しくじり転生−2
大丈夫だと思うが、ドリーが魔法を使わないように注意しないと。
「魔法の暴走を警戒して、子供が魔力を持っているかは事前に調べています」
だから俺とドリーが魔法を使えるのを協会長は知っていたのか。
「二人の両親と村長には魔力の有無は伝えています」
両親は魔法を使えると知っていたのに俺とドリーを育児放棄したのか。
悲しさより意味が分からないことの方が勝つ。
兄が普通に育てられているのも意味が分からない。
「魔法使いになれる子供が切り捨てられるとは思っても見ませんでした」
「両親は俺たちに興味がないですから」
「魔法は興味がないと切り捨てるような才能ではないのです。意味が分かりません」
村に請われて協会支部ができたとウォルター協会長は言っていた。
そこまで珍しい才能だとすると、村長まで俺たちを村から追い出すのは理解ができない。
協会長と話しているとケネスおじさんとオジジが帰ってきた。
オジジは怒っているようで語気が荒い。
ケネスおじさんも歯を食いしばって我慢しているのか表情が硬い。
「バカ村長は薬師としての助言を完全に忘れておったわ!」
「猟師としての助言もな」
「しかも村長が決定は覆せないと言いおった!」
二人は随分と怒っている様子だ。
俺が固まっていると協会長が二人を落ち着かせてくれた。
「薬師殿、どのような話になったか教えてもらえますか」
オジジが村長と話したことを教えてくれる。
話した内容から、俺とドリーが協会に数日泊まるのは許可をもらってきてくれたようだ。
オジジの話が終わったが、魔法について話がない。
「薬師殿、他には何も?」
「以上じゃ」
「あの、村長は二人が魔法を使える才能がある事を忘れているのですか……?」
「「はあ!?」」
ケネスおじさんとオジジも俺が魔法を使えるのを知らなかったようだ。
二人は驚いたのか固まってしまった。
「私が任期を伸ばしてターブ村に残ったのは、エドとドリーに魔法を教えるためだったのですが……忘れた?」
「なんと……」
皆、時が止まったかのように固まる。
協会長は俺とドリーのためにターブ村に残っていてくれたのか。
それなのに俺とドリーは村を出なければいけなくなった。俺が悪いわけではないのだが、申し訳なくなってしまう。
「この際、村長が思い出す前に村を早く出た方がいい。村に残ったところで二人のためになりません」
ケネスおじさんやオジジと離れるのは嫌だが、流石に俺も村長に不信感が湧く。
協会長の言う通り村を出た方が良さそうだ。
「村を早く出るのには賛成するが、どこに行く?」
オジジまで俺たちが村を出ることに賛成した。
先ほどまで村長に怒っていた、俺以上に不信感がありそうだ。
「村から距離が離れていた方が良いと思います。川を下ってアルバトロスはどうでしょうか。あそこはメガロケロス地方を統括する協会支部があります」
「良さそうではあるな」
俺はターブ村が所属する地方名さえ知らないが、川を下ると言うことはかなり遠そうだ。村から距離を取るのは連れ戻されないようにだろう。
しかし候補となった町はどのような場所か分からない。
「アルバトロスってどんな場所なんですか?」
「メガロケロス辺境伯が治める港町です。辺境伯の拠点となる館もある大きな都市ですよ」
人が多くなるほど俺とドリーを探すのが大変になるだろう。
「アルバトロスならワシが送ろう、昔アルバトロスに住んでいたので道は分かる。エドとドリーを送ることは村長に認めさせている」
「猟師殿、不在の間は私に村の事はお任せください」
「協会長よろしく頼む」
ケネスおじさんが俺とドリーをアルバトロスまで送り届けてくれるようだ。
二人でたどり着けるか不安だったのでケネスおじさんの提案は本当に助かる。
「ケネスおじさん、ありがとう」
「こんなことしかできない。すまない」
「ううん。謝らないで」
俺とドリーの頭をケネスおじさんが撫でてくれる。
大きな手は温かく心地いい。ケネスおじさんやオジジが親だったらと何度思ったことか分からない。
ケネスおじさんは最初に食べ物を分けてくれた人だ。その後も食べられるものの判別や、猟師の知識を教えてくれた。知識がなければ俺が今生きている可能性は低い。
皆で話し合った結果、俺たちの行き先はアルバトロスに決まる。
今日は協会に泊まって明日には出発することになった。
翌朝、俺とドリーが協会の前で待っていると、ケネスおじさんとオジジが協会へやってくる。
オジジが数少ない私物を持ってきてくれた。
それと選別だと薬師の免状と秘伝書を手渡してきた。
「秘伝書は急ぎじゃったから以前から用意していた一冊しか用意できなんだ。二人で仲良く使うんじゃ」
「オジジ。俺、弟子じゃないのに」
「いいや、弟子だ。基礎に応用までできる一人前の薬師さ」
「「オジジ」」
ドリーがオジジに抱きつく。
俺も続いてオジジに抱きつくと、オジジは俺たちを優しく抱き止めてくれる。
この世界の薬師は地球の医者とほぼ同じ立ち位置にある。薬師は基本一族にしか技術を教えないのだが、オジジは俺とドリーに薬師の知識を授けてくれた。
俺とドリーが落ち着くと、ウォルター協会長が声をかけてきた。
協会長は餞別だと言って、紹介状と旅費だとお金を俺の手の上に乗せた。
俺がお金は悪いと協会長に返そうとするが、魔法使いは高給取りなので気にする必要はないと言う。
「村ではお金を使いませんし、エドもすぐに稼げるようになります。本来ならエドとドリーを弟子として教え導くはずでした。師匠になり損ねた謝罪を含めた私からの贈り物です」
「協会長……。ありがとうございます」
迷ったが俺は協会長の気持ちとしてお金を受け取ることにする。
俺がお金を懐に入れると、協会長は再び謝って俺とドリーの頭を撫でてきた。
忙しい協会長とはそう関わることはなかったが、優しさを感じる。
次にケネスおじさんが手に持っていた弓を俺とドリーに手渡してきた。
「二人に送ろうと以前から作っていたものだ」
「アルバトロスまで送ってもらうのに悪いよ」
「旅は危険だ、武器はあった方がいい。弓は教えていたし使えるだろう?」
「うん」
旅の途中、ケネスおじさんに頼り切るわけにもいかない。
確かに武器になるものは持っていた方が良さそうだ。
「それでは行こうか」
ケネスおじさんの言葉に、俺はオジジとウォルター協会長に頭を下げる。
「オジジ、ウォルター協会長、今までありがとうございました」
「気をつけていくんだよ」
「立派な魔法使いになってください」
オジジとウォルター協会長に見送られて、俺とドリーはケネスおじさんを先頭に村を出た。
村を出て草原を歩く、少しするとドリーが静かに泣き始めた。
俺は頭を撫でて慰める。
泣かないようにと我慢していたのだろう。年齢を考えればもっと我儘を言うものなのに、ドリーは我慢強い。環境がそうさせてしまったのだろう。もっと子供らしく振る舞えるようになってほしい。
中々泣き止まないドリーをケネスおじさんが抱き上げ、歩きながら話し始めた。
「ドリーはこれからアルバトロスで多くの人と仲良くなるだろう。ワシも昔はダンジョンで稼いでいたから色々な人に出会ったぞ」
「ほんと?」
「ああ。獣人という尻尾や鱗がある人とも友達になれるかもしれん」
「しっぽ?」
初めて聞くことが二つも出てきた。
獣人がいるというのは驚きだし、ダンジョンもあるとは知らなかった。
ケネスおじさんがドリーに説明しているのを聞いていると、どうやら獣人と言っても見た目に大きく変化がある人の方が少ないようだ。
実はターブ村にも見た目では分からないが、獣人の血を引いている人は居たらしい。
見た目は普通の人しか居なかったので知らなかった。
「エド、普通に見えても獣人の血を引いていると身体能力がすごい場合がある。見た目で判断しないようにするんだ」
「分かった」
ケネスおじさんがドリーから俺に視線を移動させて、注意してきた。
確かに見た目が違えば注意もできるが、見た目が同じだと注意するのが難しい。
ドリーはまだ幼い。俺が注意しておかないと。
ケネスおじさんにダンジョンについて聞いてみる。
ダンジョン内には魔物が生息していて、魔物を狩って生計を立てている冒険者がいるのだと教えてくれた。
ターブ村で生きる為に必死だったが、知らないことが沢山あるようだ。
「ダンジョンに行く場合は冒険者ギルドに所属することになる。ワシも昔はアルバトロスで冒険者をしていた」
「ケネスおじさんって村から出たことがあったんだ」
「元々ワシはターブ村の出身じゃない。ワシは依頼でターブ村に来た時に妻と出会ってな」
冒険者ギルドまであるのか。
ターブ村は田舎の村だとは分かっていたが、想像以上に知らないことが多いようだ。
同時に完全に取り戻せていない地球の記憶にある、ゲームや創作物と似ていることに驚く。
「ドリー、獣人さんと友だちになりたいっ!」
「そうか。アルバトロスが楽しみだな」
「うん!」
ドリーはケネスおじさんの話を聞いたからか元気になった。
ドリーが泣き止んだところで、歩く速度を上げてまずは船着場があるという村まで移動する。
船着場がある村は、ターブ村から距離を取る必要があるので思った以上に遠かった。
ドリーの移動速度に合わせたのもあるが、村まで五日ほどかかった。
船着場でお金を払って船に乗せてもらう。
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