アルバトロス−2
俺がエマさんが師匠にならないのを残念に思っていると、ドリーがエマさんを見上げているのが視界に入った。
ドリーの事を考えると、できればエマさんが師匠であって欲しい。
俺は事情を尋ねてみることにする
「エマさん、その事情は聞いても良いんですか?」
「……二人にも無関係とは言い切れないので話しましょう。魔法を使える才能がある子供に師匠が付いたのですが、人選を失敗してしまいましたのです」
協会も師匠を選ぶのに参加しており、随分と揉めているのだと教えてくれた。
才能のある子供についた魔法使いは経歴が嘘で固められており、協会も相手側も気づかなかったのだと言う
話を聞いた限りは本当に魔法使いなのだろうかという感じだ。
子供は完全に魔法を覚える気を無くして、協会は魔法を暴走させる危険もあるので、なんとか魔法を覚えさせようとしているのだとエマさんが教えてくれた。
そういえば魔法は下手に使えば死ぬのだった。
「近距離で戦うことが好きなようですから、暴走する可能性は低いですが……。それでも危険はあります」
「戦うことが好きなんですか?」
「ええ。女の子なのですがかなり鍛えています」
近距離で戦うことが好きだと言うから男だと思ったら、女の子なのか……。
「女の子なんですか」
「そうです。ダンジョンや狩りにも行きたいと言ってはいるようです。一人では無理だと許可が出てないようですが」
ダンジョンか。
実は俺も少しダンジョンに行ってみたい。
ドリーも戦えるが、流石に二人でダンジョンに行くのは難しいかと思っていた。人数が増えればダンジョンに行くのも可能かもしれない。
俺はエマさんにダンジョンに同じように興味があると言うと、困ったような表情をした。
ケネスおじさんが会話に加わって、俺とドリーが猟師としての能力があって戦える事を説明してくれた。
「エドとドリーには冒険者ギルドに登録をして、お金を稼がせるつもりだった」
「二人ともそこまで戦えるのですか」
「そうだ。どちらかと言うと採取の方が得意だが、魔物でなければ余裕で倒せる」
協会が無料で住めて、食事も出るなら必要はないかもしれないがと、ケネスおじさんは続けた。
確かに俺も猟師のような事をしつつ、薬師として稼ごうとは思っていた。
フロイドさんとエマさんが話し合っている。
エマさんが許可が出れば、一度会って考えてみないかと提案してきた。
俺が了承すると、魔法を覚える気を無くしてしまった子供が、この後協会に来るので会ってみることになった。
フロイドさんから、仮で部屋を用意して貰った。
仮なのは師匠の部屋の近くが良いだろうと言われた。今はエマさんの部屋が近い場所になっている。
俺とドリーは鍵のような物を渡されて、協会に入るための魔道具だと言われる。
「魔道具ですか?」
「鍵の形をしているけど、鍵ではないんだ。近づけば勝手に鍵が開くから」
「便利ですね」
魔法以外にも魔道具なんて物もあるのか。
鍵の魔道具に紐を通して、首から下げれらるようにフロイドさんがしてくれた。
ケネスおじさんも来客用の通行証をフロイドさんが渡している。
フロイドさんと別れてエマさんの案内で協会の奥に進む。
協会の建物は奥も広くて奇麗に整えられている。
魔法を使う時の訓練場だと言う場所までエマさんが案内してくれた。
訓練場にはエマさんとどこか似ている女性が立っている。
エマさんと似たような赤みがかった茶髪だが、髪が長く癖が少なそうに見える。
エマさんが事情を説明した後に、俺たちを紹介してくれた。
「私はエレン・フォン・グリソム。エレンと呼んで」
「エドワードと言います。エドと呼んでください」
「ドリーはドロシーっていうの」
名字がある人に初めて会った。
ケネスおじさんも自己紹介をして、俺とドリーに貴族だから失礼がないようにと言う。
名字がある人は貴族という事か。
エレンさんが、貴族と言っても騎士の娘で妻なだけなので気にする必要はないと言ってきた。
騎士は貴族といっても一番下に当たるので、一代限りになることもあるし平民とそう変わらないと教えてくれる。
リング王国ではフォンの後に名字があれば貴族だとも教えてくれた。
「魔法使いは貴族を相手にすることが多いので覚えておくと良いです」
「貴族を相手にすることが多いんですか?」
「ええ。というか魔法使いの大半が貴族の出身です。魔法使い同士が結婚すると高確率で魔法使いが生まれるのです」
リング王国では魔法使いを優遇していることもあって、貴族の大半が魔法使いなのだとエレンさんが教えてくれた。
魔法使いは遺伝しやすいのか。
俺とドリーのように両親が魔法使いでないのに、魔法使いが生まれるのは珍しいのかもしれない。
エレンさんと喋っているとフロイドさんが訓練場に入ってきた。
会う許可が出たので、このままお連れすると言う。
しばらくしてフロイドさんに変わって訓練場に入ってきたのは、騎士のような格好をした女性と、奇麗な服だが動きやすそうな服を着た女の子だ。
女の子は一四歳の俺と同じくらいの年齢に見える。
エレンさんがしっかりと礼をして対応し始めた。
エレンさんの様子からして相手は貴族なのだろう。
女の子が俺たちの方に近づいてきた。
「
「エドワードと言います。皆からはエドと呼ばれています」
「ドリーは、ドロシーなの」
「エドにドリーですわね。
ベスは名字を名乗らなかった。
愛称で呼ぶようにと言っているし、あえて貴族として対応しないという事だろうか?
気を遣ってくれているのかもしれない。
覚えるのが嫌になっていると言っていたし、怒っているのかと思ったがそうでもないようだ。
騎士のような格好をした女性とエレンさんの話し合いが終わったようだ。
「私はテレサ・フォン・アッダ。テレサと呼んでくれて構わない。様などはつけなくて良い。エリザベス様と一緒に魔法を覚えてくれると言うのは本当だろうか?」
貴族として名乗られているのに、流石に敬称をなしは難しい。
俺はテレサさんと呼ぶことにした。
テレサさんに俺とドリーが名乗る。
俺はターブ村から出てきた事情を話して、ある程度お金が稼ぎたい事を伝えた。
テレサさんは魔法使いを追い出すのかと驚きつつも納得はしてくれた。
ベスと一緒に行動を許可するのを今日返事はできないが、どのような技能を持っているか見たいと、手合わせする事をテレサさんから願われる。
俺は多少近接での戦闘もできるが、ドリーは小さいこともあって難しい。
ドリーを心配すると、テレサさんが攻撃を打ち込むつもりはないので安心して欲しいと言う。
それならばと俺とドリーはテレサさんに相手をして貰った。
「猟師の技能は私には分からないが、二人とも遠距離での攻撃が安定している。接近戦も形になってはいるし、年齢からすると十分だ」
「あ、ありがとうございました」
テレサさんは攻撃を打ち込んでいないのに、俺は上手いこと攻撃を流されて息が切れている。
俺が地面に座り込んで息を整えているとドリーの手合わせが始まった。
俺と違ってドリーは簡単に打ち込んで終わりだった。
俺とドリーの実力を見るのが終わったところで、ベスがテレサさんに相手をして欲しいという。
テレサさんが見せておいた方がいいかと言うと、ベスと稽古を始めた。
木剣を振るうベスは俺と比べ物にならないほど強いのが分かる。
才能があるのかもしれないが、それ以上に努力をしているのだろう。
テレサさんに転ばされても立ち向かっていく。
「凄いな」
「すごい!」
俺はドリーとベスの稽古を見続ける。
稽古が終わったところで、ベスがこちらを振り向いた。
俺とドリーを見て不思議そうに首を傾げている気がした。
ドリーが凄い凄いと、ベスに近づいて行った。
俺もドリーの後に続いてベスに凄かったと伝える。
ベスは何故か目を見開いて驚いた表情に一瞬変わった気がする。すぐに笑顔になって嬉しそうにしている。
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