第20話 決意と再会

 15歳。成人したらステータスが前世のものに戻った。

 肉体への負担に耐えきれなかった「子供」の状態が終わり、封印が解除された。そんな感じだ。

 魔王を倒した事でカンストを無視する特殊スキルも覚えたようなので、ためしに10倍のステータスにしてみた。

 魔王を倒したときの10倍……これだけあれば。


「……あのクソったれな身勝手国王どもに復讐してやれるんじゃあないのか……?」


 正面から堂々と攻め込むだけで、簡単に蹴散らせそうだ。

 だが、ここで重要な矛盾パラドックスが発生する。

 栄光――満足と言い換えてもいい。

 抵抗が無さすぎる。抵抗が弱すぎる。抵抗が足りなすぎる。

 もし栄光が、満足が、最初から手の内にあるとしたら? 当たり前に手に入るとしたら? 親がいる。空気がある。文明がある。昨日と変わらぬ今日がある。そんな「当たり前」と同じように、いともたやすく身勝手国王をボコボコにできる。むしろ、痛めつけるためには殺さぬように気遣うレベルだ。

 復讐とは、相手の抵抗を1つずつ潰して封じて防いで避けて……そうやって、苦労して成し遂げるところに「やり遂げた」「ついに仇を討った」というカタルシスがある。

 何もせずとも相手の抵抗は無意味で、テーブルの上のコップを手に取るように仇の身柄を確保し、爪楊枝をへし折るように痛めつける。そこに「やり遂げた」だの「ついに仇を討った」だのというカタルシスはあり得ない。ありようがない。

 俺は強くなりすぎた。

 ステータスを10倍にしたからではない。魔王を倒せるほど強くなったからだ。

 前世、奴隷の首輪さえなければ復讐できた。強さはちょうど魔王軍四天王と戦ったあたりだ。王国軍を相手に「手も足も出なかった」と言っていた。つまり、実際に戦ったことがあり、蹴散らされたものの生きて帰って報告した兵士がいたのだ。

 そこ。まさにそこ。ちょうどそのあたり。満足できる復讐は、そのぐらいの強さが適切だったのだ。時機を逃した。


「うーん……」


「何を悩んでおるのだ?」


 声に振り向くと、魔王がそこにいた。

 本当に復活したんだ……。

 俺がブチ抜いた胸の穴もふさがっている。


「おま――」


「会いたかったぞ、我が主よ」


 いきなりぶちゅーっとやられた。

 こっちはまだ驚いてるところで、感動の再会になるまでもうあと10秒かそこらほしかったのだが。

 まあ、ある意味では雰囲気あるな。これはこれでよしとしよう。


「さて。

 積もる話もあろうが、とりあえず入れるか」


 スリットの入ったマーメイドドレスをぺろんとめくって、紐パンをぽいっと脱ぎ捨てた。

 雰囲気どっかいった。

 そのままグイグイ迫ってくる。たちまち押し倒されて脱がされた。戸惑いのほうが強くて曲がっている剣を、きゅっと握ってまっすぐに伸ばされた。

 は? え? なに?

 と頭の中は状況に追いついてないのだが、体は反応してしまう。


「よし。主の準備も整ったな」


「ちょっ……おま……『とりあえず』!? アッ――!」


 なんだかすごく雑な感じで、俺のDが廃棄ポイされた。

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