第35話 奴隷購入

「できましたわ」


 と嫁が言うので、現地を視察した。


「これか……」


 木造の小学校といった感じの建物だ。


「周りには何も無いな」


 壁があるだけだ。

 前後に壁。前の壁は以前からあるもの。その向こう側は、俺の館もある市街地だ。後ろの壁は新しく建築していたもの。増築部分だ。


「住宅等に先んじて、訓練場だけ建ててしまいましたから」


 住人を募集すれば、すぐに生活が始まる。

 しかし訓練所の成果が出るのは、訓練が終わってからだ。先に建ててくれたのは助かる。


「ありがとう。気の利く嫁だ」


「いえいえ。

 それでは、この後はどういたしましょう?」


「奴隷を購入するが、その前に教師と教材を用意しないと。

 冒険者ギルドと商人ギルドに相談するか」


 冒険者ギルドでは、教員になる人材と、運動関係の教材や教育課程について。

 商人ギルドでは、読み書き計算あたりの教材や教育課程について。

 それぞれ相談できるだろう。



 ◇



「具体的には、引退した元冒険者の受け皿になればと思っている。あまり大勢は雇えないが。

 商家の三男坊とか、読み書き計算ができる冒険者も居るだろう?」


「そうですね。あるいは貴族の、跡継ぎでない人なども」


 あなたのような。とギルド職員は言う。

 そうだね。俺は男爵の息子だね。正室の子が次男として生まれたものだから、疎まれて、ややこしい覇権争いになる前に出てきたんだった。

 最近、手紙が届いたんだ。正室に怪我をさせられて俺が治療費を出したメイドから。あのときは世話になった、結婚できた、とお礼や近況報告の内容だった。最後に「豚が木登りを覚えました」と書いてあったので、うまくやっているのだろう。


「ギルドから引退した連中に声を掛けることはできるか?」


「はい。お任せ下さい。

 全員ではありませんが、少なくともこの街に留まっている者は、なんとか連絡を取れるはずです」


「では、よろしく頼む」


 そういうことになったので、これで冒険者ギルドのほうは安心だ。

 次に商業ギルド。


「これはまた、ありがたいお話ですな。

 数十人分の教材を定期的にご購入いただけるわけでしょう? そんなの乗るしかありませんよ。素晴らしい。新しい領主様は、こちらの分野でも英雄でいらっしゃいますな」


 と快諾だった。

 そうして教員と教材が集まり、リハーサルを重ねて、いよいよ第一期生を購入することになった。

 まずは30人。犯罪奴隷は除く。


「君たちは、奴隷の運用に関する新しい試みの第一号になってもらう。

 ここでは君たちに訓練を施し、訓練を終えた者はレンタル奴隷として、奴隷を求める人たちのもとへ派遣される。

 貸し出しなので、期間が過ぎたらここへ戻ることになる。派遣先が良いところでも悪いところでも、期間終了までの我慢だと思え。

 そうして訓練終了から5年を目処に、費用を回収し、いくらか利益を得る予定だ。それが完了したあかつきには、君たちは奴隷身分から解放される。

 その時、君たちは自由とともに知識と経験を身につけている。あとは好きに生きていけるだろう。もちろん働き口の世話もする。さあ、奮い立て! 自由を手に入れろ! 16年前の勇者が叶わなかった自由を、君たちが取り戻せ! それが魔王軍から人類を守った勇者への供養だ」


「「おおーっ!」」


 奴隷は一生奴隷のまま。それが普通だ。

 しかしここでは、訓練に3年、費用回収に5年を目処として、解放される。奴隷たちのモチベーションは爆上がり。

 やる気があって能力の高い奴隷を、レンタルなので安価に提供できる。好評を博するのは確実だ。

 そして、この動きは、いずれ社会を変える。奴隷制度は破壊されるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る