しくじり転生 〜うまく転生できてないのに、村まで追い出されるってどう言うこと神様?〜 [改稿版]
Ruqu Shimosaka
しくじり転生−1
エドワードと名付けられた俺は、リング王国のターブ村で農民の次男として生まれた。
ターブ村は田舎の農村で小さな村だ。
生まれた時は普通の子供だった。
三歳の頃からだろうか、両親から俺は育児放棄されるようになってしまう。
ご飯を与えられず空腹で泣いていると、神らしき物に会った記憶を思い出す。
神の記憶と同時に、地球で生きていた記憶も思い出していく。
どうやら転生して生まれ変わったようだと幼いながらに理解した。
しかし、全ての記憶を思い出した訳ではなく、途切れ途切れの記憶でしか無かった。
まるで自分の中に他人の記憶が頭の中にあるように感じていたが、空腹を満たすためそんなことを気にしてはいられなかった。
しっかりした意識のおかげで食べ物を探しに行き始められた。
村人の善意で食事を分けてもらっていると考える余裕が出てくる。思い出した記憶の中に、神が「しくじった!」という言葉だけははっきりと思い出す。
どうやら俺の転生は失敗しているようだ。
現状を見るに神がしくじったと言った理由もよく分かる。
神よ、こんな失敗してくれるな。
村人の善意で食べられる物を教わって六歳まで何とか生きていると、妹が生まれた。
女の子ならちゃんと育てられるかと思っていると、二歳になる頃には妹まで育児放棄されるようになってしまう。
育てないのなら妹をなぜ産んだのかと、理解できない両親に呆れる。
俺は泣いている妹を眺めていた。
妹には転生者の記憶があるかは分からないが、ないのならこのまま死んでしまう。
自分が生きるだけでも大変なのに、妹の分もご飯を用意するのは大変だ。
それでも気づいたら妹を連れて食べ物を集めるようになった。
俺には泣いている妹を見捨てられなかった。
俺は十四歳になり、妹は八歳になった。
神にしくじられているのに、これ以上自分でしくじる訳にはいかない。
生き残るために今出来ることは全てをこなして来た。
寝るためだけの家に帰ると、家の前に長男が待っていた。
兄は俺の一歳上で、両親から普通に育てられている。
普段は俺と妹を無視しており、家の前で待っているのは不自然だ。
警戒する。
「結婚が決まったから出て行け」
「は?」
長男は他に何も言わないで家に入って扉を閉めてしまう。
突然の展開に固まる。
「にーちゃ」
俺の後ろに隠れていた妹のドロシーが不安そうに声をかけてきた。
ドロシーは両親との会話がなかったせいか、年齢の割に口調が幼い。
ドロシーの愛称であるドリーと呼んで、俺と同じような銀髪に金髪を足したような髪を撫でる。
「ドリー、大丈夫」
「うん……」
俺はドリーを不安にさせないように虚勢を張る。
両親や兄との関係を考えれば、俺もいつかはこうなると予想はできた。
しかしドリーがもう少し大きくなるまでは待つだろうとも考えていた。生き残るために全てをやってきたつもりだったが、まだ甘かったようだ……。
空を見上げる。
俺だけならまだしも、ドリーを屋根のない場所で寝かせる訳にはいかない。
気合いを入れ直して、村の知り合いを頼ることにする。
小さい頃からお世話になっている猟師のケネスおじさんに会いに行く。
家の前でケネスおじさんは薪割りをしている。
ケネスおじさんは俺とドリーに気づいたようだ。
「エド? 夜も近いのにどうした?」
俺は親しい人からはエドと呼ばれている。
「兄が結婚するからって家を追い出された」
「それは不味い。オジジのところに話を聞きにいく」
オジジは村で薬師をしている村人だ。
俺とドリーが随分とお世話になっている人でもある。
オジジの家まで歩いている間に、ターブ村の掟についてケネスおじさんが説明してくれた。
ターブ村は今の大きさ以上に村を広げると魔物が村を襲ってくるらしい。
俺も見たことあるが、この世界には魔物が存在する。
神に会っているので地球ではないと思っていたが、魔物が居ると聞いて異世界なのだと理解した。
魔物が襲ってくるとなると、村を大きくできない。
そんな状態で、村の人口を増やすと食糧が不足するのは俺にもわかる。
「家を継ぐものだけ村に残り、他は街に送り出している」
「だから長男だけを優遇しているの?」
「いや、エドの家は普通ではない。普通は働き先を探して、街まで送り届ける」
「やっぱりそうなんだ……」
当然だが、俺たちのような生活している子供はターブ村に居なかった。
俺とドリーだけが特殊で、ケネスおじさんやオジジが心配して面倒を見てくれていた。
「エドとドリーは村に残すようにオジジと相談していたのだがな」
ケネスおじさんがため息をついている。
俺の知らないところで色々と手を回していてくれたようだ。
「二人は猟師と薬師の腕がある。本来なら村に残した方が良いと判断されるはず。もしくは他の村に話を通せば受け入れられるだろう」
今まで頑張って来たことが褒められたようで嬉しい。
もしかしたら村に残れるかもしれない。
「それなら村に残れるかもしれない?」
「いや、村長の許可無しに追い出すとは思えない。許可は貰っている可能性が高い」
どうやら村に残るのは絶望的な状態のようだ。
ドリーだけでも屋根のある場所で寝かしてあげたいのに。
これからどうするべきだろうか……。
悩んでいると、オジジの家に着く。
ケネスおじさんがオジジを呼び出した。
俺とドリーが家を追い出されたと話をするとオジジが怒り出す。
「なんじゃと!」
ケネスおじさんがオジジを落ち着かせて話し合っている。
何かするにも既に夕方で夜が近い。
「今日の宿が問題じゃな」
オジジやケネスおじさんが俺たちを泊めるのは問題があるようで、今日の泊まる場所が問題となる。
オジジが泊まれそうな場所を思いついたようだ。
「協会はどうじゃ?」
「協会って文字を教えてくれるところ?」
「間違ってはおらんが、正確には違うんじゃがな」
文字だけではなく計算も教えてくれていたが、そういう意味ではないのは分かる。だからといって何の協会かは心当たりがない。
「協会なら問題なさそうだな」
ケネスおじさんはオジジの意見に賛成のようだ。
夜も近いと、急ぎ協会へと移動することになる。
読み書きを教えてくれたウォルター協会長に迷惑が掛からないかと心配になる。
迷惑がかからないかオジジに聞く暇もなく協会へとたどり着く。
協会は田舎の村にしては立派な木の建物で、読み書きを教われるだけの広さがある。
オジジが協会長を呼び出した。
オジジが俺の事情を協会長に説明すると驚いた様子だ。
「そんな風習は聞いていませんよ!」
「村長が判断をしたのだと思うが、協会長はいつか村を出ていくから黙っていたのだろう」
「そうかもしれませんが!」
オジジが協会長を落ち着かせて今日俺たちを泊めることを交渉してくれた。
協会長が好きなだけ泊まるといいと宿泊を許してくれる。
俺はドリーが屋根のあるところで寝られると安堵する。
「協会長、ワシとケネスは村長と話をしてくる」
「分かりました。エドとドリーは任せてください」
協会長が請け負うと二人は村長の家がある方向へと歩いていった。
「協会長、ありがとうございます。でも迷惑ではなかったですか?」
「いえ、迷惑ではありませんよ。エドは協会が何の協会か教わっていませんね?」
「はい」
「協会は魔法協会です。正式名称はターム村魔法協会支部。魔法使いだけが所属できる組織です」
「魔法使い!」
魔法使いしか所属できないということは、ウォルター協会長は魔法使いということだ。
異世界だが魔法を見たことがなかったので、魔法はないものだと思っていた。
「協会は国からも独立した組織です。村に請われてできた協会支部ですから、協会を追い出すなんてしません。もし追い出されても去るだけです」
ウォルター協会長の話を聞いた限り協会はターブ村より立場が上のようだ。
俺は協会長に迷惑がかからないようで安心する。
協会長が俺とドリーの頭を撫でつつ申し訳なさそうに話し始めた。
「将来エドとドリーのどちらかが、協会長になってもらう予定でした」
「俺が協会長? 魔法使いしかなれないんじゃ?」
「その通りです。二人とも魔法を使えますよ」
「「え!」」
俺の服を掴んでいたドリーまで驚いている。
「どうやったら魔法を使えるんですか?」
「魔法は使ってはいけません」
協会長が真剣な表情で注意してきた。
普段から穏やかな表情をしている協会長が真剣な顔をすると迫力がある。
「使ったらダメなんですか?」
「ええ。最初は魔法が暴走して死ぬ可能性が高いです」
「死ぬ?」
「そうです。魔法使いに魔法を教わるまでは使ってはダメです」
魔法を使えるのに魔法を使ってはダメだとは、罠みたいな話だ。
俺も真剣に止められなければ魔法を試してしまうところだった。
「協会が魔法協会と名乗らないのは、魔法という知識すら危ういからです」
そこまで警戒しているのか。
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