第6話 ザコモブ、ゾンビと戦ってしまうⅡ
左。
一番近くに居たゾンビが両腕を上げて、僕に噛みつこうとしてきた。
ゾンビの上げた腕と体の向きを確認しながら、僕は左に避けつつ前に一歩踏み込む。
すると、
「グアウッ!?」
物凄い速度のまま突っ込んできたゾンビは、そのまま僕の後ろに出てしまった。
間髪入れず次のゾンビが僕に食いつこうとしてくる。
(右左右右右右右左……)
僕が前に一歩進むと同時に、ゾンビが次々襲い掛かってきた。
僕はゾンビの動きを確認しながら淡々と前に進み続ける。
襲い掛かってきたゾンビたちは次々と僕の後ろに出てしまう。
「なんですのあの動きはッ!?」
「すげえ……!」
ゾンビの呻き声に混じって、百合園と染井の驚く声が聞こえてくる。
二人ともステータスだけなら僕より圧倒的格上だった。
そんな二人に驚かれてるのは正直気持ちがいい。
これは通称『ドリブル』と言われる技術。
このゲームの設定上、ゾンビは攻撃できる範囲に敵が来ると自動で襲い掛かる。
それを利用するのだ。
わざと攻撃させて、敵の攻撃後の硬直時間を利用して横を抜けていく。
これの上級者はゾンビの群れの中を泳ぐようにしてすり抜けられるのである。
僕は100人連続ドリブルを達成した事がある。
この世界が本当にゲームなら、僕に抜けられないゾンビの群れはない。
そう思いながら目の前に現れた女子高生ゾンビを躱したその矢先、
「!」
躱したはずのゾンビが急に目の前に現れた。
驚く間もなく肩を掴まれる。
(『掴みバグ』か!)
脳内にその単語が浮かんだ。
『掴みバグ』は『躱したはずのゾンビが急に目の前に現れて掴まれてしまう』という現象である。
一定確率で発生し、防ぐ方法はない。
ただでさえ難易度高めのこのゲームで、最悪のクソ仕様の1つ。
これがあるから『ドリブル』は難しいのだ。
だが僕はその対処法も知っている。
(ここまで一緒だとは面白い!)
ゾンビが僕の首筋に噛みつく寸前。
僕は咄嗟にポケットに入れていたスマホを取り出した。
こんな時に何やってんの? と自分でも思ってしまうが、もちろん理由がある。
このゲームの仕様で『何かの動作中にスマホを取り出すと、動作をキャンセルできる』というテクニックがあるのだ。
ちなみにゲームだと一瞬画面が切り替わるんだけど、僕の場合は視界は何も変わらない。
ただ急に体が軽くなったので、掴まれたゾンビを両手で突き飛ばす。
更に正面から迫ってきた別の女子高生に『ドリブル』をし、その脇をすり抜けた。
ちなみにゲームなら抜けた直後に蹴りを一発くれてやるんだけど、ゲームと完全に同じかはまだ分からないため、トラブルに備えて距離を稼いでおく。
ってか相変わらず遅いなこの体。
キー操作ができたらもっと早く動けるんだけど。
仕様を利用したバグ技があるし。
そんな事を考えながら僕は廊下の窓に向かって走る。
窓ガラスを開けると、サッシ部分に足を掛けてよじ登った。
この窓からグラウンドに跳び下りるのだ。
それで半分以上のゾンビを引き剥がせる。
「ッ!!」
だが僕は窓から跳び下りることができなかった。
二階は思ったよりも高かったのだ。
グラウンドがめちゃくちゃ遠く感じる。
(あれ、二階ってこんな高かったっけ?
地面もすっごい硬そう……!?)
頭では大丈夫だと分かりきっていた。
ゲームで何万回も繰り返してきた動作だから。
だがいざ跳び下りるとなると怖い。
「まさか……!
あの窓から跳ぶ気ですのッ!?」
百合園の驚く声が聞こえてくる。
「ギシャアアアアッ!!」
なんて思っている内にもゾンビがやってきた。
ビビってるヒマはない。
僕は決死の思いで窓から跳び下りる。
だがバランスが悪い。
グングン地面が近づき、僕の体は地面に叩きつけられる。
そう思ったのだが、
スタッ。
直後、僕は不思議なくらい自然にグラウンドに降り立っていた。
何か妙な力が働いて、僕の着地姿勢を強引に整えてくれたのだ。
おそらくこれもゲームの仕様だろう。
お陰で怪我しないで済んだ。
思っている内に走り出す。
振り向けばゾンビたちもボトボト落ちてきた。
立ち上がるまでに5秒くらい時間がある。
この間に奴らを振り切る。
僕は全力疾走で一階昇降口に向かった。
そのまま廊下を走り抜けた。
一階にはゾンビがいない。
みんな二階に集まってたんだ。
辺りの状況を確認しつつ、階段を二段飛ばしで登る。
息は切れるし体も重いが、ゲームなら気にしなくていい。
どれだけ走っても死なないからだ。
とはいえ苦しいけど。
その間に一階に戻って階段を登り、染井たちが居た場所まで戻ってきた。
だが。
「があああああ!」
さすがに全部のゾンビは振り切れなかった。
追いついてきたのは女子高生ゾンビが10体。
(もう一回窓から飛ぶか)
僕がそう判断した時。
「葛山!」
染井の声がした。
見ればバリケードの上から跳び下りて来る。
やっと百合園の踏みつけから逃れたんだろう。
手にはバットも持っていた。
(染井と二人の方が安全かな)
僕は一瞬でそう判断すると、彼の元へと走る。
「染井くん。僕が囮になるから、隙を見て攻撃して!」
「了解だぜ相棒ォ!!!」
言いながら染井がバット片手に突っ込んでいく。
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