次の瞬間矢が放たれ、ウサギ刺さる。
「やりましたわ!」
弓が慣れていたのもあるだろうが、最初から当てられるとは思わなかった。
それに二日目で当てられたのも凄い。
ベスと一緒にウサギの解体をしていく。
昨日もそうだったがベスは解体を嫌がることなくしている。貴族は解体などをしたがらないかと思ったが違うのかもしれない。
ベスが例外の可能性も高いか……。
解体を終えて、次の獲物を探して歩き回る。
ベスは今日は弓で狩っていくと言って、交代しようと提案してきた。
三人で狩を続けていると、俺は猪の痕跡を見つけた。
「テレサさん、猪がいるみたいんなんですが」
「魔法が使えるなら問題ないですが、今はまだ危ないですね……」
「罠を仕掛ける訳にも行かないし、どうします?」
「出てきたら私が相手をしましょう」
引き返したりはせず、そのまま進むことになった。
小動物以外で見つけた、山羊を三人で狩った時に後ろから気配がした。
「テレサさん!」
「三人は固まってエマとテレサの近くに」
テレサさんが盾を構えて剣を抜くと同時に、茂みの中から猪が現れた。
成獣の猪で森の恵みをたらふく食べたのだろう、普通の猪より随分と大きい。
猪の巨体だと、俺とドリーでは罠に嵌めても倒すのは難しかったかもしれない。
猪はこちらを見たと思ったら、一番近くにいたテレサさんに突っ込んでいった。
テレサさんの魔力が動かないので不安になるが、俺にはどうすることもできない。
猪はテレサさんの盾にぶつかったのか凄い音がする。次の瞬間、テレサさんが持っていた剣を振るう。
剣で斬られたのだろう。猪の悲鳴が聞こえた。
「もう問題ありません」
「テレサさん、怪我はないですか?」
「この程度なら問題ありません」
本当に平気そうで驚く。
猪の突進を正面から受け止めて怪我がないのか……。
俺が驚いていると、テレサさんが魔道具を使っているので平気なのだと教えてくれた。
普通の盾や鎧に見えるが、魔道具だったのか。
魔道具は少し便利な物程度に思っていたが、想像以上に効果がありそうだ。
他に猪が近くにいないか確認をして、山羊と合わせて猪を解体していく。
猪が巨体だったので結構な量になってしまった。
「エリザベス様、今日は少し早めにお帰りになった方がよろしいかと」
「確かに連日遅くなるとお母様に怒られますわ」
「今日はここまでと致しませんか?」
「分かりましたわ」
ベスがテレサさんの提案に頷いている。
俺とドリーにも、ベスから問題ないかと聞かれる。
山羊を一頭狩れれば十分だろう。
「連日山羊を狩れてるから十分だよ」
「それでは帰りますわ」
山羊と猪を持ち帰って、今日は帰還することになった。
ケネスおじさん、エマ師匠、エレン師匠も手伝ってくれて、肉を分けて持ち帰る。
そう離れている訳ではないので、すぐに馬車にたどり着く。
馬車に肉を積み込んだ後に、俺たちも順番に馬車に乗り込んでいく。
馬車が進み始めると、テレサさんが声をかけてきた。
「エドは、何故ダンジョンに行きたいのですか?」
「何故って言われると深い理由はないんですが、師匠だったケネスおじさんがダンジョンに行っていたって聞いたのが大きいかな?」
「そうですか」
テレサさんは、ダンジョンは稼ぎやすいと同時に危ない場所だと言う。
普通の動物とダンジョンの動物では行動が違い、ダンジョンの動物は人を見かけると襲ってくるのだと教えてくれた。
逃げられないのは良いが、襲ってくるのか。
ダンジョンと外では違うということを、しっかり覚えておかないと怪我をしそうだ。
テレサさんからダンジョンのことを聞いていると、今度はベスから声をかけられた。
「ところでエドはドリー以外の兄弟はいないんですの?」
「兄弟? 兄がいるけど?」
「双子だったりしますの?」
「違うけど?」
何故そのようなことを聞くのか不思議に思いつつ、子供の頃から俺を知っているケネスおじさんにも俺が双子かどうか確認する。
ケネスおじさんは、俺に双子の兄弟はいないと言う。
聞きたかったのはそれだけだったようで、ベスは頷いている。
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