第22話:アーリィの治療Ⅱ

 アーリィの手当てを終えた後、俺は彼女をベッドに運んで、そっと寝かせた。


 クレアとウサ太が頑張ってくれたおかげもあって、患部をタオルで包み込み、清潔な状態を維持することができている。


 後はポーションが完成するまで待ち、目を覚ましたアーリィにそれを飲ませることができれば、命に関わるようなことはないと思った。


 これが適切な対応なのかはわからないが、物資が少ない山の中では頑張った方だと思う。


 そんな中、アーリィの介抱を手伝ってくれたクレアとウサ太は、さすがに疲れたみたいで――、


「zzz」

「zzz」


 仲良く身を寄せて、眠りについていた。


 きっと緊張感から解放された影響もあるんだろう。


 俺も今日はどっと疲れが溜まっていて、妙に体が重たかった。


 朝から丸太を運んだり、ウルフと戦うことになったり、意識を失った人の介抱をしたりと、慣れないことが続いてばかり。


 地球にいる方が楽な暮らしだったなーと思う反面、充実感に満たされ、生きていることを強く実感した日でもあった。


「刺激が強すぎるような気もするが、これはこれで良い経験だったのかもしれないな」


 魔物が存在する世界である限り、この場所が絶対に安全ではないと、最初からわかっていたつもりだ。


 しかし、これまでウサ太やトレントの爺さん、軍隊蜂と友好的な関係を築けていたため、心のどこかで甘く考えていたんだろう。


 実際に危険な目に遭って、魔物は恐ろしい存在であり、人を殺める力を持った生き物なんだと痛感することができた。


「便利な【箱庭】スキルと、魔物と仲良くなれる加護をもらった弊害だな。今後はもっと身を引き締めていかないと」


 ゲームやピクニック感覚で過ごしていたら、すぐに命を落としてもおかしくはない。


 まずはアーリィやクレアから情報を得て、異世界のことを詳しく知り、自分の感覚を養う必要がある。


 そのためにも、ポーションで治療して、恩を売っておかないと……などと、滑稽な考えが頭によぎってしまった。


 こっちは大人になった弊害か、ストレス社会を生き抜いてきた影響かわからないが、余計な理由を付けたがっている気がする。


 きっと俺の本音は、もっと違うところにあるんだろう。


「見知らぬ世界で過ごすなんて、意外と心細いものだったんだな」


 いきなり住む世界が変わったことで、ホームシックに近い感情を抱いているのかもしれない。


 一肌が恋しいわけではないが、同じ人間であるアーリィやクレアを見て、どこかホッとしている自分がいた。


 もちろん、今日まで過ごした異世界の日々が嫌なわけではない。


 単純に、普通に会話して、意思疎通を図れたことが嬉しかったんだと思う。


「あっ。そういえば、異世界でも普通に言葉が通じているな。俺は今、日本語か異世界語のどっちで話しているんだろうか」


 日本語が勝手に変換されるシステムなのかなーと考えていると、スキルで作っていたポーションが完成する。


 それと同時に、アーリィが意識を取り戻したみたいで、ベッドから小さなうめき声が聞こえてきた。


 思わず俺は、ポーションを片手に取り、彼女の元に向かう。


「大丈夫か?」

「ん……」


 僅かに目を開けるものの、意識がハッキリとしていない。


 怪我や出血による影響か、過度な緊張から解放された反動か、別の原因があるのか……って、そんなことを考えている場合じゃないか。


 今は治療を優先すべきだ。


 アーリィの上体を軽く起こした俺は、彼女を支えながらポーションを口に当てがった。


「ポーションだ。ゆっくりでいいから、飲んでくれ」


 虚ろな目をしているものの、ゴクッ……ゴクッ……と、少しずつ確実に飲んでくれている。


 ただ、意識を取り戻したばかりで、焦りすぎたかもしれない。


 すべてのポーションを飲み終えると、アーリィは意識を手放すようにまた眠ってしまった。


 後はポーションの効果を信じて、彼女が目覚めるまで待つしかない。


 トレントの爺さんを助けた栄養剤を思い出す限り、ポーションもしっかりと効いてくれるだろう。


「ひとまずは、これで一段落だな」


 サラリーマンだった俺には、これ以上の治療法が思い浮かばない。


 後はしっかり看病して、意識がハッキリと戻ることを願うだけだった。

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