第7話 ザコモブ、ゾンビの群れを撃退してしまう
って!?
アイツ僕の話聞いてんのかよ!?
思っている間にも染井がゾンビに噛みつかれ……。
「よっと!」
かと思ったら、そのまま右に抜けた。
直後に近くに居たもう一体が染井に噛みつこうとしたが、染井はそれも避ける。
その動きこそは、先に僕がゾンビたちの攻撃を躱した時と全く同じ『ドリブル』だった。
(僕の動きを一回見ただけで再現した……!?
僕なんか実機で半年ぐらいプレイしなくちゃ完璧にはできなかったのに……!)
さすが主人公と言わざるを得ない。
僕みたいな生まれながらのザコモブとはスペックが違う。
だが同時にチャンスでもあった。
染井にゾンビたちが引き寄せられている。
お陰で僕は完全フリー。
(いけるッ!)
僕も走った。
途中に居た一匹の攻撃をドリブルで躱し、そのまま登ってきた階段の方へと走る。
そこに目当てのアイテムがあった。
『消火器』である。
これはゲーム内で使えるアイテムの一つ。
主な使用法は二種類で中身をぶちまける方法と、もう一つは……ッ!
「おるああああああああッ!!!」
振り返りざま、僕は全力で消火器を横に振った。
僕を追って来ていた女子高生ゾンビの胴に当たる。
すると食らったゾンビが派手にぶっ飛んでいった。
五メートル、いや十メートルは飛んだか。
なんでこんな事になるかって、この世界の武器には全て『重さ』という数値がある。
この数値が高ければ高いほど攻撃を与えた時にのけ反ったりぶっ飛んだりするのだが、『消火器』は序盤に手に入る武器の中では断トツで重い。
だからこんな事になる。
(現実世界じゃこうはいかないけれど、この世界なら……ッ!)
僕は続けざまに消火器をブン回し、二体目・三体目となぎ倒した。
後はこれを繰り返すだけ!
それからゾンビが動かなくなるまで大した時間はかからなかった。
一体減れば格段に倒しやすくなるからだ。
最後の一体に関しては、しゃがんでスタミナを回復する余裕すらあった。
一方的に殴りまくれるので、弱い者イジメみたいになる。
だが同情している余裕はない。
僕も死ぬかもしれないのである。
やがて最後のゾンビの頭を潰した時、
「はあ……ッ!」
未知の充実感を覚える。
僕って案外イジメるの好きなのかな。
自分ではドMだと思っていたけど。
そんなくだらない事を考えていると、
「おっしゃあああああッ!!」
染井の歓声が聞こえた。
振り向けば、染井の周りのゾンビがみんな倒れている。
僕が三体倒す間に染井は七体倒していたのだ。
さすが主人公。
この世界でも結局僕はモブ。
染井の活躍っぷりに、僕はいじけたい気持ちになった。
すると、
「葛山やったな!!」
言いながら染井が僕の所に走ってきた。
どうした急に。
「すげえじゃん!
ゾンビを三体も倒しちまうなんて!」
「いやそんな事ないけど。
染井は七体倒してるし」
「数なんか関係ねえだろ。
だってお前、七体相手でも余裕そうじゃん」
それはそうだけど。
まあ染井とのスペック差を考えれば僕もそれなり優秀って思ってもいいのかな。
このゲームのステータス値は1から10で設定されてて、
染井は体力・スタミナ・腕力・速力・コミュ力といった数値がほぼ全部9か10。
一方僕はオール1だ。
数値で見れば10倍、実際の動きに換算すると3倍くらいの差がある。
なんて思っていると、
「わたくしですら二体同時が限界なのに……ッ!」
百合園が驚き混じりの声で呟いたのが聞こえた。
いつの間にかバリケードのこちら側に来ていたらしい。
彼女の表情はいかにも悔しそうだった。
その限界まで吊り上がった目と口端を目にして、僕は内心ほくそ笑んでしまう。
(いや百合園使って二体同時が限界とか初心者かよ)
僕なら同時に二百体はいける。
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