魔法使いの弟子−3

 エマ師匠が俺に近づいてきた。

 エマ師匠は俺に抱きついているドリーに魔法を使うのをどうするか尋ねている。

 俺もドリーにどうするか尋ねてみる。


「ドリー、魔法を使えそうか?」

「……うん。やる!」


 すでに泣いては居なかったドリーは元気に返事をした。

 ドリーはエマ師匠に魔力を感じられているか尋ねられている。ドリーは分かると元気よく返事をした。

 エマ師匠に連れられてドリーは俺たちと距離を取る。


 エマ師匠と離れて一人で立ったドリーが杖を構える。

 俺やベスと違って、すぐにドリーの魔力が動き始めた。

 随分と綺麗に魔力を動かせているように見える。


 魔力が杖から出たところで大きな水の玉になった。

 ベスより長く魔法を維持できているので、一度目で成功したのかと思ったら水の玉が球状の形から崩れていく。

 ベスの時と違って、エマ師匠とエレン師匠がドリーの魔法に魔力で何かをしたのが分かった。


「ドリーは魔法の制御を成功させたかと思いましたわ」

「俺もそう思ったよ」


 ベスの言葉に俺は同意する。

 ドリーはふらつきながらも一人で俺たちのところに戻ってきた。

 三人だと魔法を使う適性はドリーが一番なのかもしれない。


 ドリーが俺の隣に座り込む。

 俺のせいで魔法が怖くなってないかと心配になるが、ドリーは力が抜けた様子ではあるが嬉しそうに笑顔だ。

 どうやら魔法が怖いなどと言うことはないようだ。


「三人とも想像以上に早く魔法が発動できました。エドは魔法を消すのが遅くなって申し訳無かったです」

「気にしないでください。ドリーやベスじゃなくて良かった」

「エドも同じ弟子ですから良くはないですよ」


 エマ師匠とエレン師匠から再び謝られた。

 俺としてはエマ師匠に伝えた通り、ドリーやベスでなくて良かったと思っている。

 それに魔法を消すことができなかったのは、ショッツによって能力を弄られているからかもしれない。伝えることはできないが、二人が悪くない可能性もある。


 エマ師匠が続けて少しだけ座学をすると言ってきた。

 離れていても魔力を感じられるようになったかと、エマ師匠が質問をしてきた。

 聞かれたことで、当然のように魔力を感じられるようになっている事に気づく。


 魔力を使い切った俺たちと、ケネスおじさんには魔力が感じられない。

 エマ師匠、エレン師匠、テレサさんからは魔力が感じられる。

 それにベスとドリーが魔法を使った時に魔力が動いたのも良く分かった。


「魔法使いであれば魔力を感じられます。人間以外だと魔物も魔力を持っています。ダンジョンに行くなら覚えておくと良いですよ」

「魔物も魔力を持っているのですか?」

「そうです。なので魔物は何らかの魔法を使ってきます」


 動物と魔物の差は何だろうと思っていたが、魔法が使えるかどうかだったのか。

 ベスやドリーの魔力が動くのが分かったということは、魔物の魔力も動きで魔法を使ってくるかが分かるのか。

 逆にいえば魔法が使えない人は魔力の動きが分からないので、魔物の相手は大変ということだ。


 ケネスおじさんから怪しい動物を見たら逃げろと言われた理由が分かった。

 ターブ村近くの森は奥まで行かないと魔物は出ないとは教わっていたが、俺とドリーは森に出入りしていたので注意していた。


「慣れれば魔法を使ってくるかどうか判断できるようになるので、魔物相手でも戦いやすくなります」

「魔力が移動するのは分かったので、確かに魔法を使うかどうかは分かりますね」

「エドは魔力が移動するのを感じられたのですか?」

「はい」

「早いですね。普通はもう少し時間がかかるのですが……」


 ベスとドリーも感じられたとエマ師匠に伝えている。

 するとエマ師匠とエレン師匠が驚いた表情をした。

 エレン師匠が魔力を感じた時の状況を聞いてきたので、俺たちが答えていく。


 質問の後に、魔力を少なく出したり多く出したりして、俺たちに魔力を感じられるかと試した。

 その後、エレン師匠は仮説ですがと前置きして、魔力量の多さが魔力を感知するのに効果が高かったのではと話し始めた。


 エレン師匠は続けて仮説を証明したいと実験をしようとしたところで、エマ師匠に止められた。

 エレン師匠は真面目な人だと思っていたが、思っていた真面目さとは違う気がしてきた。

 どちらかというと研究者のようだ。


 残念そうなエレン師匠を後ろに下げたエマ師匠が話しかけてきた。


「今日の座学はこの程度で、早めの昼食を食べて冒険者ギルドへ向かいましょう」

「はい」


 昼食を食べるには少し早すぎるが、ベスも居るし適当な店で食べるのは不可能だろう。

 いつでも食事を提供してくれるという、協会の食堂へ移動して食事を食べ始める。


 食事を食べ始めて気づいたが、いつもより食べる量が増えている。

 早い昼食なのに、何でこんなに食べられるのだろうか?

 ドリーの様子を見ると同じように大量に食事を食べている。

 おかわりを貰うか迷っているとエマ師匠が声をかけてきた。


「エド、ちょっとした座学です。魔法使いは魔法を使うと食事量が増えます」

「食べる量が増えるんですか?」

「食事量が増えても太る心配はありませんよ。魔法使いで太った人は見たことがありませんから。むしろ食費の方を心配するべきですね」


 エマ師匠からお腹が膨れるまで食べてみなさいと言われたので、おかわりをして食べ続けてみる。


 三回おかわりをしたところで満腹になった。

 協会の食事は無料なので安心だが、外で食べたら恐ろしい事になる。

 俺は外で食事をしないことに決めた。


 俺だけではなくドリーも二回おかわりをしており普段以上に食べている。

 ドリーは自分のお腹を見て首を傾げて不思議そうな表情をしている。

 どこに入ったのか俺も不思議だ。


「こんなに食べられるなんて不思議ですわ」

「ドリーも、ふしぎ」


 ベスはドリーと不思議だと、お互いのお腹を触り合っている。

 ちなみにベスは俺と同じ三回おかわりしていた。


 エマ師匠から魔力量が多い俺たちは、食べる量も多いのだと言われる。

 俺たち三人は魔力量がほぼ同じで、ドリーが食べる量が少ないのは身長的なものだろうとエレン師匠が教えてくれた。

 魔力量が多いと食べる量も増えるのか。


「魔力を回復させるのは、十分な食事と睡眠です。魔力を使い切ったら、たくさん食べて寝る事」

「エレン師匠、食べて寝たら魔力は回復するんですか?」

「そうです。どちらかが不足していると魔力が全て回復しません」


 魔力の回復は食事と睡眠なのか。

 テレサさんが騎士は長期間の演習をすると、睡眠時間が足りなくなって魔力が全て回復しないこともあると教えてくれた。

 外だと確かに魔力を回復させるのが大変そうだ。


 エマ師匠が、だから協会は寝る場所と食事は無料なのだと教えてくれる。

 確かに貴族出身の魔法使いは良いかもしれないが、平民の魔法使いは稼げるようになるまで食費が大変な事になりそうだ。


「食事も終えましたし、ギルドへ向かいましょうか」

「はい」


 エマ師匠が馬車を借りてくるので、協会の前で待っていて欲しいと言ってきた。

 俺が馬車の借り方も知りたいと思って、一緒に付いて行っていいかと尋ねると問題ないと言われる。

 それなら一緒に行くと結局皆で一緒に行動する事になった。


 協会の馬車を借りるのは簡単で、今後必要になったら自分で借りられそうだ。

 エマ師匠から協会の魔法使いであれば、馬車は無料で使えるので覚えておくと良いと言われた。

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