第37話 レンタル奴隷大好評
「――なので最大でも1年。5年後には解放する予定で……」
顧客1号の侯爵から1ヶ月。
うまく宣伝してくれたようで、このところ急激に客足が増えつつある。
飲食店や商店と違って「新しい店が出来たんだって。行ってみようぜ」みたいな感じで客が集まることはない。だが、侯爵のあとはずっと暇だった。閑古鳥状態だった。それがここへ来て急に。
つまりは侯爵のところで奴隷たちが研修期間を終え、本格的に働き出したのだろう。
「お、お待ち下さい! 旦那様はまだ商談中で――!」
「うん?」
外が騒がしい。
と思ったら、ドアが乱暴に開けられた。
「評判の奴隷を売っているのは、ここか!
私が買い取ってやろう! 光栄に思うがよい!」
先に商談中だった客は、突然の乱入者にポカーンとしている。
俺もそうなりかけたが、ほうけている場合ではない。
「おっと。アホが釣れたか。
どこの田舎貴族だ、お前?」
「なんだと!?」
「おおかた、ただの奴隷商人だと思ったのだろうが、残念だったな。私は伯爵だ。それに、我が妻は王女だ。お前、国に楯突くつもりか?」
「き、貴様……! 貴族をかたり、王族を妻などと……! 不敬にも程があるぞ!」
「だから田舎貴族だというんだ。
あれほど大々的に発表したのに、『もしかして』と思う程度にすら知らないのか。これだから田舎者は」
そのくせ奴隷のことはどうやって知ったのだろう?
もしかして都合が悪いことは聞こえないタイプか? 勝手ツンボってやつだ。田舎者には多い印象だが、こっちの世界でも同じか。世界が狭く、自分が正しいという思い込みが強いとなりやすい病気だ。多種多様な人と関わり、自分にはない価値観や文化に触れることが当たり前になる都会では、並大抵のボッチですら、こうはならない。
牧歌的な田舎特有の良さとはトレードオフだな。
「あなた。なにやら騒々しいようですけど、何か問題でも……」
騒ぎを聞きつけたか、嫁がやってきた。
だが、室内を見ると、納得と辟易の表情を浮かべる。
「……ああ、そういう事ですか。
皆さん。構わないからつまみ出してしまいなさい」
「よ、よろしいのですか?」
「相手が誰であろうと狼藉は許しません。ここは王女たる私の夫が支配する
主と狼藉者。あなたは、どちらに従うつもりですか?」
「はっ! 直ちに実行いたします!」
直立不動、最敬礼。
からの駆け足、羽交い締め。
乱入者は引きずり出され、つまみ出された。
「失礼しましたわ。
では、どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
嫁が出ていく。
「騒々しくて申し訳ありません。
では、先程の続きですが――」
奴隷の訓練所は、順調に運営できている。
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