第12話 ザコモブ、ヒロインから勝負を挑まれてしまう
百合園はそう叫んだかと思うと、ツカツカと自分の寝室スペースに入っていった。
そして、何か手に持って戻ってくる。
それは予備のエペだった。
「わたくしと勝負なさい!
わたくしが勝ったら、アナタはこの拠点を去ること。
いいわね?」
エペを僕に差し出して言う。
「は?
フェンシングで勝負しろってこと?」
「ええ。
アナタも男子なら、正々堂々勝負なさい」
正々堂々って、僕フェンシングやったことないんだけど。
まあでも仮に百合園と勝負するなら、それくらいのハンデがあったほうがいいか。
素手とかでやったら負けようがないし。
そんな事を僕が考えていると、
「またムカツク事を考えてますわね……!?」
百合園が僕を睨みつけて言った。
自分がバカにされてると思ったんだろう。
「わたくしが勝ったら、アナタはこの教室から出て行くこと!
いいわね!?」
「いいけど、一方的に条件付けるとか不公平じゃない?」
「一方的……!?
フッ……!
アナタ勝つ気ですの!?
全日本選手権三位のこのわたくしに!?」
百合園が僕を嘲笑って言った。
「ま、よろしい。
ゴミにも希望は必要ですものね?
それなら、『なんでも一つ言う事を聞いて差し上げます』わ」
そう言うと百合園はニヤリほくそ笑んだ。
「ちょ……!
そんな同人誌みたいな条件付けられると勝った時困るんだけど」
僕は当然止める。
後で色々揉めそうだし、とりあえず『百合園が僕に攻撃的になるのを止めてくれる』とか、それぐらいでいい。
なんて僕が思っていると、
「キモオタ変態ドクズがッ!!」
耳を劈くような高い罵声と共に、百合園がエペで僕を突いてきた。
「おっと」
百合園の突きを躱した僕は、そのままエペを持って立ち上がった。
走って距離を取り、振り返る。
百合園は距離を詰めては来なかった。
その場に佇み、こちらを睨みつけている。
「言っておきますけれど、今のはわざと外しました。
簡単に死なれては面白くありませんから」
言って、こちらに切っ先を向けてくる。
『簡単に死なれては』って、ホントに殺す気かコイツ。
百合園のエペの威力は高く、ゾンビキャットの爪並みの威力がある。
クズ山が食らったら即死か部位破損。
その凄まじい威力を知っているからこそ絶対に突かれるわけにはいかなかった。
「死になさいド悪党ォ!!」
百合園がそう叫んだ次の瞬間、彼女の体がブレて見える。
攻撃モーションに入った。
百合園が腰を落とした一瞬を見極め、『ドリブル』で右に躱すべく動き出す。
直後、百合園が物凄いスピードで僕の眼前に踏み込んできた。
「あぶね」
百合園の攻撃スキル『突き』をギリギリで躱し、そのまま横を走り抜ける。
「ッ!?」
百合園が驚いたのが分かった。
即座に殺気。
僕はそれ以上走るのを諦め、振り向く。
ちょうど百合園が『突き』直後の硬直を終えて、近距離の僕に対して通常の『突き』を放つ前動作をしているのが見える。
それも一瞬の事で、次から次へと『突き』や『払い』攻撃をしてきた。
それらの動きを一つ一つ冷静に見て避けていく。
百合園の攻撃モーションはめちゃくちゃ短い上に動作自体も速い。
エペそのものは全く見えなかった。
だから僕は最初からエペを見ていない。
僕が見ているのは百合園の上半身。
腰の落とし方や体の向きを見れば、どんな攻撃が来てどのタイミングで躱せばいいか一瞬で予測できる。
ちなみに予測も完全ではない。
だから逐一百合園の動きを注視して、毎瞬間ごとに予測を修正しながら避けている。
「チッ!?」
すると、10回目の突きの後に百合園が背後に跳んだ。
百合園の回避アクションの一つ『バックステップ』だ。
距離を取った百合園は、無言で僕を睨みつけてくる。
明らかに驚いている様子だった。
攻撃が当たらない理由が分からないみたい。
百合園が好きだったからな。
彼女を使って二千時間くらいはプレイしたと思う。
だから全モーションはもちろん発生フレームまで覚えてるし、百合園の特性に関しても当然把握している。
彼女の強みは全仲間キャラ中最速の移動速度と自然治癒速度。
そして最初から高威力の武器である『エペ』を持っていることだ。
あとは『受け流し(百合園の場合は『パリィ』という)』という特殊アクションもある。
これは棒状の武器(木刀・バット・鉄パイプ等)を持っている時に発動できるアクションで、敵の攻撃を受け流せるというもの。
『受け流し』自体は他のキャラでもできるんだけど、百合園だけは『受け流し』時に受けるダメージがゼロになる。
そのため一対一の戦闘に関しては会長よりも強い。
ただし体力とスタミナが低く、また高慢な性格ゆえに仲間からの好感度も上がりにくいというデバフ要素があるので玄人向けのキャラだった。
また仲間キャラとして動く場合、AIが超攻撃的という欠点もある。
他のキャラと違って敵前逃亡しないため、放っておくとゾンビの餌になってることが多い。
「チッ!?
少しはやりますわね!?
お父様に専属コーチでも付けて鍛えて貰っていたのかしら!?」
百合園が僕を睨みつけて言った。
実際そうだったらどんなによかった事か。
この体はあまりにも貧弱すぎる。
「これ以上やっても意味ないと思うけど。
そろそろ落ち着いて話しない?」
「話すことなどありませんわッ!」
百合園が僕の提案をかき消すように叫んだ。
次の瞬間。
――殺気。
百合園の姿が本当に消えた。
僕は直感的に後ろに跳ぶ。
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