第13話 ザコモブ、ヒロインから勝負を挑まれてしまうⅡ
僕が着地するのと同時に、眼前数ミリの所でエペの先端が止まっている。
気付けば目の前に百合園が居た。
彼女は一瞬で5メートルほどの距離を詰めて攻撃してきたのだ。
これは百合園限定攻撃アクションスキルの一つ『
発動した瞬間当たる仕様になっているので、普通は避けられない。
でも僕にとっては避けるのはさほど難しくはない。
予備動作に入った時点で射線から外れればいい。
僕は攻撃直後で硬直している百合園の脇をすり抜けるようにして、教室の反対側に向かって走る。
『
なので安心して横を抜けられる。
「ッ!!?」
振り向くと、百合園が突きを放った姿勢のまま固まっている。
今度は躱されないと確信していたのだろう。
「こんなはずッ!!?」
百合園が血相変えて突っ込んでくる。
随分直線的な動きだ。
百合園はスキル的に攻撃が真っすぐになり易く、躱されやすい。
だから適宜フェイントやサイドステップを利用して多方向からの攻撃を意識しなくてはならない。
僕が彼女でプレイしてたらな。
この学園も一日でクリアできるのに。
「なっ!?」
僕は百合園をうまく誘導して、教室脇にあったゴミ箱に突っ込ませた。
その隙に再び距離を取る。
百合園はすぐに起き上がってきた。
だがこちらは向かず、下を向いている。
握った拳が震えていた。
顔を見なくても分かる。
完全に怒っている。
圧倒的格下だと思っていた僕に負けてるのが悔しいのだろう。
プライド傷つけちゃったかも。
「百合園さん。
この勝負僕の負けでいいからさ。
追い出すのだけ止めてくれればそれでいいし」
僕はエペをその場に置いて、両手を上げて見せた。
これ以上やっても意味はない。
「ふ……ふざけないでええええええええッ!!!」
だが、そんな僕の提案を全く聞かずに、百合園が再び突っ込んでくる。
音しか聞こえない攻撃を右に後ろにステップして躱した。
正直一対一ならどうとでもなる。
百合園を瀕死状態にする事だって可能だ。
だが攻撃しても良いことは無い。
たとえ彼女を倒しても、彼女は増々怒り狂うだけだろうし、チームの空気も悪くなる。
染井もいい顔しないだろう。
したがって、なんとかこの場を丸く収めなくてはならないのだけれど、どうやって百合園と仲良くなろう。
いちおうゲームの仕様では会話してるだけでも好感度は上昇する。
後は東野の時みたいに『危機に陥っていた所を助ける』とかが上がりやすい。
後は『好みのアイテムをプレゼントする』とかでもいいんだけど持っていない。
そもそも好感度システムが機能してるのかも分からないし、一体どうすれば。
百合園の攻撃を右に左に躱しながら、僕はそんな事を考えていた。
やがて、
「ハア……ッ! ハア……ッ!!」
百合園がへばってダウンしてしまう。
教室の床に四つん這いになって息を吐いている。
スタミナが切れたのだ。
「僕の勝ちみたいだね。
勝った時のいう事聞くって奴だけど、なかった事でいいよ。
僕たちは何の勝負もしなかった。
それでいいよね?」
僕は百合園に手を差し伸べてそう言った。
もうすぐ染井達も帰ってくるだろうし、勝負自体なかった事にすれば百合園も傷つきにくいはずだ。
そう判断したのだが、
「ハア…ッ!
ハア……ッ!
ふざけないでッ!?」
突然百合園が立ち上がり、僕の両肩を掴んできた。
そのまま僕は後ろに押し倒されてしまう。
え?
「まだ勝負はついておりませんわ!
このまま締め上げて差し上げます!」
恐らく護身術か何かで学んでいたのだろう。
百合園は仰向けになった僕の首に腕を回し、高校生とは思えない爆乳(95センチ)で僕の顔を押さえつけながら、その細くて柔らかな足を僕の両腿の間に絡ませてくる。
百合園との距離はゼロ。
完全密着状態だった。
しかも互いに夏服だったために、薄い生地の制服越しに彼女の胸の弾力と体温をもろに感じてしまう。
この技の事を僕は柔道の授業で知っていた。
これは縦四方固めという技である。
男女でかけちゃ絶対にダメな奴。
色んな意味でヤバい。
しかも百合園も僕を押さえつけるので夢中で、僕たちが今どういう状態にあるのか気付いてない様子。
このタイミングで染井たちが帰ってきたとしたら……!
別の意味で死ぬゥ!?
僕が突然のハプニングに目をグルグルさせていると、
——ガチャァン……!
遠くの廊下でガラス窓が割れた音がした。
染井……いや殺気!?
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