魔法使いの弟子−1

 朝起きるとすでにケネスおじさんは起きていた。

 昨日はケネスおじさんにベッドを一つ使ってもらい、俺とドリーは二人で寝た。

 ドリーを起こさないように起き上がって顔を洗う。


 水道があるので便利だが、これも魔道具らしくエネルギー源となっている物が補給する必要があるので、あまり無駄遣いしないようにとは言われている。

 それも魔法を使えない間だけで、魔法を使えるようになれば自分で水を出せるようになるらしい。


 顔を洗った後は、ケネスおじさんとアルバトロスに来て良かったと話していると扉がノックされた。

 扉を開けるとエマさんが立っていた。

 まだドリーが寝ていると話しながら部屋に招き入れる。


「うー、おはよう?」

「起こしてしまいましたか。ドリー、おはようございます」


 久しぶりに熟睡できたからだろうか、ドリーはまだ眠そうに頭を揺らしている。

 エマさんがドリーの頭を撫でると徐々に起きてきたようだ。

 ドリーが顔を洗った後に、エマさんがドリーの髪を櫛で整えている。


 ドリーの支度が整ったところで、朝食を取りに食堂へと向かう。

 立派な食堂で基本的にいつでも食事が可能らしい。

 昨日の夕食を食べた時は食堂に人が多かったが、朝食は人がまばらだ。


 朝食を食べていると、エレンさんが近づいてきた。

 エレンさんは俺たちと同じ席に座る。

 エレンさんが挨拶をしてきた後に、話しかけてきた。


「先ほど連絡があって、エリザベス様の魔法を使う練習にエドとドリーを加えると決まりました」

「もう決まったんですか?」


 昨日の今日でしかも朝には決まるとは思っていなかった。

 エマさんも驚いた様子でエレンさんに本当かと聞き返している。

 エレンさんが聞いた話だと、ベスが賛成したのもあるが、テレサさんが推薦してくれたのも大きいとの事だった。


「基礎がしっかりしているので、今から鍛えれば将来的に大成できるだろうと言われたようです」

「確かに騎士の推薦は大きいですね」


 基礎がしっかりしていると言われても、俺はケネスおじさんに罠にかけた獲物の止めを刺すのに、棒の振り方を教わっただけなのだが?

 ケネスおじさんに棒の振り方に意味があるのかと尋ねると、剣の基礎であったことが分かった。

 剣の振り方だったのか知らなかった。


「ワシは弓が得意で、剣の振り方は基礎程度しか知らん。騎士に教えて貰えるならしっかりと学ぶといい」

「うん、分かった」


 ベスのように強くなるのは簡単ではないだろうけど、いつか同じくらい強くなれる事を目標に訓練しよう。


 エレンさんが今日もベスが協会に来ると言う。

 エレンさんが言うには、今日から魔法の練習を始めたいと思っているようだが、俺とドリーの杖がないので練習をできない可能性があるらしい。

 急ぎでお願いしたので出来ているか確認しておくとエレンさんが言ってくれる。


「今日は杖ができていたら魔法の練習をします。その後は冒険者ギルドへ向かう予定です」

「冒険者ギルドですか?」

「ええ。二人と狩猟がしたいとの事でした。ダンジョンに行くのは魔法を覚えてからのようですが、狩猟であれば許可が出たようです」


 流石にダンジョンに行くのは許可が出なかったようだ。

 それでも狩猟ができるのなら多少稼ぐことが出来るので安心できる。


 エレンさんが続けて、ベスと一緒に魔法を練習している時は、協会からの依頼となって給金が出るという。

 魔法を教えられるのに給金が出ると言われて俺は困惑する。

 エマさんから協会からの気持ちなので受け取っておくと良いと言われた。断る理由もないので受け取っておく事にする。


「ところで、エマさんがこれから正式な師匠という事になるんですか?」

「そうなりますね。実質エレンと二人の師匠となりそうです」

「それではエマ師匠、エレン師匠とこれから呼んでも?」

「呼び方は好きにして構いませんよ」


 俺はエマ師匠、エレン師匠と呼ぶ事にした。

 ドリーが俺を真似て、エマししょー、エレンししょーと若干舌足らずに呼んでいる。

 エマ師匠とエレン師匠がドリーに笑顔で返事をしている。


 朝食を食べ終わったところで、エレン師匠と別れて部屋に戻る。

 部屋ですることがないので、エマ師匠に貰った布を使って何か服を作ろう。

 ドリーに布を当てて何を作るのが良いかと考えていく。


 古着を買えるのなら、雨の時に雨具として使ったり、森を移動したりする時に使えそうなものが良さそうだ。

 雨ガッパに近いポンチョ的な服はどうだろうか。

 布に蝋を塗れば多少は水を弾きそうだ。


 作る物が決まったところで、裁縫道具がない事に気づいた。

 エマ師匠に相談すると、裁縫道具を借りられた。

 ポンチョであれば型を細かく取る必要がないので、ドリーの身長に合わせて布をちょうど良い大きさに切っていく。


 ドリーに切った布を当ててどうやって縫うか決めていると、部屋の扉がノックされた。

 俺が手を離せないだろうと、エマ師匠が出てくれた。

 エレン師匠の次に、ベスとテレサさんが部屋に入ってきた。


「二人とも何をしていますの?」

「ドリーの服を作ってるんだ。今形を決めているところ」

「エドが作るんですの?」

「そうだよ」


 ベスがどのような服なのかと尋ねてきたので、雨具になって森などの移動で使う物だと説明する。

 興味を持ったのかどのような形なのかと尋ねてきた。

 この世界の服にあまり詳しくないので俺には説明が難しい。困っているとエマ師匠が紙を持ってきてくれたので絵に描いて説明をする。


「エド、それはわたくしの分も作れませんの?」

「ベスの分? 作っても良いけど俺は素人だよ?」


 欲しがられるのは嬉しい。

 それにポンチョを俺とドリーの分を作ったら、ベスだけ着ていない事になる。せっかく三人で一緒に魔法を覚えるのだから、仲間はずれにはしたくない。

 しかしベスは貴族なので俺のような素人が作った物は問題がありそうだ。


 俺がどうしたものかと考えていると、テレサさんが服について確認をしてきた。

 服の目的を話して、エマ師匠が作った布で魔道具だと説明をする。

 エマ師匠が俺が着ている服は自作だと説明すると、テレサさんが俺の着ている服を確認している。


「私は騎士なので詳しくはありませんが、着古している割には解れがありません。私がエリザベス様の服を作る許可を出します」

「良いのですか?」

「ええ。ある程度の権限は頂いていますから問題ありません。服を製作した報酬も支払います」


 報酬か……。

 報酬を貰ってベスに服を渡すのも何か違う。俺の考えを伝えて報酬を断ろうとする。

 するとベスが代わりに何かを送ると提案してきた。


 確かに送り返されれば対等と言えるかもしれない。

 服を送ったのだから服を送り返して貰うのはどうだろうか?

 旅をしたこともあって服が限界だと説明をすると、ベスが何着か送ると言う。


「エリザベス様、それがよろしいかと思います」

「テレサも賛同してくれていますし、二人に服を送り返しますわ」


 送って貰う服の採寸をどうするかという話になって、今日中には協会の制服を発注するので採寸した結果を明日には渡す事になった。

 俺はベスに送るための服を作るために、ベスに丁度良い大きさに布を切って形を整え、仮縫いまでやってしまう。

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