第1話 狂った町

 私の名前は風来綾香。

 今年の春から、夢幻学園高校に入学する新一年生である。

 現在、私は電車に乗り、これから3年間暮らすことになるであろうアパートへ向かっていた。


 私は右側の席に腰掛け、窓の外をボーっと眺めている。

「ホゲーええッ」

 すると、何やらうめくような声が私の耳に飛び込んできた。


 その声の主は、私の通路を挟んで左側の席に座っている、白装束を着た白髪の老人である。

 その老人の周りにはいかにも、気味が悪く、不気味なオーラが漂っていた。


 もちろん、彼はこの世のものではない。

 なので私は、目を合わせないようにするため、窓の外に視線を移していた。


 どうやら、私は生まれつき、普通の人の目には見えないものが見えてしまう体質なようである。


 窓の外には家や田んぼが広がっており、電車が進むたび、目の前の景色が後方へと流れていった。


「次は、雲雀丘ひばりがおか。次は、雲雀丘...」

 すると、電車内にアナウンスが響き渡った。どうやら、電車は途中駅で停車するようである。それから、しばらくすると電車が減速し始め、雲雀丘と書かれた駅名標が私の目に映り、完全に停車した。

 電車のドアが開くと、少し小太りの中年のおばさんが乗り込んできた。

 おばさんは席に座るため、通路を歩き始める。そして、ちょうど私の通路を挟んで左隣の老人がいる席に座った。


 電車のドアが閉まり発車し始めたときだ。

 老人は顔を体ごと横向きにし、おばさんの顔をのぞき込みながら、うめき声を発した。


「ほげぇー。

 ほげぇー」


 そして、老人は頭の先が細長く変形すると、

 まるで煙のように、おばさんの鼻の穴に吸い込まれていった。


 完全に、老人が吸い込まれると叔母さんの体がビクんと大きく震える。


 すると、突然、おばさんは耳をつん裂くような奇声を発しながら立ち上がったのだ。

「ホゲェーーーーーーッ」

 そのまま通路へ飛び出すおばさん。


「えっ?」

 それを見た私は、思わず声を漏らす。


「ホゲェー、ホゲェー、ホゲェー、ホゲェーーッ」

 そして、おばさんは奇声を上げながら車両を行ったりきたりと往復し始めたのだ。


 それから数分後、異変に気づいたのか、向こうの方の車両から慌てたように車掌さんがやってくる。


「お客様?大丈夫ですか?」

 車掌さんが、おばさんをなだめようと声をかけた。 


 その時だ、かなり衝撃的なことが起こった。


 なんと、おばさんが奇声を発しながら、車掌さんへ襲いかかったのだ。

「ホエーーーーッ」


「なっ、何だ?」

 そして、おばさんは車掌さんを床に押し倒すと、さらにとんでもない行動に出たのだ。


 車両内に響き渡る車掌さんの絶叫。

「痛ってえーーーーーーーーーーーッ」


 おばさんは口元に何か血の滴る肉塊を咥えていた。

 よく見ると、それは耳だった。おばさんは車掌さんの耳を噛みちぎってしまったようだ。


 自分の千切れた耳を見た車掌さんは、再び絶叫する。

「俺の耳がーーーーッ」


 その光景を見た私は、驚愕して目を見開いた。

 ど、どうしよう?

 私の体は、驚愕と恐怖で固まってしまった。


 すると、騒ぎを聞きつけたのか、前方の車両から筋肉質で逆立った赤髪の男がやってきた。

「何やってんだてめえっ」


 そして、その男は車掌さんの上で四つん這いになっている叔母さんを引き剥がし、そのまま羽交締めにした。


「大丈夫ですか?次の駅で降りましょう」

 赤髪の男はおばさんを押さえ込みながら、心配そうに車掌さんへ声をかけた。


 しばらくおばさんは男の腕を振り解こうと暴れていたが、次の駅に着くと赤髪の男に連行され、車掌さんと一緒に降りていった。


 私は、先程起こった一連の出来事に衝撃を受け、しばらく呆然としていた。


 あれほどのことが起きたのだ。

 当然、電車の運行は中止だよねと私は内心思った。

 しかし、列車は何事もなかったかのようにそのまま発車したのだ。


 えっ?

 そのことに対し、私は再び衝撃を受けた。


 それから、私はボーっとしながら、電車に揺られていると、いつの間にか目的の駅の寸前までたどり着いたようだ。

 電車は、ゆっくりとスピードを落とし、停車しようとする。


 そのとき、私に駅の壁にかけられた、とある看板が目に止まった。

 看板には、こう書かれていた。

『ようこそ、狂気と超常現象の町夢幻町へ』

 


 狂気?超常現象?

 いったいなんのことだろう?


 電車が完全に停車して扉が開くと、私は、電車を降り、改札へ切符を通すと、駅の出口まで歩いていった。



 ◆

 私は、駅の外へ出る。

 すると、そこは今まで感じたことのないような異様な雰囲気が漂っていた。


 外見は、至って住宅街が並んでいる普通の街だ。


 しかし、町の至る所には、無数の浮幽霊たちが、漂っている。

 私は、その数の多さに思わず圧倒される。


 えっ?こんなに、幽霊がいるってあり得るの?

 この駅の周りは、心霊スポットか何かなの?


 中には、浮遊霊に混ざって、とてもやばそうなのも混ざっている。


 そして、私から10メートルくらい離れた石垣の前で、巨大なあごを持った犬のような悪霊が、漂っている人魂の一つを丸呑みにした。


 おお、怖い怖い。

 タチの悪い霊とは関わらないようにしなくちゃ。


 私は、それらの霊たちと、目を合わせないようにしながら、足早にアパートへと向かっていった。


 しばらく歩くと、コンビニやガソリンスタンドが見えてきた。

 それに、だんだんと駅を出た時と比べて、浮遊霊の数が少なくなっていってるような気がする。


 さっきまで、あんなにいたのに、いったいどうしたんだろうか?

 私は、内心少し疑問に思いながらも歩を進めていく。


 そして、信号を渡り、交差点を右に回った時だ。

 私は、少し衝撃的な場面に遭遇する。


 なんと、道の真ん中で、身長低めのパーカーを着た、金色の髪の女の子が倒れていたのだ。


 えっ、こんなところで人が倒れてる?


 まさか、救急車呼ばなきゃいけない?

 それより、まずは呼吸とか脈拍の確認が先だよね、、、


 私は、内心焦りと緊張でいっぱいになる。


 そして、私は彼女の上体を確かめるため、急いで彼女へ駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか!?」

 私は、そう声をかけながら彼女の側へしゃがみ込むと、体を軽めに揺さぶる。


「は、腹減った~」

 すると、彼女はか細い声でこう呟いた。


 どうやら、彼女はお腹が減って倒れていただけのようだ。


 大事なくて、よかったよ、、、

 ひとまずは安心だ。


 私は、彼女を一旦道の脇に移動させると、近くに手頃な飲食店がないかどうかをスマホの地図アプリで探す。


 どうやら近くにファミレスがあるようだ。


 それなら、いったん彼女をそこへ連れていこう。


 私は、彼女に肩を貸すと、近くのファミレスまで歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る