第16話 ザコモブ、再びゾンビを撃退してしまう
シュパアァンッ!!!
「グギャウウウッ!?」
凄まじい刺突音がし、ゾンビキャットの巨体が左に大きく揺らいだ。
あれだけ勢いがあったにもかかわらず、ゾンビキャットがその場に立ち尽くしてしまう。
『
相変わらずすげえ威力。
僕も使いたい。
「グルウッ!?」
ゾンビキャットは即座に反応し、百合園に向かって『爪攻撃』を繰り出そうとしてきた。
百合園は相手の動きが分からないのか、硬直している。
「上方右パリィ!」
当然それも予測していたので、僕は百合園に次の動作の指示を出した。
それを聞いて百合園が動き出す。
エペの先でゾンビキャットの前足を抑えるようにして、攻撃をいなした。
彼女固有の受け流しアクション『パリィ』である。
クズ山の『受け流し』と違ってダメージも無ければ、技の出も早く硬直も圧倒的に少ない。
よって。
「グガウッ!?」
簡単にゾンビキャットの爪攻撃を受け流してしまう。
更に、
「バックステップッ!
からのフラッシュッ!」
僕は百合園に『バックステップ』を使わせることで、ゾンビキャットから距離を取らせると再度『
距離がないと飛び込み突きは外れやすい。
ピシャアアアンッ!!!
凄まじい刺突音が教室内に響き渡る。
余りの威力に一瞬だが衝撃波のようなものが放たれて僕の前髪を揺らした。
「フンッ!?
どうですの!!?
完璧なわたくしの一撃ッ!!」
恐らく手ごたえがあったのだろう。
百合園が勝利を確信して微笑む。
だがちょっと早い。
インフェルノという難易度はそんなに甘くない。
「グアウウウウウッ!!」
一瞬倒れるかに見えたゾンビキャットだったが、突然身を持ち直して百合園に爪攻撃を食らわせてきた。
「キャアアッ!?」
百合園の体が後方に吹っ飛ぶ。
鮮血と共に夏服が切り裂かれてしまった。
すぐに起き上がろうとするが、できない。
瀕死状態になっている。
「ううっ!?」
止めとばかりにゾンビキャットが左前足を振り上げる。
百合園は前足を見上げることしかできない。
このままでは彼女は殺されてしまうだろう。
だが彼女の頭が叩き潰される直前。
「はッ!!」
既に立ち上がっていた僕が、ゾンビキャットの尻にエペを突き刺した。
「グルワアアアアアッ!?」
ゾンビキャットが悲鳴を上げて身をよじる。
最初から僕が止めを刺すつもりだった。
そのためずっとその場で寝そべり、スタミナと体力が最低限動けるレベルまで回復していたのだ。
まあ百合園が倒してくれてもよかったけど。
思って百合園を見やる。
深手を負った彼女は床に寝そべっていた。
「グルワァアアアアアアッ!!」
ゾンビキャットが悲鳴を上げて、僕の方に向き直る。
至近距離のため爪攻撃をするつもりだ。
それを予測していた僕は、既に奴の背後に回り込むようにして動いている。
そして尻の弱点をもう一度エペで突き刺した。
「ピジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」
ゾンビキャットが悲鳴を上げた。
これまでに無い大声である。
効いている証拠だった。
この機は逃さない。
僕は怯み状態になっている奴の尻にもう一度エペを突き刺す。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアオオオオウウッ!!!」
やがてゾンビキャットの巨体が地響きと共に横倒しに倒れた。
ゾンビキャットが横に倒れた場合は、フリではなく100%死んでいる。
だが一応念のために横になったゾンビキャットを何度もエペで突いた。
明らかに動かない。
「ふう」
僕は息を吐くと同時に、その場にしゃがみ込んだ。
静寂が教室内を包む。
聞こえるのは僕の傍でしゃがんでいる百合園の荒い息遣いと、僕自身の心音。
追加でゾンビが出て来る気配もなかった。
どうやら戦いは終わったらしい。
改めて自分の体を見る。
制服は裂けてボロボロだし、あちこち出血もしていた。
自分の有様を見てつい溜息が漏れる。
いやあ。
我ながら最悪なプレイだったな。
やることなす事ガバだらけ。
ゲームなら余裕で勝てるんだけど、実際に体を動かすってなるともう少し熟練が要る。
そこまで考えて、今度は百合園を見る。
彼女はまだ横になっている。
深刻なダメージを受けているらしい。
まあ『インフェルノ』でゾンビキャットの攻撃をあれだけ食らったら、普通は首が吹っ飛んでるからな。
女子の中で一番体力が高い百合園だから死なずに済んだのだろう。
まあでもこれで、百合園との仲は少しはよくなったかな?
助けてあげたわけだし。
このゲームの仕様で、ゾンビに囲まれるなどの危険状態のキャラの元に駆け付けたり、瀕死状態の仲間キャラをアイテム等で助けると大きく好感度が上がる、というのがあった。
前回東野の時もそう。
東野の時は抱き着かれたっけ。
彼女がピンチな時に駆け付けたお陰で、一気に好感度が上がったからだろうな。
百合園も少しは好感度上がってくれるといいけど。
そんな事を考えながら、僕は百合園の傍に歩み寄った。
百合園は東野に比べて好感度が上がりにくいという特性を持つ。
だから、一回でいきなり好感度が『好意』になることはないけど、少なくとも『敵対』状態からは脱したはず。
そんな風に期待しながら僕は、まだ起き上がれないでいる百合園のすぐ傍に立った。
「今のヤバかったね。
立てる?」
辛そうにしている彼女に右手を差し伸べる。
すると、
パァンッ!!!
突然手のひらを引っぱたかれた。
百合園が僕を睨みつけている。
は?
なんで?
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