魔法使いの弟子−5

 俺の不安を理解しているのか、テレサさんが最近狩猟が流行りではないので、放置されていて平民も出入りしているはずだと言う。

 それはそれで良いのだろうか……。


 ベスが狩猟できる場所は限られていると言うので、一度行ってみる事になった。

 ライノに見送られて、俺たちは再び馬車に乗る。

 馬車は狩猟ができるという森へと向かう。


「森自体はかなり広いため、奥までは行かないように」

「分かりました。危険な動物や魔物は出るんですか?」

「狩猟用の場所なので危険はないですが、魔物や危険な動物が移動してきている場合があります」


 貴族が大規模に狩猟する時は事前に調査するが、今回はそうではないので奥までは行かないようにとテレサさんから注意を受ける。

 ベス一人だと調査をするより、周りを固めた方が守るという意味では簡単か。


 街の中から外に出ると、馬車の揺れが大きくなる。

 揺れると思っていると、これでも街の近くだから揺れが少ないとテレサさんが教えてくれた。

 馬車に揺られて一時間もかからないうちに目的地にたどり着いたようだ。


「エリザベス様、ここからは危険だと判断しない限りは手を出しません」

「分かりましたわ」


 槍を持ったベスが前に進もうとするのを止めて、俺とドリーは弓に弦を張って準備をする。

 準備ができたところで、ベスと獲物を見つけてからの順序を相談する。

 最初は俺とドリーが弓で相手を負傷させて、ベスがとどめを指すのが良いのではないかと提案した。


「確かに普通に近づいても逃げられそうですわ」

「ベスだったら慣れれば槍だけでも近づけるかも」

「そうなんですの?」

「最初は無理だと思うから後で試してみない?」

「試してみたいですわ」


 ベスの戦う姿は本当に凄かった。

 獲物に悟られない位置取りを覚えて、近づくことさえできれば倒すことは可能だと思う。

 森に入りながらベスに位置取りを教える事にする。


 俺とドリーが前に出て森の中に入る。

 森の中は木々の間が空いているので、比較的見通しが良い。

 貴族が狩猟に使うと言っていたし、管理がしっかりとされているのだろう。


 森の中には動物の痕跡も多く見られる。

 最初は簡単な獲物が良いが、小動物だと弓で倒せてしまう。もう少し大きな獲物が居ないかと痕跡を見極める。

 良さそうな山羊らしき痕跡が見つかった。


「ベス、山羊だと思う痕跡を見つけたから追ってみる。戦う時は角に注意して」

「分かりましたわ」


 ベスに森の歩き方を教えつつ、山羊の痕跡を追っていく。

 山羊は想像以上に近くにいた。

 指先で山羊がいる場所を指さすと、ベスも山羊を発見したようだ。


 俺とドリーが弓を番える。

 しっかりと狙いをつけてると、ドリーに続いて矢を射った。

 首付近と足にしっかりと矢が刺さった。


 矢が刺さったと同時にベスが走り出して、一瞬でヤギとの距離を詰めて槍の穂先を差し込んだのが見えた。

 山羊は一瞬暴れたが、すぐに倒れ込んでしまう。

 矢ではそこまで早く倒れないので、ベスが刺した場所が良かったのだろう。


「やりましたわ!」

「ベスは一度目でしっかりと槍を刺せるなんて凄いな」

「そこは訓練しましたから。ですがわたくしだと見つけられたかも怪しいですわ」


 次の獲物を探す前に山羊を処理してしまう。

 処理に関しては時間がかかるだろうと、テレサさんが手伝ってくれた。

 木に吊るしたり魔法で冷やしたりと手伝ってくれて、ベスも参加して解体をしてく。


 エマ師匠、エレン師匠、ケネスおじさんも手伝ってくれたので、ベスに教えながらでも解体はすぐに終わった。

 もう一匹山羊を狩ったところで、ベスに一人でやってみないかと提案する。

 やる気になったベスが挑戦するが、やはり難しいようだ。


「助言を色々と頂きましたが近づく前に逃げられますわ」

「ベスって弓は使えるの?」

「槍や剣より苦手ですが使えますわ」

「弓を使って小動物から練習してみない?」

「試してみたいですわ」


 俺の弓をベスに貸してウサギや鳥などを狩ってみる。

 やはり最初は弓を構える前に逃げられることが多かった。

 数回失敗して帰りの時間を考えると、次が最後にするかと獲物を探し出す。


 ベスに今日は最後にしようと伝えると気合を入れている。

 最後のウサギは矢は当たらなかったものの、矢が放たれるまで逃げられる事はなかった。

 気配の消し方というか、動物に悟られないような動きを覚えてきたようだ。


「惜しかったな」

「当たりませんでしたわ」

「弓が慣れたのじゃないし当たらないのは仕方ないと思う。それより逃げられなくなったから上達してるよ」

「言われてみれば確かにそうですわ」


 また来ようと話しながら馬車に戻る。

 今日は結構森の中を歩き回ったが、テレサさんの言った通り危険な動物の痕跡は見当たらなかった。

 水場が若干少なそうではあるが、良い森だ。


 ベスから手に持っている草や実は何かと聞かれる。

 弓を貸していると獲物を追うだけになってしまうので、薬草や食べられる物を採取しながらベスを誘導していた。

 草や実を見せながら説明していく。


「エドは随分と薬草に詳しいですわね」

「俺とドリーは薬師に技術を教わっているから」

「エドとドリーは薬も作れるんですの?」

「薬作りは俺よりドリーの方が得意だよ」


 俺とケネスおじさん以外がドリーが薬作りが得意というのに驚いている。

 確かにまだドリーは子供だが、俺以上に薬師としての才能がある。

 薬師は普通一族にしか技能を教えないが、オジジはドリーの才能を見込んで薬師としての知識を授けてくれた。


 そういえば村から出る時に、オジジから免状をもらったことを思い出す。

 免状はどこに出せば良いのかと疑問に思って尋ねてみる。

 エマ師匠が薬師組合に免状を出せば、審査の上で薬師としてアルバトロスで活動できるようになると教えてくれた。


「薬師組合なんてあるんですか」

「そうです。アルバトロスだと薬師組合に所属していない薬師は、薬師としてみなされません」


 薬師として認められないとは中々厳しい。

 テレサさんが大きな街には薬師組合があって、薬師を管理しているのだと言う。

 ベスが更にアルバトロスは貿易の街でもあるので、薬を輸出している事もあって品質を厳しく管理していると教えてくれた。


 明日にでも薬師組合で薬師として登録してきた方がいいとテレサさんに言われる。

 確かに免状があるのだし、薬師と認めてもらうためにも薬師組合に早めに言った方が良さそうだ。

 ベスが明日薬師組合に行くのを付き合ってくれると言う。せっかくだし、ありがたく受け入れる。


 馬車に戻ると弓を片付ける。

 狩った山羊を乗せて、俺たちも馬車に乗るとテレサさんから褒められた。


「二人とも想像以上に猟師としての技量が高いです。獲物を見つけるのもそうですが、森の中を歩き回ったのに迷いなく馬車に帰ってきましたし」

「故郷の森に比べたら歩きやすいですから」

「確かに整備されてはいますが、初めて入った森でそれだけ歩けるのは凄いと言えます」


 そこまでテレサさんに褒められるとは思わなかった。

 だが俺よりベスの方が凄いと思う。

 初めての狩猟だろうに、最初から山羊にとどめを指している。その後は弓でもう少しで狩れそうなところまで行っていたし。


 ベスが何故そこまで戦う事を真剣に取り組んでいるのかが気になってきた。

 聞いて良いのかと思いつつも、ベスに何故そこまで修練を積んでいるのかと尋ねてみた。


「お父様のようになるためですわ!」

「ベスのお父上は強いの?」

「とても強いですわ!」


 テレサさんの方を見ると、頷いている。

 騎士であるテレサさんが頷くほど強いのか。


 ベスの話を聞きながら協会に帰ると、制服を作る業者が待っていて俺とドリーは急ぎ採寸をする。

 テレサさんが採寸結果を聞くと、ベスを連れて帰っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る