となりの美人母の愛娘をお世話したら俺もお世話してもらう

三葉 空

第1話 女神と天使とクズ

 アラサー、童貞、定職なしとくれば、人生詰みコンボ。


 でも、イケメン、物書き、フリーランス(一応)というステータスが俺を救ってくれている。


 いや、それ以上に、俺を救っているのは……


「……あっ、おはようございます」


 朝のかったるいゴミ出しの時、俺は女神に会える。


「あっ、不破ふわさん、おはようございます」


 太陽よりも眩いその笑顔、でも目を逸らしたくない。


 たとえ、この網膜が焼き尽くされようとも……って、アホか。


「きょ、今日は良い天気っすね」


「ええ、お洗濯物がよく乾きそうだわ」


「ですね」


 はぁ~、マジで母だわ。


 この溢れる母性がたまらん。


 美人で、スタイル抜群。


 巨乳だし……でっか。


 細身だから、余計にお乳の具合が……


「あ、いけない。お迎えのバスが来ちゃうわ」


 彼女はそう言って、結んだ髪をひるがえす。


「不破さん、また」


「は、はい」


 女神は慌ただしく去って行く。


 その尻の具合も実に最高だ。


 そして、俺は最低だ。


 マジで害悪だろ。


「さてと……」


 爽やかな女神に対して、冴えない俺。


 不破雄星ゆうせい


 一応、職というか、仕事というか、稼ぎはあるけど。


 もう、世間一般からしたら、無職と思われても仕方ない。


 そんな、みじめで気ままな生活を送っている。


 そのみじめさを象徴するような、安ボロアパートの一室に引き返す。


 ていうか、よく考えてみると、何であの女神さまは、こんな冴えないアパートに……


 美浦みうらかすみさん、アラフォー、子持ち、母親、美女、巨乳。


 とりあえず、女神のひとことで説明がつく(おい


「さてと……」


 基本的に朝メシは食わない。


 かと言って、執筆をする訳でもない。


 ダラつく訳でもない。


 適度にピシッと、朝のルーティーンをこなす。


 冴えない俺だけど、決して自堕落な生活を送っている訳ではない。


 世間でニートやフリーター、無職というと、だらしなく荒くれ者のイメージがあるだろうけど。


 昨今のそういった人種は、意外とみんなちゃんとしている。


 お金だって、少額ながらも、ちゃんと稼いでいる。


 俺も少し前まで、バイトしていたし。


 ありがたいことに、最近になってようやく、バイトを卒業できた。


 まあ、とはいえ、フリーランスでめっちゃ稼ぐ訳でもなく。


 せいぜい、ひと月の稼ぎは大卒の初任給レベルかな?


 こどもなしで1人暮らしなら、まあ生きて行ける。


 そんなゆるっと低空飛行の人生でございます。


「あすみ~、早くしなさ~い!」


「はーい、ママ~!」


 安アパートだから、壁が薄い。


 だから、となりの女神の声がよく聞こえる。


 そして、女神の娘ちゃんも。


 女神の娘だから、天使かな?


 ああ、誤解なきように。


 俺はロリコンじゃないんで。


 こどもは好きだけど、決してそんな対象で見ることはない。


 男は年齢を重ねるごとに父性が強くなって、ロリコン気質になるらしいけど。


 いつまでも甘えたな俺は、この歳になっても、年上の女性に憧れてしまう。


 そう、美浦さんみたいな……




      ◇




 夕暮れ時、近所のスーパーで適当にメシを買って帰宅する途中。


「ふんふふ~ん♪……んっ?」


 女神と天使な母娘おやこを見つけた。


「美浦さん」


 俺が遠慮がちに声をかけると、彼女はハッとして顔を上げる。


 あれ、何か顔が暗かったような……」


「ああ、不破さん。こんばんは」


「どうも」


「おにいちゃん、こんばんは」


「うん、こんばんは」


 良い子な天使に照れながらも微笑みかけつつ、チラッと様子を伺う。


 やはり、女神さまこと、美浦さんの様子がおかしい。


「あの……どうかしましたか?」


「えっ?」


「いや、何だか元気がないなって……」


「あたちはげんきだよ~!」


「うん、そうだね」


「……実は、娘が通っていた保育園が、閉園することになりまして」


「えっ……マジっすか?」


「ええ……今のご時世、色々と厳しいみたいね」


「まあ、そうっすね……じゃあ、娘さんも悲しいというか、寂しいですよね?」


「うん……でも、みんなとまたあそぼってやくそくちたから、らいじょーぶ」


 と、天使ちゃんこと、あすみちゃんはニカッと笑う。


「ふふ、この子の方が、よっぽど強いわね。それに比べて、私は……」


「あの、俺で良ければ、何か力になりますよ」


 と、慌ててフォローする。


 て言っても、こんな冴えない男に出来ることなんて、ありはしないけど。


「あの、それじゃ、もし良ければだけど……新しい保育園が見つかるまで、この子の面倒を見てもらえたら……助かります」


「えっ、俺がっすか?」


「あっ、ごめんなさい、やっぱり迷惑ですよね」


「いえ、そうじゃなくて……むしろ、良いんですか? こんな、最近知り合ったばかりの男に大切な娘さんを預けるとか……」


「うん、でも……不破さんなら、信用できるかなって」


「そ、そうっすか……」


 やべぇ、めっちゃ嬉しい。


「あたちも、おにーたんにめんどうをみてもらいたい」


「ふふ、本当に?」


「うん」


 母娘は微笑み合う。


「という訳だから、もし良ければだけど……」


「はい、分かりました」


 俺は即答する。


 決して、スケベ心なんてない。


 今の俺の心は、まっさらだ。


 この青空のように。


 あ、いま夕暮れだった。


「じゃあ、不破さん……よろしくお願いします」


「よろちくっ」


「あ、はい」


 赤面しているのは、もちろん夕日のせい。


 決して、俺に惚れている訳ではない。


 けど、この笑顔、守りたい。


 母娘ともども。







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