第11話 この世界の難易度

『ドリブル』で正面突破する。


 右左右左左右左左左左……!


 ラッシュ時の新宿駅かってくらいに次々襲い掛かってくる高校生ゾンビたちを右に左に躱していく。

 時々差し挟まれる『掴みバグ』も『スマホキャンセル』で躱し、僕は教室からスルリと抜け出した。

 そのまま廊下を突っ走る。

 ゾンビと戦っているヒマはない。

 あの数のゾンビを倒してたら日が暮れてしまう。


「グワギャアアアアアッ!!」


 10秒も走らない内に、背後にゾンビが迫ってきた。

 クズ山の足の速度は東野以下のため、当然ゾンビに追いつかれる。

 直後、ゾンビが僕のうなじ目掛けて嚙みついてくるような気配がした。

 

「ひょっ」


 僕は噛みつかれるタイミングを見計らって左へと躱す。

 これは『背面ドリブル』という技術。

 ドリブルの上級テクで、背後から襲ってくるゾンビに対し『ドリブル』を行うというものだ。

 振り向きを応用するテクニックなのでそこそこ難しい部類に入るテクニックだったが、僕は何千回とやってるのでまず失敗しない。

 しかもどっかのゾンビキャットとは違ってゾンビは煩いし足音もするので一層簡単だった。


 ジグザグに走りながら、僕はチラと別の教室を見る。

 中庭を抜けて、向かい側の廊下の窓によじ登ろうとしている東野の姿が見えた。

 どうやら無事に逃げられそうだ。

 僕も逃げよう。




 □□




 五分後。

 僕は一階階段裏の物置スペースにある掃除用具入れロッカーの中に隠れていた。

 前みたいに二階から飛び降りる手段もあったけど、結局ゾンビを撒けなかったという事もあり今回はロッカーに隠れることにしたのだ。

 既にゾンビたちの声はしない。

 どこかへ行ったようである。


「よし」


 頃合いを見計らって、ロッカーから出ようとした。

 すると、


 ブブブ……!


 突然ポケットでスマホが振動した。

 取り出して画面を見ると、通知が入っている。

 染井からのL〇NEだった。


『東野と美桜発見。

 二人共疲れてるから少し休憩して教室に戻る』


 とある。


 僕は染井に『了解』のスタンプを押した。


 同時に疑問に思う。

 廊下には百合園が居たはずなんだけど、居なかったのか。

 僕ともすれ違ってないし、アイツどこ行ったんだ?


「とりあえず帰るか」


 考えていてもしょうがないので、僕も立ち上がる。

 周囲にゾンビが居ない事を再度確認しつつ、拠点の教室へと向かった。

 歩きながら、現在僕が置かれている状況を整理し始める。


 ゾンビが全力疾走してくる事から、恐らくこのゲームの難易度設定は『インフェルノ』。

 プレイヤーが選択できる中で一番難しい難易度だ。

 インフェルノの設定は次の通り。


 ・全てのゾンビが走る。

(クズ山を含む一部のプレイヤーキャラの速度では走っても追いつかれる。

 なので壁に引っかけたりジグザグ走法をするなどのコツがいる)


 ・全ての敵の耐久力と攻撃力・聴力と視覚・反応速度の大幅上昇。

 一部の敵は聴力が無限。

(無限=そのフロアのどこに居ても、音を立てれば気付く)


 ・敵AIの強化。

(一部の敵は人間並みに賢い。こちらの行動を学習して先回りしたり、罠を仕掛けたりしてくる)


 ・全ての敵に即死攻撃が追加。

  一部のボスは触れた瞬間即死。


 ・ボスの体力2倍。

  ボスは歩かない(常に全力疾走で殺しに来る)。

  隠れた時の発見確率2倍。


 もう『死ぬがよい』って感じの難易度である。

 一方プレイヤー側にもバフはある。

 さっきの10秒しゃがんで疲労が回復したのもそれだ。

 他の難易度では20秒かかる。

 他にも体力が自然治癒したりスキル周りも強化されてる他、まだ試してないけど回復アイテムとかクラフト関連も強化されてるはず。

 バフがある理由は、恐らく余りの難しさのためだ。

 開発側がクリアできるように調整したのだろう。

 ただ、正直バフなんてあってないようなものだけど。

 仲間キャラもAIよくなってるはずなのにバカだし。


「まあでも、大変だったけれどこれで仲間が増える。

 あとは拠点の防備も固めて、それから……」


 そんな風に色々考えながら教室に戻ってきた。

 すると、


「……」


 教室に百合園が立っていた。

 彼女一人のようだ。

 染井たちの姿はない。


 一人先に帰って休んでたのか。

 東野来るかもしれないから廊下に居てくれって言ったのに。


「百合園さん。

 東野さんだけど、なんとか助けられたよ。

 色々あって今は染井くんたちと一緒にいるみたいなんだけど」


「知ってますわ。

 メッセージがきましたもの」


 すると百合園が低い声で言った。

 ギロリ、僕を睨みつけてくる。


 なんだコイツ、怒ってるのか?


 思っている内、


「!?」


 またエペを突きつけてくる。


「は?

 何これ」


 反射的に僕が尋ねると、

 百合園は「ハア……!」大きな溜息を吐いた。


「何も分かっておりませんのね。

 どうしてそんなに低能で居られるのでしょう。

 理解に苦しみますわ」


 なんだかよく分からない事を言ってくる。


「いや、急に居なくなったのはそっちじゃん」


 僕がそう指摘すると、


「その言葉……ッ!

 クズ山の分際で生意気ですわ!

 このわたくしが教育して差し上げます!」


 百合園が激高して叫んだ。


 ホントこいつ面倒くさいな!?

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