4話

「お前は村の英雄だぜ

今この村で1番勇敢な者はお前だ!」

褒められながら背中を遠慮なしにバンバンと叩かれる。


 ハルトは目の前で起きたことが理解できないまま祭りの主役に抜擢された、エアリスと一緒にお立ち台の豪華な席に強制的に座らせられ、何やら村長らしき老人がお立ち台の前に立ち、祝いの言葉の書かれた書物を読んでいる。


「では〜今回の影イノシシの討伐および

村の生誕祭を始めます、それでは乾杯!」


簡単な祝杯の言葉を言うと

村の人達は口々に歓声を上げる。


軽快な音楽鳴り、煌びやかな衣装、

色とりどりの灯が輝く料理で乱反射する。


 油が音を立てて肉をコーティングする、獣臭がするがそれ以上にスパイスが調和して豪快な肉料理を胃袋にガツガツ流しこんだ、

詰め込みすぎた喉に水分が欲しくなった時、

葡萄色の飲み物がジョッキで出される。


「酒は飲めないけど、でも少しだけなら...」

ゴクリッ

あっちの世界では飲むことを禁止されていた勝利の美酒が目の前に置かれ、

思わず唾を飲み込む。


「駄目ですよ!ハルトさんはまだこんなに若いんですから。」

そう言ってエアリスが大男が持っていても

大きいジョッキを取り上げて、持ち上げると一瞬で空になる。


「大丈夫なんですか?」

「昔から慣れてますし、まあ私はお姉さんなので大丈夫です。」

お酒の一気をしたエアリスを心配すると、誇らしそうに胸を叩く、そこに茶々を入れるように男達が話しかけてくる。


「そうだぜエアリスの姐さんはこんな見た目だが、俺らが赤ん坊の頃から、」


言いかけた時、エアリスの指が男の顔を指し

背中に伸ばす手で黙らせる。


「射抜かれたいんですか?私今は持っていますよ。弓」

「何も言いませんって姐さん!」




「う!...う」

ハルトに突然の内臓への大ダメージ!


突然の腹痛に床にうずくまり唸る事しかできなかった。


「え?ハルトさん...大丈夫ですか!?」

心配する声が集まる中

ハルトの目の前は真っ暗になった。



「ハー、時間的に川の水でも当たったか、

あーあー残念だなぁ…もうパーティは終わったのか。」


知らない部屋で寝かされていた、窓は空いているのに聞こえてくるのは虫の音のみ薄暗い空も深夜のそらに変わったこの状況にハルトはなんと無く察する。



「考えなくちゃだなこの世界のことを、

今のところ危険はない、


変な力ではあるが

強い力だ、勝てる気もしなかった猛獣に勝てるなんて、……少し楽しいなぁ」

今までのことがフラッシュバックする、

ツバキとの最後の会話から

綺麗な獣人、衛兵、黒い集団、

長い道、スキル、綺麗なエルフ、イノシシ、

街の生誕祭、綺麗な踊り子、

かなり煩悩に支配されている記憶ばかりだったがまあ間違いはない

異世界ラブコメだからね。


「元の世界に...戻りたくはないでも

あっちの世界に残ったツバキが心配だ。」

ハルトの目が珍しく怒りに満ちた火に包まれる。


コンコン

この小さい部屋に

一つしかないドアがノックされる。

「良いですかハルトさん。」


フラッシュバックの中でも

多く記憶した女性の声が聞こえて、

ハルトは反射的に肯定する。


「どうぞ!」

入ってくるエアリスが出会った時とは違う地味で無防備な服装で余計に心がドキドキする。


「ハルトさん何か悪い物でも食べたんですか?」

「いや〜恥ずかしながら川の水をそのまま」


「そんな事だと思いましたよ。どんなに綺麗な川でも浄水スキルで飲まなくては駄目ですよ。」


エアリスはフッと笑うと

ハルトのすぐ横に座り、

昔の事を憂いているような横顔で喋り出す。


「ハルトさんは不思議です。

成長が早くて、

誰かのために助けを惜しまない。


まるで昔話で聞く勇者様みたいです。」


「勇者だなんてそんな、」


優しく手をかざしヒールをかけてくれる

多少身体の流された活力が回復したように感じる。

「魔法って難しいんですよ、

標的を細かく設定すればするほど失敗する可能性が上がるんです、ヒールは簡単なんです、

私にはこんな事しかできないのに、」


ヒールの光が止み、

エアリスの顔がこっちを向く。


「ハルトさんは解体、初めてなのに練度もすぐに上がってますし、すごいです。」


「上がってるって言っても、2ですよ、

そんなにすごいことでは、ないんじゃ。」

「2!いえいえ、ありえません!あの腕前は20相当の、」


急いでスキルボードを出して確認すると

確かに解体の練度が上がってるだが、

そこに書いてあるのは紛れもない2。


「練度ってMAXは10までですよね。」

「いえいえ、100までですよ。」


「え100!?

.....レベルが上がってないのにステータスが上がる事ってあるんですか。」


「そんなことないと思いますけど、

レベルの練度と同じく上限は100までです。」


星スキルMAXで横に書かれている数字は、

10を示している。

レベルに至っては1を、

「分かった事がある、何故か俺には一の位が見えないならボソボソ、失礼ですがエアリスさん年齢は?」


「100ちょっとですよ」

片目をつぶってはぐらかすように答える。


ハルトはそんなの見もせずに

思考の渦に飲み込まれる。

「じゃあ違うのか?

少なくともエアリスさんは

人間で20以上はあるように見えた

この見た目の俺が130歳って事はないよな」


誰にも聞こえないようなぶつぶつと話していると終始不思議そうな顔をしていたエアリスが

「フアァじゃあ長話は終わりにして

今日は寝ちゃいますね。

おやすみなさい勇者さま。」

大きくあくびをしてついでに軽く伸びをするとベットにいたずらな子供のような笑顔で寝転んだ。


ハルトがベットに座り直しても鳴らなかった

ギシッと言う音が鳴り。


厚い重めの毛布を掛けられる。


ハルトは湧き上がってくる妄想の波を必死に耐え、思考を停止させて普通に寝た。


ハルトのそう言うところだけは評価してやってもいい、心が童貞なのも評価ポイントだ。

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