魔法使いの弟子−2
服の仮縫いが終わったところで、エレンさんが話しかけてきた。
エレンさんの手には真新しい杖が握られており、杖の柄の部分を俺とドリーに向けて渡してきた。
ドリーが「つえ!」と興奮した様子だ。俺も初めての杖に少し興奮している。
「急ぎだと言ったからか、徹夜で作業していたようです」
「徹夜までしてくれたんですか?」
「魔道具を作るような魔法使いは大半が徹夜で作業したり、朝と夜が逆転している人が多いです」
魔道具を作る魔法使いは、不養生な研究者という感じなのだろうか?
何にせよ今は作ってもらえた杖をありがたく使わせて貰う事にする。
早速魔法を練習しようとなって、魔法協会の訓練場にまで移動する。
最初にエマ師匠から魔法は一人ずつ行うと説明された。
エマ師匠はケネスおじさんに見学を許可するが、魔法が使えてしまった場合は、最悪暴走して死ぬ可能性があるので人には教えないようにと注意している。
ケネスおじさんはエマ師匠に深く頷いている。
「私が魔法を使うので、魔力を感じるために私に皆で触れてください」
「分かりました」
「ゆっくり魔法を使うので魔力が動くのが理解できるはずです」
俺、ドリー、ベスがエマ師匠の体に触れると、エマ師匠が杖を構えた。
エマ師匠の体から何かが動いたと思ったら、杖の先に水の玉が浮かび上がった。
重力を感じさせない水の玉は空中を漂っている。
地球の知識からすると、無重力で水を浮かべたようにも見える。
水の玉を見ていると、急に消える。
「魔法を使う前に、魔力が動いたのが分かりましたか?」
「何かが動いたのが分かりました」
「エドは感じられましたか。ドリーとエリザベス様はどうですか?」
「うーん?」
「
二人は魔力を感じられなかったようだ。
エマ師匠はまず俺から魔法を練習しようと言って、俺の周りから距離を取って離れるようにと指示をした。
俺の近くにはエマ師匠とエレン師匠だけが残った。
エマ師匠が全ての魔力を使い切るつもりで魔法を使うようにと指示をしてきた。
魔力が無くなっても問題ないのかと尋ねると、魔力が無くなると若干の虚脱感があるが、体への影響はないとエマ師匠が返してきた。
虚脱感以上に量を調整して魔力を動かす方がはるかに難しいので全てを使うようにと説明をしてくれた。
「それと先ほど見せた水の魔法を思い浮かべてください。他の事を考えてはダメです」
「分かりました。……魔法を使います」
杖を前に掲げて先ほど感じた魔力らしき物を動かそうとする。
体内に感じる魔力は大きいのだが簡単には動かない。まるで体に張り付いているかのようだ。
魔力を無理やり体から引き剥がすように力を入れると一気に動いた。
急に動いた魔力に驚きつつ杖に向けて魔力を押し出す。
杖の先を出る前にエマ師匠に見せて貰った水の玉を想像する。
水の玉が出たのが見えて成功したと思った瞬間世界が暗転した。
『ここは?』
『君は死にました』
『は? あんた誰だ?』
『僕はショッツっていう。神みたいなものさ』
『神?』
どうやら記憶を思い出したようだ、今まで回想するかのように思い出したことはないが、エドとしての記憶ではない前世の記憶だとは分かる。
転生前の自分は考え方が違うので他人のように思えてしまう。
『正確には神ではないんだけど、今からやる事は似たようなものさ。ということで転生してみないかい?』
『転生?』
『少し僕の頼みを聞いてくれたら特典付きで転生させるよ』
『断ることもできるのか?』
転生に興味があるようだが、頼み事が何か分からないと、飛び付かずに慎重になっているようだ。
『もちろんさ。その場合は死んだままになるけどね。先に特典の内容だけでも聞いてみないかい?』
『なんか胡散臭いけど、聞くだけならタダだしな』
死んだままになると言う言葉に怯んだようで、話を聞く事にしたみたいだ。
俺が転生しているのだし、最終的には頼み事を引き受けたのだろうがまだ警戒はしている。
ショッツと名乗った神は、転生させるのは地球とは別の正解であり、魔法が使えるようになると言っている。
更に頼み事を達成できるように、身体能力や頭の良さを上げたり、言語や現地の知識を転生後の体に入れておくと、ショッツが説明している。
『魔法に関しては人に教えて貰うまで使ってはダメだ。これだけは覚えておく事』
『分かった。思ったより好条件にも思えてきた』
『頼み事をするのだからこの程度はね。それで頼み事の内容は……』
ショッツが頼み事の内容を話そうとしたところで、再び世界が暗転し始める。
遠くからエマ師匠の声が聞こえてくる気がする。
「エド! 起きなさい!」
「はぃ、がはっ」
俺はエマ師匠に返事をしようとして、まるで水が肺に入ってしまったかのように咳き込んでしまう。
エマ師匠が背中をさすってくれながら、回復魔法をかけると言っているのが聞こえた。
返事をすることもできなかったが、すぐに咳き込むのが止まった。
「エマ師匠。ありがとうございます」
「いえ、魔法の暴走を止めるのが遅れました。エドが無事で良かった」
咳き込んだ体勢から起き上がると、ドリーが抱きついてくる。
ドリーは泣いていて心配をさせてしまったようだ。
抱きついてきたドリーを抱きしめて落ち着かせる。
ベスも心配そうに大丈夫かと声をかけてきた。
俺は、もう何ともないので大丈夫だと返す。
どのような状態になっていたのかとベスを含めた皆に尋ねると、どうやら魔法の制御に失敗して意識を失って、水がそのまま落ちてきたと教わった。
確かに巨大な水の玉ができたのは何となく覚えている。
そこから転生前の記憶を思い出していたので、その間意識を失っていたのだろう。
俺はショッツという神について尋ねて良いかの知識が足りない。今はまだ隠したままにしよう。
「エドの魔力が多いのは分かっていましたが、想像以上の魔力で魔法を消すまで時間がかかってしまいました」
「俺は魔力が多いのですか?」
「ええ。私やエレンより随分と多いです」
俺は魔力量が多かったのか。
能力を上げると言っていたし、これもショッツからの特典なのかもしれない。
エマ師匠は不安かもしれないが、ドリーかベスの魔法の練習をすると言う。
ドリーが泣き止まないので、ベスがやる事になった。
エマ師匠がベスに魔力を感じるために体に触れるように言うと、ベスが俺の魔法を見たからか魔力がわかるようになったと返している。
「魔力の量が多かったので感じられたのかもしれませんね」
「勘違いかもしれませんが試してみたいですわ」
「分かりました」
エマ師匠から休憩しているようにと言われて、離れないドリーを連れてベスから離れる。
俺が離れたところで、ベスが杖を構えた。
ベスは俺と同様に魔力を動かすのに手間取っていたようだ。
しかしベスが気合を入れた声を出すと魔力が一気に動いたのが分かった。
魔力が杖から出て魔法へと変わるのが感覚的に理解できる。
水の玉が出来て一瞬だけ維持されたと思ったら、球状の形が不安定になった。
するとエマ師匠とエレン師匠が何かをしたのか魔法が消えた。
「あら?」
「エリザベス様、途中まで魔法が成功したのは覚えておりますか?」
「ええ。水の玉が出来たのは覚えています」
「制御を失ったことで、意識を一瞬失ったようです」
エマ師匠がベスに休憩しているようにと言うと、テレサさんに付き添われてベスは俺の近くに来た。
ベスは心ここに在らずといった様子だ。
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