第34話 訓練所
奴隷を訓練して、知識や技術を与えることにした。
「領民が教会に集まって教会長の話を聞き、神に祈るだろう? ああいう場所を作って、奴隷を集め、訓練させる計画だ。
そうすれば1人の教師が数十人の奴隷を教育できる」
学校制度のマネだ。
こっちの世界には――少なくともこの国には、学校というものが存在しない。
貴族たちは家庭教師を雇って子供に教育を施す。その家庭教師というのも、貴族の誰かだ。生徒側の家格や財布事情によって変わるが、なるべく、それと知られた人物を雇って教えを請う。場合によっては、教師側の家に居候して見習いをすることもある。騎士などはその代表的な例だ。女子ならメイドが代表例になる。
なんで学校制度が無いのかといえば、貴族が庶民を支配するのに好都合だから。支配される側には、バカのままで居てほしい。猫を飼ったことがある人なら分かるだろう。ドアの開け方を覚えてしまうと、勝手に出ていってしまう。それを人間がやると、つまり支配から逃れるということになる。
「反発を受けませんか?」
嫁が心配そうに言う。
「程度の問題だろう。あとは、どう言い繕うか」
なんでもない様子で魔王が言った。
俺は頷く。
「軍隊と同じだ。
訓練しないと兵士として使い物にならない。号令の意味すら知らない、武器の使い方も分からない……それでは兵士として使えない。
だがもし、すでに知っているなら? 平民をイチから訓練するのと、すでに基本的なことを学んでいる奴隷なら、どっちが使いやすい?
貴族並みの教育を与えることは考えてない。でも文字の読み書きができる奴隷がいたら、事務仕事の手伝いに買い求める人もいるだろう」
日本でも外国人労働者の受け入れが拡大して、その教育に苦労する話があちこちで聞かれるようになった。端的に言えば「日本人を雇うよりも個人差が大きい」という事になる。
真面目な人は日本人よりも真面目に働き、真面目に学ぶ。一方で、不真面目な者は平気で遅刻したり、無断で早退したり、ダメだと教えたことを「なぜダメなのか」すら理解できなかったりする。
比べてみれば、日本人は良くも悪くも平均化され、均質化され、画一化されている。つまり俺が訓練所でやろうとしていることは、奴隷を日本人化することだ。それによって、人材の「あたりハズレ」をなくす。できるだけ「平均」よりも「あたり」の方へ寄せて。
「てことで、まずはその用地だな。
具体的には、このぐらいの設備が必要だろうと思っている」
小学校を参考にした、設備の一覧と、その建物の見取り図の例を出してみた。
「これは……!」
嫁が驚く。
「すごい完成度だ。
もしかして、前の……?」
魔王が言葉を濁す。
転生した勇者だということは隠すことにした。その仇討ちで前の国王と王子を奴隷にして鉱山送りにしたので、バレると面倒なことを言い出す輩が現れるだろう。
「そう。例の資料を参考にしている」
ごまかした。
嫁が一覧の一部へ指をさす。
「この音楽室というのは? 奴隷に音楽が必要ですか?」
「歌ったり演奏したりする必要はないかもしれない。
しかし、楽器の扱い方を知ることは、何かのときに役立つだろう。
極端な例を言えば、どこかの貴族が威信をかけてパーティーを開き、そこへ呼んだ楽団の世話を命じた奴隷が、楽器をどう扱うか……」
「ああ、それは大問題になりますわね」
「演奏は下手でも、楽器の扱いを知っている者が世話係なら、楽団も安心して世話をされるだろう。
場合によっては、その土地の気候などを考慮して、楽器の置き場所や管理法にアドバイスできるかもしれない」
「そういえば、海辺の宿屋で武器が錆びないようにアドバイスをいただいた際は、護衛の騎士たちに好評でしたわ」
「もしも才能のある奴隷がいたら、楽団に買われるかもしれない。それは新しいビジネスチャンスだろ?」
「さもあろうな」
魔王も納得したようだ。
「それで、用地だが」
「この規模でしたら、郊外になりますわね」
「郊外にはあると?」
「将来的な人口増加に備えて、防壁を増築する計画がありますの。
増築した中には、住宅と、そこでの生活を支えるためのあれこれを建設する予定ですが、まだ計画段階ですから全体的に縮小すれば用地確保は可能ですわ」
「では、それで頼む」
「任されましたわ」
という事になった。
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