第17話 モブザコ、再びゾンビを撃退してしまうⅡ

 かと思うと、ズイッと百合園が立ち上がった。

 クズ山は身長が低いので、百合園の方が頭一つ分はデカい。


 頭上から百合園が鋭い目つきで僕を睨みつけてくる。


「なに?」


 尋ねると、無言で百合園が振り返った。

 そして近場に落ちていたエペを拾い上げ、


「アナタ…ッ!

 このわたくしを囮に使いましたわね!?」


 切っ先を僕の眼前に突きつけて言った。


「ああ、使ったけど」


 僕は平然と答える。

 途端に百合園の目尻が急角度に上がった。

 僕の返答が気に入らないらしい。


「でもあの状況ではベストな方法だったと思うよ。

 結果として二人とも生き残ったでしょ」


 続けて、説明をする。

 クズ山が強かったら他のやり方もあったけど、俺の低ステータスと彼女の経験不足を考慮した場合囮にするしかなかった。


「フン……ッ!

 確かに結果は助かりました。

 でも他人を囮に使うなんて本当にクズ野郎ですわね!?」


 百合園がキッと僕を睨みつけて言った。


「クズ野郎はないでしょ。

 まあ囮にしたのは悪かったけれど、でもあの状況じゃ一番いい方法だったし。

 それに百合園に囮になってもらうやり方なら100パーセント上手くいくって思ってたんだ。

 いや97パーセントか」


「は?

 バカなアナタ如きの考えで、このわたくしの命を危険に曝さないでくださる?」


 ああ、要点はそっちか。

 ようは自分がクズ山如きにこき使われたのが気に食わないらしい。


「だったらもう少し賢く動いてくれれば僕も指示しないで済むんだけど…」


 僕が続けて意見しようとした矢先、


「うそ!? 教室壊れてる…ッ!!」


 教室の外がにわかに騒がしくなった。

 あの甲高い声音は江西田だろう。

 染井達が帰ってきたんだ。


「おい葛山ッ! 大丈夫かッ!?」


 染井が教室に入ってくるなり僕を見て叫んだ。

 返り血とかも浴びてるので、ぱっと見僕の方が状態が酷いように見えたらしい。


「大丈夫!」


 僕は笑顔で返事をする。

 百合園は僕に向けていたエペを下げ、染井達の方に歩み寄った。


「そちらも無事のようですわね」


「ああ。

 江西田はもちろん、美桜も東野も無事だ。

 二人もすぐ来る。

 それより」


 言って、染井がゾンビキャットの死骸を見上げた。

 改めて見るととてもデカい。

 ライオンっていったけど、動物園のサイぐらいあるかもしれない。


「またコイツが襲って来たのか」


「ええ。わたくしとそこの男で倒しました」


 百合園が詰まらなさそうに答える。

 なんかさも自分の手柄みたいに言ってるけど、大体は僕なんだよな。

 とはちょっと思う。


「マジか!

 二人ともお手柄だな!

 こんな化け物を倒しちまうなんて!」


 染井が褒めてくれた。

 僕の方を見てる辺り、染井は僕が倒したことに気づいてるのかもしれない。


「どうせクズ山は足引っ張ってたんでしょ?

 百合園さんが助かってホントよかった!」


 江西田がこれ見よがしにキツい目を僕に向けて言った。

 どうやら百合園がダメージを負ったのも僕のせいにされているみたい。


 まあ、今の僕は『クズ山』だからな。

 全校生徒(女子も含めて)の中で、一番目か二番目に運動神経が悪い。

 しかも江西田たちの前ではまだ一度も活躍してないから、そう思われるのも仕方ない。


「葛山も頑張ったんだろ?

 大方、とどめはお前が刺したんじゃないか?」


 代わりに染井が僕に聞いてくれる。

 まあ仰る通りなんだけど、それを言っても誰も信じないだろうな。


「は? クズ山がそんな強いわけないじゃん」


 案の定、江西田が胡散臭そうに僕を見て言ってきた。


「いやクズ山は普通に強いぜ。

 体鍛えてんだろ?

 8000時間だっけか」


「8000?」


 染井の話を聞いて、江西田が胡散臭そうな顔で僕を見る。


「ウソ。

 こないだクズ山が100メートル走ってるところ見た事あるけど断トツでビリだったよ。

 アタシより遅いんじゃないかな。

 テストもいつも赤点ギリギリだし、先生が無理矢理点数つけてあげてるって聞いたことある」


 染井のフォローを打ち消すかのように江西田が言ってくる。


「たしかにそういう噂は俺も聞いた事あるけど、

 クズ山には身体能力以外ですごい所が沢山ある。

 計画立てて実行できる所とか、コツコツ頑張れる所もあるし、

 その上で事態に対処する冷静さもあるんだ。

 俺は頼りに思ってるぜ」


 そんな江西田に対して、染井が真っ向から言い返した。


 コイツ、意外と僕の戦い方見てるな。

 ステータスで戦ってるわけじゃないって事に気づいてる。


「フーン。アタシは知らないけどね」


 染井にそう言われると、江西田は黙った。

『なんでそんな奴を庇うの?』

 とでも思っていそうだ。

 ちなみに百合園もフン! という顔で押し黙っている。


 ホントどうしたら仲良くなれるんだろうな。

 好かれるまでの道のりが果てしなく感じる。


「オッケ。

 葛山の話はこれぐらいにしよう。

 まずは片付けないと」


 そう言って染井がゾンビキャットの死骸を見た。


 え。

 アレ片付けるの……!?

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