第5話

 放課後、カバンの中に筆記用具やノートをしまっていた時、そこに一人の男子生徒を連れた久慈さんが現れた。連れられてきた男子生徒は少し赤みがかった短い茶髪に血色の良い肌、ほどよく高い背丈に異性ウケの良さそうな甘いマスク、と世間ではカースト上位と呼ばれそうなタイプの奴だった。



「二人とも、お昼に言った人を連れてきたよ!」

「なんというか……本当に早いな」

「それが夏耶の良いところではあるのですが、困ったところとも言えますね。こちらの気持ちの整理がついていない状態でも事を進めてきますから。それで、平泉君がその協力してくれそうな人という事ですか?」

「うん! 遠野君、彼は平泉佐助君。クラスメートで、モデリング担当をしてくれそうな人だよ!」



 久慈さんは嬉しそうな笑みを浮かべながら言っていたが、当の平泉本人は少し浮かない表情だった。やりたくないというよりはソワソワして落ち着かない感じだ。


 その様子を見てなんとなく察した事があり、俺は小さくため息をついてから久慈さんに話しかけた。



「久慈さん、とりあえず場所を移そう。どこか良さそうな場所はないか?」

「良さそうな場所……あっ、あるよ! ついてきて!」



 その言葉に頷いた後、俺達はカバンを持って移動した。そして久慈さんに連れられてきたのは、なんと生徒会室だった。



「え、生徒会室?」

「そう! さあ、入って入って!」

「入ってと言われても……」

「た、たしかに……」



 俺と平泉が揃ってまごついていると、宮古さんは俺達に向かって笑みを浮かべた。



「大丈夫ですよ。いえ、正確には大丈夫じゃないんですが、少なくとも生徒会長に怒られるような事はありませんから」

「それなら……」

「まあ……」



 俺達は何がなんだかわからないままで生徒会室にノックをして入った。生徒会室は両方の壁際に資料などが収まっている本棚があり、中央に長いテーブルが置かれていた。そして生徒会長と書かれた札が立っている席には一人の男子生徒が座っていて、久慈さんはその男子生徒に親しげな様子で話しかけた。



隼人はやとにぃ、ここで相談事してても良い?」

「ああ、良いぞ。萌絵ちゃんもいつもウチの従妹の相手をしてくれてありがとうな」

「いえ。隼人さん、こちらの二人は私達のクラスメートで、遠野賢士君と平泉佐助君です。ここで話そうとしてるのは夏耶が前から話していた例の件についてです」

「丁寧な説明をありがとう。初めまして、二人とも。俺は一戸いちのへ隼人。この岩桜高校の生徒会長でクラスは3ーA、夏耶の従兄だ」



 一戸先輩は爽やかな笑顔で言う。一戸先輩は穏やかそうな雰囲気を漂わせたサラサラとした短い黒髪の人で、近い年代でありながらもどこか大人っぽさも感じさせるところから思わず色々相談したくなるような感じだった。



「従兄……どうりで久慈さんが親しげに話しかけてると思いましたよ」

「夏耶とは小さい頃からの付き合いで、この生徒会室にも遠慮なく遊びに来て良いと言ってるから今回も来たんだろうな」

「けど、本当に良かったんですか? 他の生徒会役員の人達も来たりするんじゃ……」

「いや、少なくとも今日のところは来ないのはわかってるし、事前に夏耶にも生徒会の活動がない日は伝えてる。それに、俺だって勉強場所としてここをよく使ってるし、みんなも今日はゆっくりしていってくれ」

「は、はあ……」



 久慈さんの従兄というだけあって一戸先輩も中々大物のようだ。そんな事を考えていた時、隣にいた平泉はようやく落ち着いた様子で大きく息をついた。



「はあ……」

「平泉、大丈夫か?」

「な、なんとか……やっぱりあんなに人がいるところは苦手だな」

「え、そうなの? 平泉君、一年生の頃から色々な人と話してたじゃない」

「平泉は本当はちょっと暗めな方で、いわゆる高校デビューって奴をしてたんじゃないのか?」

「そ、そうだけど……よくわかったな、遠野」



 平泉が驚く中で俺は頷く。



「俺も別に特別明るい方でもないし、何となくそれがわかったんだよ。それに、お前って女子ウケしそうな見た目はしてるけど、異性への耐性がそんなにないだろ」

「う……そ、そうだよ。俺はどちらかというならオタク的な奴で、そのままじゃ嫌だから高校も地元から離れたここにして、過去の俺を知らない人達の前ではイケイケな奴を演じてたんだ」

「そうだったんだね……」

「けど、なんで久慈さんは平泉をVTuber部のモデリング担当として誘おうと思ったんだ?」

「前に電車に乗ってるところを見かけて、その時にプログラミング的な本を読んでたからそういうの詳しいかなと思ったんだ」

「見られてたのか……というか、VTuber部ってなんだ? 俺は久慈さんからちょっと手伝ってほしい事があるって言われてついてきただけなんだけど……」



 それを聞いて俺と宮古さんはため息をつき、一戸先輩は苦笑いを浮かべる。



「夏耶、またろくな説明もなしに誰かを巻き込もうとしてるのか? それは流石にどうかと思うぞ?」

「い、今から説明するんだもん! という事で、遠野君や隼人にぃにも改めて説明するね」



 俺達が頷いた後、久慈さんはVTuber部の計画について話を始めた。

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