第17話 転生と誕生

 赤ん坊の体というのは、体力がない。すぐ眠くなる。

 そして眠ったら眠ったで、すぐ目が覚める。眠り続ける体力がないからだ。

 前世、祖父母が同じことを言っていた。それを聞いたときには「いつか自分も歳を取れば……」なんて思っていたが、まさか若返っててんせいして体験するとは思わなかった。


 あれから、目が見えるようになってきて、俺は新しい両親の姿を見た。なかなかの美男美女だ。俺も将来有望なんじゃないかと思う。

 周囲の話を聞いている限り、どうやら父親は貴族らしい。だが領地はあまり大きくなさそうだ。振る舞い方も、身勝手国王や身勝手王子なんかと比べると、とても庶民的という印象である。なんなら時々農作業に出ているっぽい感じまである。

 そんな感じなので、身勝手国王と身勝手王子に復讐しようというのは、ちょっと難しそうだ。それに、今度の両親を困らせたくない。幸せな家庭を壊してまで、前世の恨みを晴らそうとは思えないのだ。俺1人が我慢すればいい。



 ◇



 状況が変わったのは、3歳のときだった。

 父親は男爵だと分かった。

 そして、母親は側室だった。

 状況が変わったというのは、正室に息子が生まれたのだ。

 難しい状況になった。側室の子が長男で、正室の子が次男だ。家督を次ぐべきは長男か、あるいは正室の子か。

 弟の誕生を祝福しに行ったところ、正室からはすでに険のある視線を向けられた。これは良くない。


「父上。相談があります」


「どうした、ブラオ?」


 ちなみに俺のブラオという名前は、「青空」という意味らしい。

 前世、中学校の同級生オープンスケベがつけたあだ名に比べて、なんと愛のあることか。


「家督はぜひ、今度生まれた弟に。

 僕は辞退します」


「ブラオ……そんな事を考えていたのか」


「生まれる順番が逆だったらスッキリしていたのに。

 そう思ったら、そうするのがいいだろうと思いました」


「それで自分から『弟』の立場になろうというわけか」


 俺が弟だったら、側室の子が次男ということになって、なんの問題もなかった。

 だから継承権を放棄することで、擬似的に「弟」の立場になればいいのだ。


「はい。

 母上にはもう相談してありますから、正室あちらにも伝えて安心させてあげてください」


「それほど知恵の回るお前が、本当にそれでよいのか?」


「そうでなければ、僕らの身が危ないようですから」


「……! もうそんな事まで気づいていたのか」


 おや? 次男誕生に浮かれているかと思ったが、父上も気づいていたのか。

 親バカ気味に愛情たっぷりかと思ったが、ちゃんと男爵だな。


「わかった。そうしよう」

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