1☆話
『この村に来て、今日で五日目
失礼で言えなかったけど、最初はなんの特徴もない普通な村だと思ってた、強いていうなら、エアリスさんが魅力の村だと思っていたのに、
1日目から色づいた、皆んなが親しく手を引いてくれて、手招いてくれて、色々な事をものを教えてくれて、
十人十色の特色で頭から足先まで真っ白になっていた俺に色をつけてくれた。
今日俺は村を出ます。
この村の思い出を持ち続けて、それを励みに旅に出ます。今までありがとうございました、行ってきますみんな、そして…………』
「っとこんな感じかな。」
現在、家の外では続々と何かを準備する音が聞こえる中、一番大きな窓のカーテンを勝手に閉められ、枕元に置かれた薄暗いサイドテーブルの上でハルトは、四方の辺が10センチも無い、少しだけ横長の小さな手紙に鉄製の万年筆を走らせる。
一通り描き終えると、ポケットにしまい、大男一人もすっぽりと収まってしまいそうな立鏡の前に立つ、前髪を何回か優しく手で靡かせて、何も変わらない気がする。
でも服装が村に来た時とは変わっていた。
白い襟が立ち、その上に着ている黒目の群青色のジャケットは、頑丈そうな生地なのに動きやすく、所々に伸縮性の良い布を貼り合わせ、その生地を腕に一本線として走らせて、
通気性の良い白い生地と混ぜて、動きやすい仕組みと装飾を両立させた職人たちの技術の詰まった逸品。
それでいて目立ちすぎない、それはなぜか、どこか学生服の面影を残した服はハルトに似合っては…いた。
次は自分の顔をまじまじと見る。
目に穴が開くほど見続けていると突然、背格好に似合った無邪気な笑顔を作る。
「ヨシッ」
ハルトは小さくガッツポーズをした掛け声と同時に自分のベットに寄りかかっていた、大きな肩がけのバックを整理し出した。
扉が開く音が聞こえた気がすると、大きな声で歓迎と送別会を兼ねた自分が主役の会場に呼ばれた。
「はーい今すぐ行きまーす!」
扉は再び閉じられ、自分からドアの取っ手に手をかけ、扉を開くその瞬間から眼前に広がる、ハルトの家から遠くの方まで、一本道になるように、村のみんなが2列に並んでハルトの通る道を囲む。
盛大な拍手が聞こえて、大勢のお祝いの言葉を一身に受ける。
「おめでとう!」
「行ってらっしゃい!」
「「絶対帰って来いよ!」」
村のみんなの瞳が鮮やかに光っていて、潤んだり、滲んだり、して一人一人が違う笑顔になる。
手に持っていた祝い物や花束、お包みも
ハルトに見えるように掲げていたり、豪華な包装をしていたが、みんな無理に渡そうともしない。
コレから旅に出るものに無駄に荷物を持たせるわけにはいかない、気遣いかそれか…
でもハルトは馬鹿正直に、手当たり次第に受け取っていき、当然祝い物でパンパンになっていた。
「ありがとうございます、ありがとうね、
ありがとうございます、ありがとう……」
どんなに自分の周囲のみんなに注目していても、目の端に列の先が見えてきた頃、その中でも親しかった人達固まっていて話しかけてくる。
「よお、ハルト!お前のために作ってやったんだ、この馬車使えよ。」
キンザンが指す方向には、一本道の先は村の出口で、その先には大きな青味がかった鉄製の馬車が堂々と佇んで、立派な馬が2匹も肩を貸してくれていた。
「え良いんですか?!ってこんなのどこにあったんですか、」
「昨日の夜に設計をし始めて一から作ったよ、俺の作った馬車だ、何人、何十人、何百人乗っても大大丈夫だ!」
「ありがとうございます!」
こんな大掛かりな馬車を一晩で作った異次元さ、昨日会ったばかりの人のために作ってくれる優しさで、驚いている時にこっそりと練度ゼロの『騎乗スキル』に★をつけるハルト。
「おうせいぜい頑張れや。」
「お前は、俺の永遠の木こりライバルだからな!」
「国にある美味しーものいっぱい食べてきな。」
「…………」
各々技術を教えてくれた、先生と言える人達が祝いの言葉を言ってくれる中、エアリスだけは静かに俯いていた。
「ハイ、」
みんなに返事をして
馬車の御者席にまたがると体のラインに合わせたクッション材が絶妙に吸着してフィットする。
パシッ
手綱を両手でしっかりと握り、固まる当然騎乗スキルなんて一度も使ったこともない、でも時事前にキンザンから騎乗スキルという言葉を聞いていた、スキルに任せて手綱を一度振るって、馬に歩き出す合図を出す。
馬との息もあい軽快な蹄の地面を蹴る音がなる、歩き始めて操作も安定すると、後ろからまた盛大な声援が聞こえてくる。
「「頑張れー!!」」
「いってらっしゃーい!」
それにハルト自身からも感謝を伝える為に
左手で長い手綱を握って、馬車の後ろに足をかけて、皆んなに見えるように大きく手を振る。
「行ってきまーす!」
エアリスとはまだ、目は合わない。
「昨日あんな話しをしたからなちょっと気まずいんだろうな、昨日出るとは伝えたし、もういいのかな……
ハルトもなんとなく察していた、自分が旅に出る事を事前に言ったのはキンザンとエアリスだけだ、それがこんなに全員から祝われる事になるなんて、流石にキンザン一人では出来ない、エアリスも朝から居なかったし、こんな大掛かりな事をしてくれたんだ。でも、
「いや自己満でも良い、
エアリスさん!ありがとうございました。」
ハルトはエアリスの優しい姿を見て、
感謝の言葉を叫ぶ。
それに呼応する、エアリスの金色の瞳は今まで小さく気持ちを隠す為に萎縮していたのに、自分の気持ちが溢れ出る程大きくなり輝く。
馬も勢いを上げてきて景色が一気に村に吸い込まれていくように見える時、
馬車の揚げる土煙を圧倒的に越す、天にまで届きそうな高さの土煙をあげて猛追する一匹の
エアリスが。
「私も連れて行ってください!冒険をするなら私の技能は必要かと思います、私みたいな人が1人はいた方が、だから!」
エアリスが息を切らして言葉も途切れ途切れで、顔中の穴から汁を垂らしながら、馬車に追いつく、するとハルトが手を差し出す。
「行こうエアリス!」
もう片方の手はポケットの中で今さっき書いた手紙をくしゃっと丸めた。何度か消された跡がある最後の文はこう書かれていた『さよなら皆さん、そして…エアリス…さん。』
ハルトは左手で掴むと力いっぱいにエアリスを引っ張って、エアリスもジャンプして、二人で力を合わして馬車に乗る。
皆んながハルトとエアリスを、
涙や笑顔で見送ったが、でも一人だけ鉄臭い大爆笑の声を未だに響かせて、ボタボタと大粒の涙を流していた。
「まずは情報収集ですね。」
「ハイどこにでも、いきまジョウ…ウゥ〜」
目的は光の道を辿って光の正体を掴む。
異世界に来た理由を探す、その他も大量にあるあり過ぎるが、
ハルト達は主人公ムーブをしてどんな事があっても上手くいくんだろうな!
「あれエアリスさん、背中に何かついてる。」
疲れて項垂れている、エアリスの背中には何かが見えたハルトは指摘する。
「えっどこですか?」
「ココ…アレ?コレって」
エアリスの背中には濃い灰色の
少し鉄臭い大きな手形が付いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます