第31話 凱旋と報復

 凱旋スピーチ。

 民衆を前に、勝利を告げる。

 誰に勝ったのか? 形式的には魔王を名乗るアーマーマスターに。しかし実際には、国王を批判するための場として使う。これは公爵と相談済みだ。

 アーマーマスターが(魔王の)風魔法で声を王都全域に届けていたので、民衆は情報を得ている。いつもなら公式発表からしか知り得ないことをナマで聞いている。情報操作ができない。隠すことも、曲げることも。

 それこそが狙い。国王に反論を許さない。

 スピーチは、まず事実の羅列から入った。16年前、国王が異世界から勇者を召喚したこと。奴隷の首輪をつけて魔王と戦わせたこと。帰ってきたら暗殺し、勇者の功績を王子のものにしたこと。

 続けて、それを勇者の視点から繰り返す。突然見知らぬ土地に誘拐されて、生活を奪われた。帰る方法すらも分からない中、強制的に奴隷にさせられ、尊厳を奪われた。命がけで強大な敵に立ち向かうことを強いられ、どうにか生きて戻ったら殺されて、命も名誉すらも奪われた。


「信用できるか?」


 公爵は呼びかけた。


「明日は君たちが、勇者の二の舞いになるかもしれない。

 こんな王を――こんな人物を王にしておいて、信用できるか?」


 ざわめきが起こった。

 戸惑いではない。気づいたのだ。

 民衆は怒っていた。ひどい事をする王だと。でもそれは自分に起きたことではない。

 しかし気づいたのだ。明日は我が身だと。


「勝手に呼びつけて騙して殺すような王なら、君たちがいくら正しく税を納めても騙されるだけで死にそうになっても助けてくれない。突発的な災害や事件・事故で死傷するのはともかく、日照りや洪水を生き延びた後の生活を支えてくれない王など不要ではないか。それでは、君たちは何のために税を納めているのか」


 ざわめきは大きくなった。

 賛同すれば不敬罪。でも公爵が言っている。しかも正しい。まさに民衆の代弁者だ。

 貴族にしても――と公爵は貴族たちへ向き直る。


「論功行賞を正しくおこなわないどころか、最大の功労者を暗殺するような国王に忠誠を尽くしたところで、功績を上げれば暗殺されるだけだ」


 堂々と国王を糾弾した。

 貴族もまた、爵位が上の者への非礼は不敬罪に問われる。だが、これは事実の羅列。諫言だと言い張れば言い張れるギリギリの――しかし、ひょっとすると少しアウトな――発言である。おおっぴらに賛同はしにくい。1人だけなら。


「その通り!」


「そうだそうた!」


 公爵の派閥。その構成員たる貴族たちが賛同の声を上げる。事前の説明があって計画通りであるために。

 そして「1人じゃない」と明らかになった以上、不安のタガが外れる。派閥外の貴族たちが賛同し、大半の貴族が賛同するとなれば民衆も声を上げる。

 そこへ、俺が壇上にあがる。

 まず最初に「誰だ?」というざわめきが起きた。まだ「超人」ランクになって日が浅く、顔が知られていないためだ。

 賛同の声がざわめきに変わった頃合いを見て、公爵が片手をあげて注目を促す。民衆は静まった。


「知っている者もいるだろうが、このたび魔王アーマーマスターを退け『超人』ランクになった冒険者ブラオ殿だ。

 一歩間違えば、彼が勇者の代わりに前の魔王を倒し、そして暗殺されていただろう。

 ゆえに、彼に裁きを任せたい」


 選手交代。今度は俺が喋る。


「無関係な異世界人を勝手に呼び出して一方的に奴隷にした上、功績を上げたら暗殺する。複数の王国法に違反しているが、その最も中心となる異世界召喚の違法性について、王国法はそもそも異世界召喚など想定していない。

 では法律に定められていないからといって無罪放免でよいか? 否だ。断じて否だ。

 よって、このような人道にもとる者には、同じ目に合わせるよりほかにない」


 引きずり出して連れてきた国王と王子に、奴隷の首輪をはめる。


「抵抗を禁じる」


 命令ひとつで2人が大人しくなった。


「それまでの生活を奪われ、ムリヤリ奴隷にさせられた事への処罰は、これでいいだろう。

 だが、これで終わりではない。功績を上げても殺されるという条件を満たすため、2人を鉱山送りとする。魔王軍と戦うよりは遥かに安全だ。しかし鉱山では労働の過酷さと病気で早死にする者が後を絶たない。

 王国史にも稀に見る大犯罪者たる2人には、せいぜい苦しんで、その罪の苦さを噛み締めてもらおうではないか」


 賛同の声が上がる。

 身勝手国王と身勝手王子は、前世の俺を苦しめた奴隷の首輪によって、抵抗できずに言われるがまま。そして鉱山へ送り込まれ、やがて死ぬ。憤然遣る方無くとも、どうする事もできずに。

 目には目を、歯には歯を、奴隷の首輪には奴隷の首輪を――。

 ここに、ようやく前世の報復は成った。

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