薬師組合−1
俺は朝起きると、ケネスおじさんに挨拶をして支度をする。
昨日は山羊が二体だけだったこともあって、テレサさんが買い取って帰って振る舞うと言うので全て渡してしまった。
ベスの初めての狩猟だったみたいだし、良い記念になるだろう。
エマ師匠が尋ねてくるまでポンチョを縫って待っている事にする。
ポンチョを縫っているとドリーが起きて朝の準備を始めた。
ドリーの支度が終わったところで、扉がノックされる。ドリーが扉を開けると、外にはエマ師匠が遠目で見えた。
「ドリー起きていましたか」
「うん!」
ドリーは随分とエマ師匠と仲良くなっている。
昨日もお風呂に一緒に入っていたし、徐々に俺の側にいなくても良くなってきた。
まだ不安そうな顔はするが、アルバトロスで生活していれば徐々に変わっていきそうだ。
そんなことを考えながらも、俺は手を止めないでポンチョを縫い続ける。
エマ師匠にすごい速さだと驚かれた。
ミシンほど早くないが、手縫いだと考えれば早いのだろうか?
他の人と比べたことがないので分からない。
ポンチョを縫っているとベスがやって来た。
俺はポンチョを縫うのを止めて魔法の訓練をするために移動する。
「今日も昨日と同じように魔法で水の玉を作ってもらいます。魔力は全て出し切るように」
エレン師匠の説明の後に、今日の魔法を使う順番を決める。
今日は昨日とは違った順番で魔法を使うことになった。
ベス、ドリー、最後に俺と、順番を毎日回していくことに決めた。
ベスが魔法を使うと、昨日のドリーより少しだけ長い時間維持できた。
意識も失っていないようだし、かなり進歩している。
次のドリーはベスよりも更に長い時間魔法を維持している。
俺の番が回ってきた。
今日も同じように記憶を思い出すのだろうかと考えながら前に出る。
「エド、今日は魔法を消すのを間に合わせるので安心してください」
「はい」
初めて魔法を使う時より緊張しているかもしれない。
杖を掲げて魔力を動かそうとする。
昨日より簡単に魔力が動く。
動いた魔力を杖から出して水の玉へと変える。
水の玉は安定して浮いている。昨日のようにショッツとの記憶などを思い出したりはしないようだ。
安定している水の玉を見ていると、既視感のようなものを感じる。
記憶の中でショッツが大量の魔力で魔法を使っていたのだと思い出す。
だからショッツは神と名乗らず、神みたいなものと言っていたのか。
余計な事を考えていたからか、魔法が不安定になってしまう。
制御が出来なくなって水の玉が崩れたと思ったら、魔法は消えた。
「エド、随分と長く魔法が維持できましたね」
「え? あ、はい」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
エマ師匠に話しかけられたが、咄嗟に何が起きたか理解できなかった。
エマ師匠が言うには長く魔法を維持できたようだ。
ショッツの事を思い出せたのだし、ある程度の時間は本当に維持できたのだろう。
エマ師匠が魔法の訓練はこれで終わりだと言う。
どうやら今日は座学もないようだ。
「ではエドとドリーの薬師としての登録をしに行きますわ」
「ベス、ありがとう」
昨日と同じように協会で馬車を借りて、皆で馬車に乗る。
薬師組合は冒険者ギルドに比べたら、協会に近い場所にあるようですぐにたどり着いた。
薬師組合の建物は巨大な倉庫のような見た目をしている。
中に入ると実際に倉庫として使われているのか、奥には大量の素材が積まれているのが見える。
ベスが薬を輸出もしていると言っていたし、大量の薬が作られているのだろう。
「エマ様、薬師組合に何かご用でしょうか?」
「薬師の免状があるのだけど登録できる?」
「登録ですね。免状を書いたのはアルバトロスの薬師でしょうか?」
「違うのだけれど、調べられますか?」
「担当を変わりますので少々お待ちください」
エマ師匠が慣れた様子で受付の女性と話をしている。
エレン師匠が、エマ師匠は仕事で組合に出入りしているのだと教えてくれた。
魔法使いも薬を必要とするのか。
席を離れていた受付の女性が、男性を連れて戻ってきた。
エマ師匠やテレサさんと知り合いだったようで、頭を下げている。
「薬師組合のグレゴリーが対応させて頂きます」
「弟子のエドワードとドロシーの免状を調べて欲しいのだけどお願いできる?」
「承知いたしました」
グレゴリーさんは時間がかかるのでと、別室へと案内してくれた。
アルバトロスで活動できる薬師の一門には種類があって、登録できない場合もあるとグレゴリーさんが教えてくれる。
薬師の一門には名簿が存在するが、アルバトロスにある物が最新ではない可能性があるのだとも言う。
登録できるか不安になるが、オジジからもらった免状をグレゴリーさんに手渡す。
免状の中身を見たグレゴリーさんが、登録できる一門だと言った。
後は名簿にオジジの名前があるかどうかだ。
名簿を調べるのは時間がかかるので、少々お時間を頂きたいとグレゴリーさんが言う。
テレサさんが問題ないと言って頷くと、グレゴリーさんが免状を持って調べに行った。
待っている間に、先ほど受付をしていた女性がお茶などを持ってきてくれた。
「お待たせいたしました。バートン様の名前を名簿で確認できました」
バートンと言われて一瞬誰だと思ったが、オジジの名前だ。
村では皆オジジとしか言わないのですっかり忘れていた。
「それでは登録できるんですか?」
「はい。ところでお聞きしたいのですが、免状にエドワードとドロシーと書かれておりますが……」
グレゴリーさんが、俺の後にドリーを見ている。
ベスを見ないということは、ドリーがドロシーだと理解しているのだろう。
ドリーの年齢が問題なのだろうか?
薬師には年齢制限があるのかと俺が尋ねてみる。
グレゴリーさんが年齢制限はないが、珍しいことなので事情を話せるのなら教えて欲しいと言う。
俺が話そうとすると、テレサさんが口止めをしている。グレゴリーさんが頷いた後に俺が事情を説明する。
「そうですか。大変でしたね」
「協会やギルドで登録した出身地がアルバトロスになっているのですが……」
「分かりました。組合も同じように書類をお作りしましょう」
テレサさんもグレゴリーさんにお願いをしてくれた。
薬師組合に所属するための書類が完成すると、グレゴリーさんが組合証を持ってきた。
俺とドリーは首に下げている紐に組合証を一緒にした。
グレゴリーさんからせっかくなので、組合の中を見ていかないかと誘われる。
ベスも居るのでどうしようかと思ったが、ベスが見てみたいと言うので案内してもらうことに。
「薬師組合は薬の買取販売だけではなく、素材の買取から販売までしています」
「色々素材があるんですね」
「魔法使いにしか作れない素材なども揃えていますので、種類は豊富ですよ」
魔法使いにしか作れない素材とはどのような物かと尋ねると、成分をより分けた物だと言う。
色々な成分がより分けられているようで、薬師に役立つ物だけとはいえ色々と揃っている。
重たくなりそうな物はターブ村に置いてきてしまったので、薬も少量しか持ち運べてない。
グレゴリーさんに今も素材を買うことは可能か尋ねると、買うことはできると言う。
いくつか必要な素材を買って帰ることにする。
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