第21話 準備と出発

 魔王と再開した。

 いきなりヤられた。魔王からは逃げられない。俺のDはゲームオーバーになった。

 なんかすごく雑な感じだった。


「さて」


 それはともかく。


「準備するか」


 家を出て、平民として生活するための。


「何の準備なのだ?」


 状況がまったく分かっていない魔王が尋ねてくる。

 状況把握より先にセッ――なのか。何なの、こいつ? 色欲の魔王とかなの?


「よく見つけたものだな。

 俺はブラオ。前世では武良雄。お前を倒した異世界人だ。

 なんか勇者らしいわ。王国の偉い人が言うには」


「うむ。

 急に強い魔力が現れ、それが主のものと分かって駆けつけた次第だ。

 我は魔王ルスト。15年前の約束の通り、主の前に参上つかまつった」


 つかまつったのか。

 偉そうなのか、へりくだっているのか、分からない奴だ。


「急に魔力が強まったのは、成人してステータスの制限が解除されたせいだな。

 今回の人生では、このあたりを領地とする男爵の長男に生まれた。

 しかし側室の子なので、後から生まれた正室の息子に跡目を譲って、俺は平民として生きていくことにした」


「権力には興味ないという事か」


「シンプルに腕力でぶっ飛ばせるのに、権力なんかあってもな……」


「であるな。

 魔王軍と人間との間に、和平交渉が存在しないのも同じ理由だ。我らには、人間と交渉する理由がない」


 結果、俺が召喚されて、魔王は倒されたわけだが。

 俺は肩をすくめて先を話す。


「明日には家を出る。

 生活の糧を得る方法として、冒険者を考えている。まずは、そのための買い出しをする。前世で使っていたも、どうなったのか分からないし。とりあえず、それっぽい装備を買い揃えておかないとな。

 それから、家の使用人たちと領民たちに、をしておく予定だ」


 演劇の役者になってもらわないと。

 彼ら自身を守るために。


「ふむ……?」


 魔王は退屈そうに首を傾げた。


「それからアレをアレして、国王にアレする予定だ」


 うへへへへ……。復讐しても達成感なさそうだから、といって復讐しないとは言ってない。家族に迷惑かけるのはチョットなぁ……とか思っていたが、そのへんもまるっと解決する方法を思いついた。


「ほう……!」


 魔王は興味深そうに身を乗り出した。


「シンプルに腕力で……ではないのだな?」


 強い者は、周囲に配慮などしなくても、力で全部解決すればいい。というのが魔王をはじめとする魔族の考え方らしい。非常に野生的だ。人間がそれをやると形成できる群が小さくなる。集団で反乱されたら負けるからだ。しかし魔王や四天王は個体戦力が圧倒的なので、魔王軍を形成しても維持できていた。


「いや、結局はシンプルに腕力だ。

 でも少し味付けをしないと、無味無臭の復讐なんて、つまらないからな」


「では、さっさと準備をすませて、計画を進めようではないか」


「もちろんだ」



 ◇



 て事で、街に繰り出した。

 魔王には幻影の魔法をかけて、頭の角を隠した。角さえ隠せば、ただの美女だ。道行く人が振り返るだけで、騒ぎは起きない。第2形態は竜だから、変身したら大騒ぎだろうな。


「邪魔するぞー」


「邪魔するなら帰れー」


「じゃあ帰るー」


「……なんだ。ブラオ様か」


 武器工房。

 店の奥、工房部分から筋骨隆々のおっさんが出てきた。

 店の店主にして工房の親方だ。ちなみに「親方」と呼ばれるほうが好みらしい。

 今のやりとりは、一見さんお断りの合言葉みたいなものだ。


「今日は何だ? また何か作ってみるか?

 あと、そっちの美女は誰だ? 婚約者か?」


「ルストだ。まあ、婚約者みたいなものだな」


「よしなに」


「ああ……ええ……よろしくどうぞ」


 親方がしどろもどろだ。

 おもしれー。


「いい歳こいたおっさんが女に鼻の下のばすとか」


 プー! クスクス!


「うっせ! 用がないなら帰れ!」


 親方が顔を真赤にして怒る。

 ちょっとからかいすぎたかな。


「買い物に来た。今日で成人だからな」


「ああ……行くんだな。

 それじゃあ、こいつを持っていけ。代金はいらねぇ」


 店に置いてある物より、明らかに良質な剣を渡された。

 適当なやつでいいんだが……これじゃあ上等すぎて目立ってしまう。

 とはいえ、明らかにこの日のために用意してくれていたものだ。断るのも悪い。受け取ろう。


「ありがたく。

 貰ったばかりで悪いんだけど、あとで集会所に来てくれ。頼みがある」


「集会所? ……他にも何人か集める感じか。

 わかった。

 俺だけでいいのか? 周りの店に声かけておこうか?」


「集会所に入りきれなくなるだろうから、1人でいい」


「分かった」


「じゃあ、またあとで」


「おう」


 こんな会話を、防具屋と道具屋でも繰り返した。他にもあちこちで。

 みんな、いい人たちだ。

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