第41話 第1段階の終局
中継都市リレー。
その最大の商人であるアルファオメガ商会は「まな板から戦車まで」と謳っている何でも屋だ。つまり、日用品から軍需物資まで何でも売っている。
もっとも、この世界での「戦車」は馬が牽引する立ち乗り荷車なのだが。ローマ帝国の戦車と聞いてイメージするようなやつである。あるいはハシゴ車のようなタイプもある。防壁に突っ込んで、そのままハシゴをかけるための戦車だ。人がハシゴを持って走るよりも素早く、途中で倒されにくく、しかも撤去されにくい。
それはともかく。
会長のアマドン・プラムイは、大いに満足していた。と同時に、悩んでもいた。
「レンタル奴隷が『できすぎる』ようだな」
「はい。相対的に市民を雇う価値が下がっております」
「今はまだいい。だが、レンタル奴隷のマネをして訓練された奴隷を売り出す動きは広がってきている。奴隷の訓練内容がもう少し洗練されたら、市民を雇う価値がなくなるだろう」
この世界は家内制手工業だ。商業の世界でも、従業員を一般公募はしていない。コネ採用が中心だ。それは、雇ったあとで問題を起こさない保証がないから。
コネ採用というのは、商会長とのコネクションがある人物から「こいつは信用できるから雇ってやってくれ」と頼まれて採用する。日本でもアパートを借りるときは連帯保証人が必要だが、それと同じことが就職でも必要になるわけだ。
商会長の側からすると、これは当然の用心だ。悪くすると店の金を持ち逃げされる可能性すらある。銀行だの電子マネーだのは存在しないので、資産は金庫や土蔵にしまっておくわけで、その鍵を盗まれたら、後はお察しである。
そんな状況で、奴隷というのは「信用できる」という一点で市民よりも優れている。奴隷の首輪によって命令には逆らえないので、店の金を持ち逃げだの、企業秘密を他社に売るだのといった心配はない。ただ、やる気がなくて能力が低いというのが問題だった。
その弱点が克服されようとしている。
「奴隷に対抗して、市民への教育を施す訓練所が必要かもしれません。
そうでなければ奴隷を雇うほうが都合が良く、市民に労働の口がなくなってしまいます」
「だが、誰がそんなものを作る? さしもの英雄領主だって、費用を回収できない事まではしないだろう。あれは奴隷だから利益になるのだ。市民を教育したって、その後に『有料でレンタル』というわけにはいかんぞ?」
「そうなりますと、働き口がなくなった市民は……」
「飢え死にか、あるいは……あっ」
あるいは、奴隷になるか。
奴隷になれば訓練所に入れる。
訓練所に入れば3年で卒業し、5年後には解放されて、市民に戻る。
「……できている」
すでに出来ているのだ。
市民を教育するための訓練所が。
その流れが。
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