第3章「解放編」

第33話 領地

 公爵が新たな国王になって、最初の仕事は論功行賞だった。

 第1功はもちろん俺だ。アーマーマスターを倒し、あの場に居た貴族たちを守った。それは王国を守ったのと同義だ。

 公爵が即位する前に言われていた通り、俺は伯爵になって、近衛騎士団長になった。公爵が即位した後、正式に叙爵と任命の式典がおこなわれ、そこで同時に公爵――もとい新王の娘との婚約が発表された。

 近衛騎士団は、前任の団長も、団員たちも、誰も反対しなかった。できるはずがないのだ。新王が「最も信頼する人物」と内外にアピールしているのだから。

 式典の前に、事前の説明があった。


「というわけで、ブラオ魔王伯には領地を与える」


「領地ですか?」


「伯爵になったのだから当然だよ。

 爵位と領地。これはセットだ。領地から兵士を募集し、軍隊を作る。それを国家の危機に動員する。爵位とは、そのために与えられるものだよ」


 なるほど。

 動員を拒否するような領主がいたら、爵位を剥奪されて、攻め滅ぼされるわけだ。反逆罪だな。

 だから、爵位はもらうが領地はいらない、という事も出来ないわけだ。動員したときに活躍すると見込んで爵位を与えられるわけだから、領地を拒否することは動員を拒否するのと同じになる。


「分かりました。

 それで、どこを頂けるのでしょうか?」


「中継都市『リレー』だ。

 物流の中継地点として発展してきた都市で、今後も発展していくだろう。何もしなくても儲かる。

 戦闘と領地経営は別の分野だからな。君には近衛騎士団長としての働きに集中してもらいたい」


「それはまた良い土地を……。

 てっきり魔王城の周囲でも任されるのかと思いましたよ」


「それも悪くないが、あのあたりは魔物が多すぎて無法地帯だ。人間は住んでないし、与えても何もできないだろう?」


「…………」


「……アーマーマスターを従えた君なら、何かできるのかい?」


「ノーコメントです」


 城主たる魔王が健在なんだよなぁ。

 しかも俺の味方。

 魔王城周辺を領地にもらって困らない人間なんて、俺ぐらいのものだろう。人間を住まわせるのは難しいだろうから、魔物を集めて擬似的なダンジョンでも作ろうかな。そうすれば冒険者が集まるだろうし。


「まったく……恐ろしいね。底が見えないよ、君は」


「自分でもよく分かりませんから」


 膨大なEXPが余ってるんだよな……。

 どう振り分けるべきか悩んだあげく、振り分けなくても困らないことに気づいて、そのままにしてある。

 果たして、残りのEXPを全部振り分けたら、どうなってしまうのだろうか。


「とにかく『リレー』を任せたよ。

 何もしなくてもいいし、好きなように手を加えてみるのもいいだろう」


「はい。ありがとうございます」


 まともに発展している都市なら、魔王城と違って魔物を使った工夫はできない。

 さて、どうしようか。



 ◇



 中継都市「リレー」にやってきた。

 ここが俺の領地。

 男爵家の長男が、今や伯爵だ。出世したなぁ。将来公爵になるのが確定だし。


「お待ちしておりました、旦那様」


 リレーにある領主の館で待ち構えていたのは、新王の娘――俺の嫁だった。

 先に到着して、代官として働いてくれていたのだ。


「俺は領地経営のことは素人だ。すまないけども、君に任せるよ。

 だが、やりたい事は考えてきた」


「お聞かせください」


「奴隷商人だ。

 奴隷を買い集め、教育と訓練を施して、売るのではなく貸し出す」


「奴隷を……?」


「貴族の中でも、博識な婦人を別の家の家庭教師に雇うことがあるだろう?

 雇われる側からすると、高度な技能を持つ人物を貸し出した形になる。

 あれを奴隷でもやろうというわけだ」


「はぁ……?」


 よく分からない、という顔をする嫁。

 隣で魔王も首を傾げていた。


「経済効果だとか領地の発展だとか、そんな難しいことは考えていない。

 ただ、前王と王子をああやって批判した以上、その姿勢を貫くべきだと思うんだ。そうでなければ民衆からの支持を失うだろう」


「それは、たしかに……」


「しかし、それでどうして奴隷を教育するという話になるのだ?」






















「奴隷制度そのものをぶっ壊そうと思ってね」

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