第42話 第2段階の始まり
「市民の有効求人倍率が1.0を下回りましたわ」
嫁が報告してきた。
有効求人倍率。労働者1人に対して、募集している企業がいくつあるか。その割合を示すものだ。
単純に考えると、1.0なら職業を選ばない限り全員が確実に何らかの職業につける。実際には特殊な技能や知識を必要とする場合があって、その限りではないが。そしてこの数字は、大きくなればなるほど、企業が人材を求めているということになる。人手不足ということだ。それは通常なら、好景気で事業拡大のために人手が必要という意味になる。
逆に1.0を下回ると、どう頑張っても無職になってしまう者が現れる。
「奴隷は?」
「2.0を超える勢いですわ」
異常なほど高い。
日本では、1952年~2018年における有効求人倍率の最高値は1973年の1.76倍。高度成長期の終末期とはいえ、実質GNP(国民総生産)が右肩上がりで成長を続けていた時期だ。経済の好調ぶりを背景に、各企業も積極的に雇用を進めていたと考えられる。
好景気といえばバブル。だがバブル期でも有効求人倍率は1.4程度だった。2.0というのが異常だと分かってもらえるだろう。
蛇足だが、低い時期の例としては1999年の0.48倍。最低値は1955年の0.27倍だ。戦後まもない1950年代は0.27~0.51倍という低い水準で推移し、高度成長期が始まる60年代に入ると、右肩上がりで上昇していった。バブル経済崩壊の影響が続いた90年代は、80年代に過剰な雇用をしていた企業が雇用を一気に絞り始めた時期だった。
「始まりだしたな。第2段階が」
思わずニヤリと笑ってしまった。
魔王が「ふむ」と1つ頷いた。
「奴隷がよく採用されて、市民が働き口を失う段階……だったな。
実力が逆転すれば、下剋上が起きるのは人間でも同じというわけだ」
「そうだな。
一種のクーデターだよ、これは。立場を失った市民は、やがて自ら奴隷になりに来るだろう。そして奴隷の供給は加速し、奴隷制度は意味を失う。第3段階が始まるのは、もう時間の問題だ」
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