1話
ゆっくりと瞼を開くと、目の前の薄いコンクリの剥がれた、レンガが目に入る。
「え、壁?」
ハルトの振り上げた腕も、そのままの姿なのに見知らぬレンガ調の路地裏に放り出されていた。
一度の瞬きで景色が変わったことに驚き、周囲を見渡す、右は先が見えないほど長い路地が続いて、一歩先の地面なのに暗く、光の粒子が存在しないような異様な空気に混乱が加速する。暗い路地とは反対から「どいて!」と唐突に誰かに言われる。
その誰かは暗い路地に、屋根の上から降りている光のカーテンで見えないし、咄嗟のことで動けないでいると、深くフードを被った誰かが突っ込んできた。
「ニャッ!」
激突して短く鳴き声を出す、
二人はその勢いのまま近くの藁山に倒れ込みハルトの上にラブコメみたいな倒れ方をする。
「ウワッ、ペッペ」
「うにゃー!お前何してんのよ!」
胸ぐらを掴まれ、やっとその誰かが見えた、
幼さの残るパーツにシャープな顔立ち、
綺麗な褐色の肌に布面積の少ない革の服、
そして肌に似合う毛並みの良い黒い猫耳、
瞳孔も細長く垂れ目なのにどこか猫の鋭さが確かにある、まるでゲームの中の獣人。
「え、あすいません、俺」
獣人はハルトを睨み、その猫の目が身体を舐めるように下から上に見る。
「…お前人間か、
イッツ、クソっあいつらの銃が当たったか、」
嫌悪感を剥き出しにした見下す目をハルトに向けると、周りを警戒しながら藁の山から出ようとした、足から血が垂れる、獣人は足に小さく空いた穴から血を流していた。
「…お前回復魔法は使えるのか!」
「魔法?……何言ってるんですか、」
魔法、そんなものゲームでしか聞いたことがない、言葉を目の前でそんな本気な顔で言われたハルトは不思議。
「使えないのか?
この街にいる奴がそんなわけにゃいだろ、
ああもう良いからヒールって言え!」
「え…ハイ…『ヒール★』」
『自動発動スキル★スキル』
緑色の優しい光が傷口に巻かれると
垂れていた血が消え足の傷が塞がった。そして今まで口に入って嫌な気持ちになっていた藁がなくなった気がした。
「え、今の自動何?コレが魔法?...」
手をかざしているハルトが1番驚いていたが、獣人もヒールされた足に違和感を持ち足を地面に強くついたり、ジャンプをしてみる。
「応急処置ができれば良かったんだけどにゃ、腕はあるようだにゃ、助かったにゃ。」
「待ってください、目を開いたら、その気がついたらここにいて俺なにも分からなくて!」
ハルトの必死の声それでも、振り向かずに立ち去る獣人にハルトは「助けてください!」と叫んだ。
「………こっちだ!!」
ハルトの助けを呼ぶ声を聞いた、声質や足音的にも大勢の男達が向かってくるのが聞こえる。
「ばかお前!」
獣人はまた足早に走り去ろうとするが、ハルトも何と無くここで逃しちゃダメだと思い追いかける。
「お前にゃふざけんにゃ」
逃げる、追いかける、の攻防
2人の走力は互角で大勢の足音も引き離し聞こえなくなった位の場所で獣人が止まる。
「お前何がしたいんにゃゼハーゼハー」
足には自信があったのか息も絶え絶えで
それでもついてくるハルトの胸ぐらを掴む。
「…た、助けてください。」
「それだけ走れるにゃら十分だろ、自分で逃げろにゃ!」
ハルトの空気を読まない一言に、
獣人はついに切れ顔を近づけ大声を出す。
顔が近づいて視界の大部分がお互いの顔で埋まる中、ハルトの顔が青白くなり、獣人の背後を指差す。
「え何ですか、アレ。」
そこに路地の前方に銃を構えた衛兵、背後からはまた、たくさんの足音が聞こえた。
「マズイッ一旦こい!」
手を引かれると銃を持った衛兵から逃げ、
すぐ背後に木箱を盾にして横にあった普通家に見えた石垣を押すと、石が引っ込み隠された暗く細い道が存在した、そこは外壁の一部まで続いていて、走って街を抜ける。
大きい壁に大量の番兵や砲兵に囲まれた街を後ろ目に、近くの森に隠れていた。
「猫さんありがとうございました。」
「猫じゃにゃい、クソ人間。」
2人は疲れて柔らかい芝生の上で大の字に寝ていると言うのに、まだまだ口喧嘩をしていた。
「クソ人間じゃないです、ハルトです。」
「そうかクソハルト、」
そんな会話の中ハルトが風向きが変わって周辺の音を聞いていた耳に違和感を感じていると、
獣人は耳をピンと立たせ、即座に手で髪や顔を整えると、悪いかった姿勢も正座になって旅館の女将さんみたいに畏まる。
すると周囲を囲むように、獣人の服と親和性のある黒い装束の集団が現れる、威圧感のある集団の中でも特にデカい男が手で合図を出すと前に出る。
「人間を連れてきたのか。」
「違うにゃコイツが私の周りで叫ぶから
仕方なく...着いてきただけにゃ。」
「そのありがとうございました。ここがどこなのかも分からなくて、気がついたらここにいて猫さんに助けてもらって。」
立ち上がり、手を脇に下ろし、
頭を90度下げる。
「生まれた街も家を離れるとわからないとは
相当な箱入りだな。」
もう一度手で合図を出すと、周りにいた集団は音もなく完全に姿を消した。
これに警戒をといたと考え、これは良い判断を押したと心の中でガッツポーズをするハルト。
次に獣人を見ると、
厳しいそして強い目になる。
「お前の心情は知っているだが、」
「極力したくは無い復讐は復讐を生むだけにゃ」
上目遣いで見るその目は心のを映す水面のように少し揺れていた。
「お前が招いた人間だやれ。」
低い声の一言には濃淡が無い。
人の命をかけているのに動揺の一つもない。
「でも仕方ないことにゃ
ごめんにゃハルト。」
獣人は足を高く上げ、手の力だけで自分の体を浮かす、そして足をハルトの体に下ろすと、
いつのまにか馬乗りされて、
背中でガッチリとホールドされている。
少し悲しそうな顔で
細長いナイフをスラーっと抜き
自分に向けられる。
命の危機を感じて動こうとしたが抑えられ
声を出そうとした時には口も抑えられる。
「ムガムガ」口の中だけで反響する
唸り声しか出なかった。
首を斬られ、血が綺麗な弧を描いて
草木に撒き散らされる。
カヒーカヒー〜カ...
痛みはなくただ柔らかいお尻感触の残り香だけが意識の最後に残った。
お尻の感触も味わえたんだから、
ハルトお前はここで死ねばよかったのに、
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