第4話

「VTuber……ああ、バーチャルYouTuberの事か」

「うん! 私達とって言っても、VTuberとして色々やってもらうのは遠野君で、私達は裏方だよ」

「俺がVTuberか……」



 VTuber、生身で配信や実況活動をする普通のYouTuberとは違い、自分の普段とは違った姿や名前を使って電子世界で活動するYouTuberだ。個人でやっている人も少なくないが、事務所に所属している人も結構多く、中には100人を優に超えて今でもちょっとずつ人数を増やしている所すらある。そんなVTuberになれと言うらしい。



「どうして俺なんだ? そもそもどんな方法で活動するつもりなんだ?」

「遠野君、スゴく良い声してるし、クールな雰囲気もカッコいいから協力してもらえたら嬉しいなと思ってね。それで活動方法なんだけど、部活動という形でやろうと思うんだ」

「部活動? もうVTuber部みたいなのがあるのか?」

「これから作るの! 私達三人で!」

「三人って事は……宮古さんもそれには賛成なのか?」



 宮古さんは大きくため息をつく。



「正確には夏耶に押しきられた形です。昔からどうにも夏耶には押しきられがちで、今回も何度もお願いされて根負けした結果なんです」

「なるほどな」



 たしかに久慈さんはそういうタイプに思える。よく言えば周りを牽引して何かをしていくのに向いているリーダー気質、悪く言えば自分の望みのためなら周りを巻き込んでも構わないと思っている自分本意なタイプ。久慈さん本人には悪意はないのだろうが、悪意がない方が正直厄介ではある気がする。悪意があればその点を指摘できるが、悪意がないからこそ指摘できないのだから。


 その事を考えてため息をついていると、久慈さんは期待のこもった視線を俺に向けてきた。



「それでどうかな? 私達と一緒にVTuberをやってくれないかな?」

「……経験者がいるわけじゃないんだよな?」

「あー……うん、そうだね。でも、ある程度は勉強してるし、活動内で貰ったスーパーチャットは部費にするだけじゃなく、学校に寄付して設備の補修や備品の代金にしてもらうつもりだよ」

「そもそもスーパーチャットを貰えるだけの人気が出るかもわからないけどな。個人勢で人気がある人ってだいぶキャラが確立していて、昔からやってる人の方が多いだろうし」

「それは……って、遠野君詳しいんだね?」



 しまったとは思ったが、俺は内心焦っているのを表に出さないようにしながらそれに答えた。



「好きだったVTuberさんがいるんだよ。今は活動休止してるけど、今でも活動再開を待っているくらいには好きだった人が」

「その人きっかけで色々知ったわけだね」

「そういうことだ。それと、部活動っていうからには顧問も必要だろ?」

「顧問なら山田先生にお願いしてるよ。山田先生もそんなにVTuberには詳しくないけど、メンバーさえ揃ったらやってもいいって言ってくれてるし」

「山田先生が……メンバーはあと何人必要なんだ?」

「同好会としてならあと一人、あと二人いて何かしらの実績を出せば部活動として格上げしてもらえるんだよ」

「そうか……」



 久慈さんの考えではまずは同好会として活動し、その内に部活動として格上げしてもらうという物だろう。そのために俺に参加してもらいたいという事なんだろうが、正直その考えに乗り気になってくれる人がすぐに集まるとは思えないし、俺自身も乗り気ではなかった。


 けれど、久慈さんの熱意は本物であり、無下に断るのもなんだか気が引け、俺はため息をついてから答えた。



「山田先生も言ってたように俺がここにいるのは一年間だけだぞ?」

「うん、わかってるよ」

「そうなると俺がいなくなった後の魂を見つけないといけないし、他のVTuber候補だって見つけないといけない。久慈さん、それが出来るのか?」

「それは……でも、やってみたい! せっかく遠野君という超絶イケボの持ち主に出会えて、VTuber部の設立自体が出来そうなんだもん! まずはやってみたいよ!」

「久慈さん……」



 俺はもう一度ため息をつく。久慈さんは本物だ。本物のバカだ。けれど、しっかりと誰かを惹き付け、それでいてしっかりと引っ張っていこうとする天性のリーダー体質なのだろう。



「……仕方ない、か」

「え?」

「遠野君、まさか……」

「とりあえず参加はする。けど、乗り気というわけじゃないし、さっきも言ったように俺がいられるのは一年だけだ。だから、条件をつけたい」

「じょ、条件……」

「半年までに部に格上げして、部員を六人くらいまで増やす。それが俺がその計画に参加する条件だ」



 それを聞いて宮古さんが不安そうな顔をする。



「半年までに部に格上げ、それで部員も二倍以上にする……中々難しいですね」

「それくらい出来ないとな。久慈さん、やってみるか?」

「うん! もちろんだよ!」

「わかった。因みに、二人のそれぞれの役職は?」



 久慈さんは手を上げながら答える。



「私はデザイン担当、いわゆるママだね」

「私は……まだ決めていません」

「そうなるとモデリング担当とかチャンネルの管理、他にも会計担当とか広報がほしいな」

「あ、それなら出来そうな人を知ってるから放課後に紹介するよ!」

「わかった。それじゃあまずは弁当を食べよう。このままだと話だけで終わるからな」



 二人が頷いた後、俺達は弁当を食べ始めた。いきなりの出来事に俺はまだついていけてないところはあったが、それでも憧れだった人と同じような活動が出来るのは素直に嬉しかった。



「……岩鷲がんじゅさんのようになれたらいいな」



 憧れの人の名前をポツリと口にした後、俺は宮古さんと久慈さんと一緒に相談をしながら食事を続けた。

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