第12話 妹は何か言いたげな顔をしているけど…
お化け屋敷を出てから、大分時間が経過し、冷静さを取り戻せていたのだ。
隣のベンチにいる妹の
「大丈夫か?」
「私は別に問題ないけど」
「さっきは結構、怖がってた気がするけど」
「それはあんたも同じでしょ」
互いに意見を言い合っていた。
「それで、もう帰るの? 帰るなら、予定通りに買い物をしたいんだけど。そういう約束でしょ?」
「そうなんだけど、もう一つだけ、乗るアトラクションがあって」
「まだあるの?」
「そうなんだよな……」
辰樹は胸を撫で下ろしながらメモ帳を確認する。
「そうそう、このアトラクションだな」
「なに? また、変なのじゃないでしょうね」
「今までの中では普通だと思うよ。一先ずそこに向かうか」
辰樹はメモ帳をしまい、ベンチから立ち上がる。
最後に利用するアトラクションというのが、遊園地の中でかなり有名な観覧車である。
やはり、遊園地に着たら、一度は乗る事のあるアトラクションだろう。
近くで見るとかなり大きいと思う。
昔からある、大きい乗り物ではある。
が、幼い頃は、観覧車に乗る事ばかりに意識がいって、それ以上深く考える事はなかったのだろう。
ただ、乗れればいいという考えが率先していたのだと思われる。
「では、次の方ー」
観覧車前のところで、列に並んで待っていると女性のスタッフから呼び出された。
辰樹は妹と共に、観覧車の中に入ろうとする。
辰樹は妹へと手を指し伸ばしたのだが拒否されたのだ。
扉が閉まってから数秒ほどで、観覧車のゴンドラが逆時計回りに動き出す。
観覧車の窓からはスタッフの笑顔が見える。
辰樹は軽く会釈していた。
「それで、これに乗ったら終わり?」
「ああ」
「本当に?」
「本当だって」
辰樹はメモ帳を見開いて、その確たる証拠というものを、正面のソファに座っている妹に見せつけてやった。
「まあ、いいわ。それならね」
杏南は信じてくれたらしい。
辰樹は再びメモ帳をしまう。
「……」
「……」
二人っきりの空間なのに、無言になってしまう。
会話のネタ切れになってしまったのだ。
何かを話そうと思っても、なかなか、よい話題を見つけられていなかった。
辰樹は気まずげに、観覧車の窓から辺りを見渡す。
意識的に外の景色を見た時には、かなりの高さまで到達しており、窓からは遠くの山や、近くの街並みも全体に見渡せるほどだった。
「……」
「ん?」
辰樹が窓の外を見ていると、近くから声が聞こえた。
何かと思い、正面のソファに座っている妹へ視線を向けたのだ。
「何か言った?」
「……聞こえていなかったら別にいいんだけど」
杏南はボソッと言葉を漏らす。
「でも、何かあるなら別に聞くけど」
「……」
妹は俯きがちになり、口元を震わせていた。
「なに?」
辰樹はもう一度伺うような姿勢で問いかけていた。
「あんたってさ、好きな人っているのかなって」
「なんで急に?」
「だから、言いたくなかったの。そんな反応されると思ったから」
「ごめん」
「そ、それで、どうなの? あの子とは付き合っているわけじゃないんでしょ?」
あの子というのは、晴香の事だろう。
「付き合っていないって、この前も言ったと思うけど」
「なら、別にいいわ」
「どうした、急に? そんなに気になるのか?」
「そうじゃないけど……」
杏南は小さく言葉を零す。
何かを伝えたそうな顔をしている。
「別にいいから」
「でも、言いたいことがあるんだろ?」
「そうだけど、別になんでもなくなったの!」
杏南は不満そうに頬を膨らませ、観覧車の窓から外の景色を見ている。
それ以上、多くの事を語ることなく黙りこくっていたのだ。
余計に聞いても妹から嫌われると思い、辰樹は心の中でとどめておく事にした。
実際のところ気になる。
妹の事を意識すればするほどに、モヤモヤとした感情に襲われるからだ。
妹はムスッとしたまま、窓から外の景色を見ている。
辰樹はそんな妹の横顔をまじまじと見ていた。
「な、なに? 私の方を見て」
「いや、そういうつもりじゃなくて」
「キモいんだけど」
杏南から辛辣なセリフが飛んでくるのだった。
観覧車に乗ってから、一五分ほど経過していたようでスタート地点に戻っていた。
扉が開いた事で、二人はスタッフに誘導されて降りることにしたのだ。
杏南とこれから向かう先はすでに決まっている。
妹は早く行くからといって、一人で勝手に先へと進んでいく。
辰樹も彼女を追いかけるように、距離を詰めていく。
遊園地の最後には、お土産というモノを購入するのがテンプレだと思う。
店内には、お菓子類の他に、ぬいぐるみやキーホルダーが取り扱われていた。
「んー……」
杏南は唸りながら、キーホルダーのところで立ち止まっている。
「何で悩んでるんだ?」
杏南が指さす先には、サクランボやブドウのキーホルダーがあった。
結構大きな遊園地なのに、一風変わったアイテムな気がする。
辺りを見渡すと、イルカやクラゲなどの可愛らしい感じのデザインのぬいぐるみも置かれているのだ。
妹が思う可愛いという概念が少し違うかもしれない。
「どっちがいいと思う?」
「どっちって、杏南はどっちがいいんだ?」
「それは」
杏南は小さく唸り声をあげ、悩み込んでいる。
どちらも欲しいようだった。
「あんたの意見に任せる」
「俺に? え、だったら、こっちの方かな?」
辰樹は色合い的にもサクランボの方を指さす。
「こっちがいいのね」
「まあ、雰囲気的にな。綺麗な赤色だし、杏南には似合いそうだったから」
辰樹の発言に、妹はサクランボのように頬を赤く染めていた。
「ま、まあ、あんたにしてはいい判断だと思うわ」
杏南は購入する分のキーホルダーを手にする。
「二つも買うのか?」
「いいでしょ。なんていうか、保存用だから!」
「保存って。まあ、いいや、それでいいんだな。他には? ぬいぐるみは?」
「それはいい」
即答だった。
やっぱり、少し変わっているのだろう。
その他には、大きな箱のお菓子を購入し、会計を済ませた。
遊園地を後にした二人は電車に乗って、地元の駅まで向かい、帰宅する。
その移動中。電車に乗り始めた時には起きていた妹が、今では目を瞑って寝ていた。
よっぽど疲れが溜まっていたのだろう。
妹は辰樹の左肩に寄りかかる。
辰樹はそっとしておくことにした。
妹も何も話さなければ、昔のように可愛らしく思えるのだ。
そんな中、辰樹がスマホを弄っている時にメールが届く。
フォルダを確認してみると、その送信主は
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