第13話 な、なんで、そんな事を知ってるの⁉
昨日――、妹の
彼女というか、別の言い方をすれば、妹というべきだろうか。
血の繋がった妹というよりも、
「約束通り、来てくれたんだね!」
「重要な話をしたかったんでしょ? だからさ」
辰樹は急ぎ足で自宅を後に、軽く走って街中までやってきていた。
少々息を切らしている事もあり、辰樹は呼吸を整えながら言う。
日曜日の昼近くの時間帯。街中のアーケード街近くにいる辰樹。その目の前には、その彼女――
晴香は可愛らしい私服を身に纏っている。
青と白色のフリル系統の服装であった。
学校にいる時とは違う雰囲気に、どぎまぎしてしまう。
その他に、小さいバッグを肩から掛けていたのだ。
バッグの影響で、胸の大きさが少しばかり協調されていた。
目のやり場に困り、辰樹は彼女の胸元からサッと視線を逸らす。
「まあ、ここで話すより、二人っきりになれるところに行かない? いいよね、お兄ちゃん!」
晴香はニコッとした表情を浮かべる。
顔を背けていた辰樹の顔を軽く覗き込んできたのだ。
「そういう言い方は……」
「それで、いつになったらお兄ちゃん呼びでもよくなるのかな? まだ返答を貰ってなかったけど。私は、君の事をお兄ちゃんって呼びたいんだけどね」
本当の妹ではない子から、お兄ちゃんと呼ばれることに心の準備がまだ出来ていなかった。
むしろ、実の妹からも何もお兄ちゃんと呼ばれていないのだ。
昔はそういう呼ばれ方をされていた時期もあるのだが、それは何年も前の事である。
「……わ、わかった、でも、二人っきりの時ならいいよ」
辰樹はしょうがないと諦めがちに、その呼び方を許可する事にしたのだった。
二人は街中を移動する。裏路地を入ったところを数分ほど歩いた場所に、とあるお店があった。
あまり人目に付かない場所に存在し、店屋の前にある看板には喫茶店とだけ簡易的に記されてある。
「ここに、喫茶店があるんだな」
生まれてこの方、この街で住んでいるのだが、全然知らなかった。
辰樹は辺りを見渡す。
日曜日なのに、人が少なく静かな場所である。
「そうなんだよね。ここは知る人しか知らない場所で、ちょっと洒落たお店っていうか、大人びているというか。ここならね、二人っきりで会話できると思って。やっぱり、ファミレスよりか、こういうミステリアスな場所がいいでしょ?」
大勢がいるお店でお兄ちゃん呼びされるのはかなり際どい。
状況的にもひっそりとした場所で、やり取りする事が合っていると思う。
二人が入店すると、鈴の音が店内に響く。
奥の方からは、好きな場所に座ってと、あっさりとした大人の男性の声が聞こえてくる。
二人は数人しかいない店内を移動し、奥のテーブルへ向かい、そこの席に向き合うように座る。
彼女は隣の椅子にバッグを置いていた。
すでに、テーブル上にはメニュー表が置かれてある。
パッと目を通したのだが、メニューの数は少なく、十種類ほどだった。
「私はココアかな。お兄ちゃんは?」
晴香はメニュー表の商品名のところを指さして言う。
「じゃあ、俺もココアにしようかな」
コーヒーもあったのだが、苦みのある飲み物を口に含みたい気分ではなかった。
気軽に飲めるモノにし、その他に、ウインナーをパンで挟んだ、このお店のアレンジが加えられた商品を選ぶことにした。
晴香も、辰樹と同じウインナーパンを選び、それから店の奥からやって来た若めの女性に伝えた。
二〇代くらいの女性店員ではあったが、茶髪のロングヘアで暗い印象を受ける。
その女性店員は、注文を聞き終えると、そのまま店の奥まで戻っていくのだった。
「話したいっていうのはね」
注文を終えるなり、晴香が率先して話し始める。
「これから妹と兄として、どういう事をしたいのか色々と話したいの! やっぱりね、兄と妹って関係性が大事だと思うし。私は、お兄ちゃんが望む事もちゃんとやるつもりだから」
晴香は笑顔で語りかけてくる。
「お兄ちゃんは、私に対して、どんな事を望んでいるのかな?」
「望むって……」
急に真剣な話題を振られても反応に困る。
辰樹は難しそうな顔つきで悩む。
やはり、妹に対する理想としては、妹の悩みを聞いたり、可愛がったりする事である。
だが、そういう願望的な事を口にすることに恥ずかしさがあった。
目の前の席に座っている妹である晴香は目を輝かせている。
どんな事でもいいからねといった視線を辰樹に向けていた。
まあ、妥当に、晴香が一緒にやってみたいと言っていたゲームをする事。
それを、一番最初にすべき事だと思う。
だから、辰樹は、その事を彼女に伝える事にした。
「ゲームをする事ね。まあ、それは私がやりたい事なんだけど。お兄ちゃんがしたい事ってないの? 私に対して、やってみたい事とか?」
晴香は意味深な口調で、辰樹の顔をまじまじと見つめている。
俺自身がやってみたい事か……。
辰樹は彼女の顔をまじまじと見やる。
晴香は迷いのない瞳をしているのだ。
どんな事でも強く受け止めるといった、真剣な視線だ。
「俺は……明るく振舞ってくれる感じでいいかな。何かをしたいというよりも、明るい妹と遊びたいって事が、やってみたい事かな?」
「明るく?」
「そう。俺の妹は素直じゃないけど。だからさ、明るい姿を見たいというか。山崎さんのそのままの状態でいいと思ってるんだ」
「素のままで?」
「そう」
「それだと、お兄ちゃんからしたらつまらなくない? 本当にそれだけでいいの?」
「えっとだな、もう一つ、ドジみたいな性格を追加で……あ、でも、まあ、無理ならいいんだけどさ、無理ならさ」
辰樹は遠慮がちに言葉を言い直す。
が、目の前にいる彼女は少し悩んだ後、別にそういうのをやってもいいよと言葉を切り返してきたのだ。
予想外の反応に身振り手振りを込めて、辰樹は無理しなくてもいいからねと続けて言っておいた。
「私はお兄ちゃんの命令なら何でもやるつもりだから!」
「本気か?」
「そうだよ。そうじゃなかったら、私、辰樹くんに対して、お兄ちゃんになってよとは言わないから。だからね、私は本気だよ」
辰樹は冷や汗をかいていた。
彼女の熱量には圧倒されまくりである。
普通は同世代の人に対して、お兄ちゃんになってよとは言わない。
それなりの覚悟や信念を持って、口にしているのは確かだと思う。
辰樹は正面にいる彼女の笑みを見て、そう確信した。
「辰樹くんも、お兄ちゃんって呼ばれたかったんでしょ? 何年も言われてないと思うし。やっぱ、恥ずかしい?」
「そりゃ、そうだよ。久しぶり言われたらさ。昔はなんとも思わなかったけど。面と向かって言われると緊張するし……」
いくら店内に人が少なかったとしても、周りの視線を気にしてしまうほどだ。
手にも汗をかき始めてるくらいだった。
「それと、ちょっと気になった事があったんだけどね」
「なに?」
「これを見てほしいんだけど」
彼女は辰樹と待ち合わせしていた時から所持していたバッグから何かを取り出す仕草を見せていた。
「え?」
辰樹は疑問を抱きながら、テーブルに置かれたモノを見やる。
それは写真だった。
よくよく見てみると、それには自分の姿と、妹の杏南の姿が写っていたのである。
「こ、これって? な、なんでこれを?」
「ちょっと気になって。お兄ちゃんって、あの子と仲良くなかったんだよね?」
晴香の表情が変わった。
「完璧に悪いってわけじゃないけど。どうして、これを? 俺はそれを聞きたいんだけど」
「たまたま見かけて」
「見かけたって。だったら、メールで良かったじゃんか。俺を見たって感じで」
「そうなんだけど。ちょっとね……ねえ、お兄ちゃん? もしかして、本当はあの子と仲がいいのかなって。それが昨日から気になってて。そこらへんはどうなのかな?」
晴香は辰樹の顔をまじまじと見つめてくる。
辰樹はその状況にたじたじになっていた。
そんな中、女性店員によって注文した品が、テーブル上に並べられ始めたのだった。
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