第43話 第3段階とその先
王宮。
新王の即位から10年で、王国は未曾有の事態に陥っていた。
「市民が自ら奴隷になる動きが止まりません。
今や市民よりも奴隷のほうが上に見られるほどです」
「問題ですな。あるべき階層の序列がねじれている」
「一種の腐敗ですぞ。奴隷になりたくない市民が追いやられ、奴隷を妬むなどと……こんな馬鹿な話がありますか」
「陛下」
「陛下」
「陛下」
黙って聞いていた新王は、片手をあげて「静まれ」と合図する。
大臣たちは口を閉じた。
「奴隷には――奴隷という制度には、実質的に、価値がなくなった」
ざわめきが起きた。
国のあり方が大きく変わろうとしているのだ。
「奴隷制度を撤廃する」
「「おお……!」」
「市民を市民のまま訓練すれば、ねじれは起きぬ。奴隷になりたくない者も、訓練を受けるに否やはなかろう。
だが全ての市民を訓練するとなれば、今の奴隷商人たちだけでは足りぬ。教育内容やその水準にもばらつきが大きい。
ここは、英雄に再びその腕をふるってもらおうではないか」
陛下の言葉を受け、満を持して俺の登場である。
「市民向けに訓練するということで、これを奴隷に対する訓練と切り離してイメージアップを図る必要があるかと。すでに奴隷が訓練を受けていることは広く知られていますので、市民向けには『訓練』ではなく『教育』あるいは『学習』と呼ぶことにしましょう。従って訓練所の名称を『学校』とします。
施設と教員・教材および運営については、奴隷商人と訓練所をそのまま流用すればいいでしょう。3年目の生徒が2年目の生徒に教育し、2年目の生徒が1年目の生徒に教育する。そうすれば教師は3年目の生徒にのみ教えるだけでよく、生徒が今の3倍に増えても対応できます。教材と校舎さえ揃えば、卒業生を教師に雇うこともできます。そのあたりは国土大臣や産業大臣と相談になりますが。
それから、敷地の出入り口に見た目のいい門でも取り付ければ、イメージも払拭できるかと」
「門か……なるほど。奴隷や囚人向けの門と、城門や貴族の屋敷の門とでは、デザインが違うだけで印象も大きく違う。安上がりで良い方法ではないか」
財務大臣が言う。
他の大臣たちからも、肯定的な意見が飛び交った。
「よろしい。
ではブラオ伯爵を学校大臣に任命し、学校制度に関する一切を一任する」
新王が宣言し、こうして俺は学校大臣になった。
学校に関する一切を一任されたので、当然カリキュラムにも口を出せる。
ここは日本式の教育を取り入れよう。民族ジョークに言われるほど、日本人は勤勉で誠実で親切で礼儀正しく、そのような民族で構成される日本国は他に類を見ないほど治安が良い。
5年後。
「卒業生たちの素行が極めてよろしく、犯罪件数が以前の10分の1以下になりました。従って警備関連の予算を、お配りした資料の通り、大幅に削減できる見込みです」
「よろしい。
それでは、奴隷の首輪を、製造・販売を禁止とする。現在すでに使用中の犯罪者については引き続きそのままとして、今後は収容施設にて更生を図る。関係各所は対応を開始せよ。
また、現在使用中の犯罪者たちが全員死亡した時をもって、所有・使用も禁止とする。回収し破棄するための準備を進めておくように」
「「ははっ」」
こうして王国から奴隷の首輪は消えた。
それが実現したのは4年後で――最後の1人は身勝手国王だった。鉱山労働で一気に体をやられ、病死したらしい――俺は前世の享年に追いついてしまった。34歳。
だが、今度は誘拐も暗殺もされず、天寿を全うできるだろう。王女の権力、魔王の武力、四天王の防御力、その他あちこちの友人知人……多くのものを得た。
今はじっくりと我が子の成長を楽しもう。やがて戴冠する予定の息子が、この先の王国を背負って立つことになる。これからは前世の俺みたいな犠牲者は出ないはずだ。
◇◇◇
ここで終わりです。
読んでくださった方々、ありがとうございました。
思いがけず評価やフォローもいただき、感謝の念に堪えません。
拙い作品ですが、楽しんでいただけたなら幸いです。
ブラオと奴隷の首輪 @usagi_racer
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます