アルバトロス−1
アルバトロスへと向かう船は途中で別の村に止まったりしながら、三日ほどかけて川を下った。
川を下り切って河口の先は海であろう場所に港が見えてきた。
「わー! あれがアルバトロス?」
「そうだ。あの港がアルバトロスだ。懐かしいな」
アルバトロスは船の上から見ると、川沿いには水車小屋が多く並んでいる。
稼働している水車の多さからかなり大きな都市だと言うことが想像できた。
船が港の桟橋に着くと、順番に乗客が降りていく。
俺たちも船から桟橋を渡ってアルバトロスの中へと入っていく。
まずは何処に行くべきだろうか?
「最初に協会に向かう」
「分かった」
ケネスおじさんの言う通りに協会へと向かう。
知識として地球の人の多さは知っているが、ターブ村から出て初めての人の多さに驚く。
港からアルバトロスの協会はかなり遠いようで、かなり歩いている。
小高い丘のようになっているのかゆるい坂道を登り続ける。歩きながらケネスおじさんがアルバトロスの地理について教えてくれた。協会は中心に近い場所にあるようだ。
「ここが協会だ」
協会は大きな建物で、ターブ村のどの建物よりも立派だ。
石造りで鹿のレリーフが彫り込まれている。
「おおきい」
ドリーが協会の建物を見上げながら驚いて口を開けている。
建物を見上げて固まってしまったドリーの頭を撫でる。ドリーが動き出したところで、俺たちは協会の中に入る。
外観だけではなく、中も大理石のような床で立派だ。
受付に近づいて受付の男性にケネスおじさんが話しかけた。
「いかがしましたか?」
男性は愛想良く聞き返してくる。
俺は宛名がアルバトロス魔法協会と書かれた紹介状を受付に差し出すと、受付の人が紹介状の表裏を見て開封した。
受付の人が開けていいのかと思いつつ、返事を待つことにする。
ウォルター協会長が書いた紹介状を読み終わったであろう男性は、紹介状の内容に驚いたようで目を見開きながら俺の方を向いた。
「魔法使いの卵を村から追い出すなんて初めて聞きました。書かれている事は本当ですか?」
とんでもない驚きようだ。しかし、初めて聞くようなことなのか。
俺が同意する。
「ワシも紹介状に嘘偽りがないことを証言する」
「失礼ですがあなたは?」
「村の猟師だ。二人を送り届ける役を引き受けた」
「猟師。どうにかならなかったのですか?」
「無理だ。ワシの家族まで村を追い出されてしまう」
「それは……」
受付の男性は絶句してしまった。
普通、子供を引き取っただけで村を追い出されるとは思わないだろう。
受付の男性は、事情も知らずに口出しした事をケネスおじさんに謝った。
「これからは協会が二人をお守りします、安心してください」
「そう言ってもらえると助かるが、二人が魔法を使えるか調べなくていいのか?」
「これは失礼しました。私は魔法使いのフロイドと申します。魔法使いは魔力を持っているかどうかを感覚で分かります」
魔法使いが受付を?
ケネスおじさんを確認すると、目を見開いて驚いている。俺と同じように予想外だったようだ。
「魔法使いが受付をするんですか?」
「魔法使いの依頼は魔法使いにしか答えられないことが多いのです。アルバトロスのような魔法使いが多い協会は、魔法使いが交代で受付を回しています」
なるほど。理由はわかったが、魔法使いが受付をしているのは驚きだ。
「協会へ所属するための書類を作ってしまいます。お名前は?」
「エドワードとドロシーです」
「出身地はアルバトロスにしてしまいましょう」
更に両親は不在とフロイドさんが偽装を続けた。
協会に所属するための書類なのに嘘だらけになっている。
良いのだろうかと思いつつも、フロイドさんが作っているのだし良いのかと納得する。
「宿は取られましたか?」
「ワシらは直接協会に来たのでまだ取っておらん」
「丁度いいですね。協会の建物は研究所であると同時に寮でもあります。部屋を二部屋用意するので住んでください」
「ドリー、にーちゃと一緒がいい!」
ドリーが慌てたようにフロイドさんに話しかけている。
俺としてもドリーと離れるつもりはない。
「同じ部屋に住んで構いませんよ」
「ほんとう?」
「ええ」
俺が話に加わる前に、フロイドさんが和かにドリーと話している。
同じ部屋でいいなら何故二部屋も用意するのだろうか?
「どうして二部屋なんですか?」
「備品の問題です。一部屋に一つしかベッドがありません、二人で住むなら別の部屋からベッドを移動させれば良いのです」
なるほど。ベッドも買ったら高そうだしな。
しかし二部屋も借りたらお金が足りるか不安になる。
「あの部屋の料金って?」
「一人一部屋無料で借りられます。食事も無料ですので好きな時間に食べられますよ」
部屋が無料で、食事まで無料……?
「本当に無料なんですか?」
「ええ。協会は独立した機関ということになっていますが、国や貴族から援助されています。資金はそこから出ています」
それはそれで怖い。
ただほど高いものはないと言うし。
「それだと貴族から無理は言われないのですか?」
「貴族から呼び出される可能性はありますが、寮に住んでいなくとも貴族の呼び出しは受ける必要があります。無理を言われた場合は教会が守りますので安心してください」
「守ってもらえるんですか?」
「ええ、協会は魔法使い同士の互助を目的として作られました。国が運営しないで別組織となっているのは、国からの干渉を最小限にするためです」
協会は想像以上に力を持った組織のようだ。
貴族社会なので貴族の言うことは絶対なのかと思っていたが、そうでもないのかもしれない。
「ドリーは、にーちゃと一緒でいいの?」
「ええ、問題ありません。余った部屋は物置か研究室にでもすればいいでしょう」
無料で部屋を二部屋借りられるのなら、将来的なことを考えてもその方が良さそうだ。
「次は魔法の師匠を決める必要がありますね」
魔法の師匠か。
フロイドさんはどうなのだろうか?
子供相手なのにとても親切にしてくれているし、ドリーも嫌がっていない。
「フロイドさんが師匠になれませんか?」
「私はアルバトロスを離れることが多いのです。優しい魔法使いを選びますので安心してください」
フロイドさんは、ドリーの方を向いて優しいと言って笑いかけた。
俺の心配を理解してくれたようだ、師匠選びは任せることにする。
名簿らしきものを取り出したフロイドさんが紙をめくって、エマがいいかもしれないと言った。
「どんな人なんですか?」
「エマは子供好きですね。優しいですし適任かと」
確かにドリーのことを考えると子供好きの方が良さそうだ。
「一度会ってみませんか?」
「はい」
俺が納得したところでフロイドさんは電話のようなものを手に取り、何か操作した後に喋り始めた。
「にーちゃ、あれは何?」
「エマさんって人とお話をしてるんじゃないかな?」
「ふぇー、すごい」
フロイドさんは電話のようなものを置く、どうやら連絡は終わったようだ。
「すぐに来るようです。少々お待ちください」
「はい!」
ドリーが元気に返事をすると、フロイドさんは笑顔で頷いた。
待っていると、協会の奥から杖に乗った人が飛んできた。
飛んできたのは女性で、茶髪だが少し赤みがかった髪の色をしている。髪の毛は癖毛なのかふんわりとしており、長さは肩程度だ。
雰囲気は優しそうに見える。
「エマ、魔法を使って飛ぶほど急いではいませんよ」
「子供ですから待たせてはダメです」
「……何を言っても無駄そうですね」
フロイドさんの言う通り、子供好きのようだ。
エマさんと喋っていたフロイドさんがため息をついて、俺たちにエマさんを紹介してくれた。
「エドワードって言います。皆からはエドって呼ばれています」
「ドリーはドロシーっていうの」
「私はエマよ」
エマさんは優しい笑顔で微笑んできた。
「ドリーもとべるの?」
ドリーがエマさんが飛んでいたのが気になったようだ。
エマさんがドリーの目線に合わせるように屈んだ。
「魔法を覚えれば飛べるようになりますよ」
「ほんとう!」
目を輝かせたドリーがぴょんぴょんと飛ぶと、エマさんが可愛いと言って抱き寄せている。
ドリーも嬉しそうにしている。
ドリーがすぐに人を受け入れるのは珍しい。これはエマさんが師匠になってくれると嬉しいな。
そんなことを思っていると、フロイドさんと何か話し始めた。
「フロイド、エレンの話は知っている?」
「ええ。人選ミスをした件の埋め合わせをエレンが引き受けた話ですよね?」
「そう。エレンは私の従姉妹なのよ。私も手伝うことになっているの」
「ああ……。それは困りましたね」
どうやら何か問題があるようだ。
エマさんではない別の人を紹介されるのだろうか?
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