シーケスの街
11話
美しい女性の金色の髪が風で柔らかいスカーフみたいにフワッと広がる、視界の邪魔にならないよう片手で抑える、ほのか幼さを感じさせる血色の良い繊細で細い指が、手綱を持ち少しだけ揺らして馬の皮膚に合図を出す、二体の屈強な馬は純粋な目をにこやかに細めて、ゆっくりと頭を下げて従った。
少年のように優しそうで筋骨隆々の黒馬、
耳が長い美白の美女の安心した笑顔。
馬の蹄のリズムと同じで、全身が心地よいリズムで揺れる、そしてリズムに乗ったエアリスが鼻歌を歌い出す。
森も光を目指すのを忘れて寝てしまうほど安らぐ曲。二つの美しさが合わさり神秘的な雰囲気まで醸し出していた。
その美しいモノに引かれた馬車の中から上半身だけ出した、明らかに見合わない男が話しかける。
「エアリスさんも騎乗スキルを持ってたんですね。」
「ハイこれでも私一人で世界中を旅していたんですからね。あと忘れてますよ、"さん"付けはやめましょうって話。」
指を唇に当てると、馬車の運転のために前を向きながら、お茶目に片目を閉じて言う。
「…すいま、ごめん、旅か…エアリスが旅に行ってたのって何年前なの?」
ハルトからの質問にエアリスは自分の頭の上をみるように頭を傾けて、考えると、
「ムムムムム、そうですねぇ、ざっと300年ほど前ですかね。」
ハルトは考えていた月日より回答が膨大な年月で驚くと、同時に馬車がカタンと小さく揺れる。馬車の車輪が小石を蹴ったみたいで弾けて飛んでいったのに、いつまで経っても小石が地面についた音が聞こえない。
それもそのはず木々が隙間なく生える森と馬車一車ほどしか通れない土の道に並び、地面を切られたような綺麗な断崖絶壁の崖がすぐ横にある。
横にあった壁が無くなり、新鮮な空気が風に乗って流れてきて、そっちの方を振り向いたハルトは…初めて開けた空を見た。
地面が世界を埋め尽くすように広がって、目を少し横に動かせばその大地の上に、一枚一枚の広い面が鮮やかな紅葉、黄色味が残る薄くて小さい葉っぱの子供達が重なり合った新芽、一本の木に多種な形、多様な色、の花が開花したものなど、様々な異世界の森が区画に分けて生えている。
前方にはゲームで言う世界の限界領域、プレイエリア外とオープンフィールドを分ける、見えない壁に描かれた氷山のように見える青い山、なのに目を凝らせば、スキルを使えば、圧倒的な遠近感でそう見えていただけだと分かる。
森を抜けた平原あたりにある、レンガ調の住居を大きく覆う城壁、材質はコンクリートみたいに綺麗でツルツル高い壁、正攻法では絶対に逃さないと言う意思を感じる作り、壁自体は無骨で重厚感のある威圧感を与える。
ソレとは反対に遠くに見える純白の城、
そこは城壁の前まで人で賑わって見えた。
一度ひらけた景色を見れば、空には独自の天体が光っている。その浮かんでいる球体とちょうど同じ大きさに見える、巨大な鱗をもつ炎を吐くトカゲ、空を翔けるドラゴンだ。
今、自分の進む道は遥か彼方まで続く。
その道の脇には低木が並び、初めて見るような果実らしき物がなっている。
もう
彩色と無形、全ての物が時が経つごとに動き変化をし続ける、自分を縛り付ける物が無い制限のない豊かで自由な
「あっちの世界では
無かったものばっかりだ、」
ハルトは少年の顔で目も口も大きく開いて、目を輝かせて大きく笑っている。
「……世界は絶えず美しく
変化していくモノなのですね。」
エアリスは少し前とは違う景色に感慨深そうに目を細めて、しみじみと唇を動かした。
二人とも物思いに耽っていたおかげで、呟いてしまった言葉を聞いていないか、恥ずかしそうに相手を確認して、二人とも顔を赤らめていたので混乱して、大きく吸った息を同時に吐き出した。
「目的地とか決まってるんですか?」
「あーハイ何となく、」
エアリスが馬車を操縦しながら聞いて、ハルトがそれにボーッとしながら答える
この雰囲気…タクシーか!
「アレ、そうなんですか?私、てっきり全部をくまなく見て回るんだと思ってましたよ。」
「いやいや、そんな事してたら時間が…
もしかしてやってたんですか?」
「エヘヘへ…でも目的地に着けなかったことはないですよ?」
そんなトンチみたいな冗談を言った。
今更ながらエアリスに手綱を持たせていることに、少し恐怖を覚えたハルトは今一度感知スキルを発動して光の道を確認する。幸い自分の進んでいる道に、白色の光が並んで流れていた。
「じゃあこの道をまっすぐ行きましょう、」
馬車から抜け出して、二人ぐらいは入りそうな御者席に乗り込むと、エアリスと手綱を握り二人で馬を進めた。
「不安は残っています。」
「そうだね、でも不安ばっか残しても仕方ないよ、…今だけは次の場所に期待を込めて、迎えば良いんじゃないかな。
アハハ、柄になくちょっとクサイこと言っちゃったかな?」
「助かりました。」
「アーソレハ、ヨカッタ、デスネー
アハ、アハハ」
旅の道中、そんな苦笑いが巻き起こることもあったが、昼飯時まで日が登った時、これ以上はモンスターも頻繁に出る、危険なゾーンに入るからと近くにあった平原の小さな丘で準備の時間と言う名目で、長い休憩をとることをエアリスから提案された。
少し長めに伸びた芝生が、風になびかれてサラサラと波を作る、芝生と芝生の間に空気が入り、寝心地のいいクッションになっている。
「ワフーーィーー…アーハルト、ここのクッションいい感じですよー!」
エアリスは名目も忘れ我慢できずに、寝っ転がった。ほっぽっられた馬達は少し寂しそうにハルトに顔を寄せた、撫でてあげると近くに生えていた木に錨を巻き付けて、村から渡された高級干し草をあげた。
「ハー、そんなエアリスには昼飯は抜きだな。」
少し考えている時に出てしまう声と同じくらいの声量で話したのに、飯のことになると耳ざとく聞きつけたエアリスが顔が触れそうな数センチのところまで、近づいていた。
「今なんと、お願いします作ってください!ご飯を作ってください!!私あなたのモノが無いと生きていけないんです!」
ちょっと紛らわしい言葉で膝をついて泣きついてくる、
ハルトはじゃあと言って、エアリスに馬車を洗う用のブラシを手渡すと、そのブラシを一心不乱に馬車と馬に振るった。
強制的に押し付けられた仕事をまた渡して、ヒマになったハルトは、芝生を手で確認すると、
「草も気持ちいいし、ん〜」
大の字になって芝生に寝た、足を組んで空を見上げていると、動きが忙しないエアリスが嫌にでも目についてしまう。
「エアリスもあんなに必死に頑張ってるし仕方ないな、料理するか!」
「今なんと!」
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