第36話 西の町カイナタウン 中編
私の名前はバル。鳩です。今日はある事件の調査の補佐として、カイナタウンに向かう事となり車で移動中。飛んだら簡単なのですが、道中の時間を使って打ち合わせをしたいと言われ、仕方なく車に乗っているんです。そうです。話せる鳩です。
「おい! ポロッポ!」
「はて? 私はバルですが?」
「ポロッポ。調査の前にお前の能力を確認したいんだが」
「分かりました」
「ポロッポ。お前は何の『こだわリスト』だ?」
この人は話を聞いていないみたいですねー。バルって言ってるに。
「ポロッポさんは、人と話が出来るんですね。色々教えてほしいわ」
あれ? 助手の人も私の名前を間違えてますね。困った人たちですね。適当に相手してあげますか。
「はい。私は鳩ですが、良い声で鳴くことにこだわっているうちに、いつの間にか人の言葉も話せるようになりました!」
「凄い!! もしかしてヒト以外とも話せるんですか?」
「はい! 鳥類は誰でも大丈夫です。猫と犬は無理でした。多分嫌いだからですかね? もしかするとこだわりが深くなれば、もっと他の生物とも話せるようになるかもしれないですが……」
「すごい! 色々な生物と話せる可能性があるなんて楽しそうな能力!!」
おっ。この助手の人は良い人かもしれないな。
「ポロッポ。能力はそれだけか?」
「はい」
「全然戦闘向きではないなー。戦いになったら役に立たないな。んー。他に何か能力はないのか?」
「ないです。しいて言うなら、鳩なので警戒されません。でも、鳩なので、存在自体が弱点です」
「存在自体が弱点か。面白い!!」
なんで、この探偵は面白そうにしているんだろうか。本当に失礼な人だな。
「豆田まめお。何が面白いのよ!」
「素晴らしく分かりやすい弱点じゃないか!」
豆田は、肩を揺らすほどの大笑い。
「そういう豆田さんは弱点はないんですか?」
「はははー。私はコーヒーが冷めたら能力が使えなくなる」
「ぷぷ。何ですか、それ。最弱じゃないですか」
「シュガー! 今日の晩御飯は鳩の丸焼きで良いかな?」
ポロッポは、目を丸くして驚く。
「鬼です!! 話せる鳩を食べようなんて! 普通の人は、私の前では鶏肉さえ食べないのに! 丸焼きですと? 普通は言えないですよ!」
「シュガー! ソース味で良いか?」
「本気ですか? まだ言うんですか? 鬼ですか?」
「豆田まめお。あんまり虐めないの。ポロッポさんが泣くわよ」
「はははー。冗談だ。ポロッポ。宜しく頼む!」
この人は、どこまでが冗談なんだろうか。もうポロッポでいいし、とりあえず怒らせないようにしよう。
***
カイナタウンで年に一度行われる祭り『カイナ祭り』は、豊作を願って丸ひと月行われる行事だ。カイナ市役所から徒歩で10分の場所にある公園をお祭りの会場として飾り付けて使用する。
豆田たちは市役所の駐車場に車を止め、徒歩で現地に向かうことにした。
まずは市役所のキッチンを借り、コーヒーを淹れる。
職員に祭りの地図を貰い準備は万端。熱々のコーヒーを持参して『カイナ祭り』に向かった。
祭りの会場に近づくと、賑やかな音楽が聞こえてきた。大きな音で皆高揚しているようだ。
「あ! 豆田まめお! お祭りが見えてきたわ!」
シュガーはその目を輝かせ口元が緩む。豆田はその様子を見て察する。
「そうだ。シュガー。調査のためには、お祭りに参加する必要もあるな」
「豆田まめお! そうよね! 参加しないとね! わたし、お祭りはじめてなの!」
目の輝きがいっそう増すシュガー。
「あのですね。この祭りは、この町の伝統的な祭りで、グロアニア暦213年から始まっており……」
ポロッポが説明を始めるも誰も聞いていない。
「わー!! これがカイナ祭り。凄い規模なのね」
今は太陽が一番高い時間。カラッと晴れた良い陽気。
『カイナ祭り』入り口には大きな門があり、『踊れ! 歌え! 食べろ! カイナ祭り!!』と黄色とピンクで書かれた看板が設置されている。
門の奥には50は超える出店が所せましと並んでいる。笑顔で、はしゃぐ人々の顔を見ると、シュガーは仕事である事を忘れてしまいそうになった。
思わず小走りで会場内に入るシュガー。豆田は警戒しつつシュガーの後に付いて行く。
「沢山の屋台!!」
興奮気味のシュガー。
「シュガー。これで好きなのを買いつつ怪しいところを調べてきてくれ」
豆田はシュガーに銀貨3枚を渡す。それを手にしたシュガーは子供のように喜ぶ。
「いいの? じゃー。行ってくるね!」
シュガーは、銀貨を握りしめ人混みに消えていった。その様子を微笑ましく見つめる豆田。
「豆田さん。シュガーさんは仕事を完全に忘れてますね」
「シュガーにはこういう時間も必要だ」
(どういう意味だろう?)
「そうだ。ポロッポ! お前には頼みたいことがある」
「豆田さん。なんですか?」
豆田は頼みごとをポロッポに耳打つ。ポロッポは頷き。空に向かって飛び立った。
***
シュガーは祭りを堪能しながら、事件の原因になりそうな何かを探すことにした。
人混みに揺られながら、まずは出店を一軒づつ調査する。
ここ『カイナタウン』は島国タイエン出身の物が多い地域で、この『カイナ祭り』もタイエンの祭りを模しているようだ。
(お祭りって、こんなに沢山の人が訪れるのね!
この中で、事件の原因になりそうなところを探さないとね。まずはここから!)
シュガー心の声とは裏腹に、顔面は笑顔で崩れていく。
(ここの屋台は、凄く甘い匂いがするわ。『綿菓子屋』? 綿菓子!!)
「生涯食べれないと思っていたあの綿菓子? えー。これは調査する必要がありそうだわ」
シュガーは、笑みを溢しながら、綿菓子屋の店主に話かかる。
「おじさん! 綿菓子一つ下さい!」
「あいよ。お嬢さん。何色がいい?」
「え? 色を付けれるんですか?」
「ああ。赤、黄色、青があるよ!」
「じゃー。赤で!」
店主は機械にザラメと赤い粉を入れる。フワフワの赤い綿が一気に生まれた。
(こうやって作るのね! 感動だわ)
店主は、出来上がった綿菓子を木の棒に綿を巻き付け、シュガーに手渡す。
「はい。銅貨3枚ね」
シュガーは銀貨1枚を渡し、お釣りに銅貨7枚を貰った。
「ありがとうございます! 凄い! フワフワだわ。頂きます! んーー。美味しい!」
シュガーは初めて食べる綿菓子に感無量。綿菓子を味わいつつ、シュガーは周囲を確認する。
(え! うそ! あれはフランクフルト屋さん! 絶対食べれないと思っていたのに。これも食べないとね! 調査だもの)
この調子でシュガーはドンドン出店を回っている。
いつの間にか、シュガーの両手はいっぱいになっていた。フランクフルトにかき氷、風船、ボールすくいの玉。
(次はどこに行こうかしら? そろそろ焼きカルボナーラを食べようかしら?)
当初の目的をすっかり忘れて純粋に祭りを楽しむシュガー。
「あった! 焼きカルボナーラ屋さん! あ。あれは豆田まめお……。忘れていたわ。調査してない)
豆田は、シュガーの視線に気付き駆け寄ってきた。
「シュガー。いい買い物が出来たようだな」
シュガーは少し恥ずかしそうにしながら、
「豆田まめお。沢山いい物が買えたわ」
「そのようだな。怪しい店はあったか?」
「ふふ」
「忘れてたんだな」
「豆田まめお。私にも忘れる才能あったみたい!」
「はは。じゃ仕方ない。では改めて一緒に調査するか」
シュガーは大きく頷いた。
豆田とシュガーは再度お祭りの調査を開始した。
フランクフルト屋。かき氷屋。射的屋。綿菓子屋。ヨーヨー屋。特に怪しいところはない。
「豆田まめお。このお店は?」
「ん? ここはゼリー屋さんか。珍しいな」
「私はメロンゼリーにするわ。豆田まめおは何にする?」
「もちろん。コーヒーゼリーだ!」
「あるのかしら?」
「そこのメニュー表に書いてある」
「本当だわ」
「じゃ。1つは今食べるとして、持ち帰り用にあと二つ頼む」
「ふふふ。分かったわ。買ってくる」
シュガーからコーヒーゼリーを受け取った豆田は満面の笑みで食べる。よほど美味しかったのか、あっと言う間に、食べ終わった。
シュガーは持ち帰り用のコーヒーゼリーを緑色の袋に入れて貰う。両手に沢山の食べ物を抱え満足気そうな笑顔を浮かべている。
豆田は、今までの調査の内容を頭の中で整理し始めた。
(さて、聞き込みからすると、一か月のあいだ出店に変化はないらしい。
そうなると、ここの出店者全員に被疑者の可能性がある。範囲が広いな。
それにどうやって、子供たちを寝たきり状態にしたかも考えなければ。
催眠みたいなものか? 大人数に一気に催眠をかけたとするなら、68名の被害者はむしろ少ないぞ。なら、一対一で催眠をかけたか?
いや、そのような事をしていたら明らかに周囲に怪しまれる。
やはり、食べ物に寝たきりを誘発する物質を混ぜるのが、簡単か。
と、なるとその物質は『こだわリスト』が作ったものだろうな)
豆田は深く思考する。が、傍から見ると、とても怪しい。
「豆田まめお。道のど真ん中で、ブツブツ言ってたら邪魔よ」
「あー。そうか」
シュガーの言葉で歩き始めた豆田。
「シュガー。おそらく何かの食べ物に寝たきりを誘発する物質を混ぜて販売している可能性が高い。ただ被害者の人数からして、沢山出回っているものではなさそうだ」
「人気がない店を探したら良いって事?」
「んー。その可能性もあるが、渡す数をコントロールできる店や、商品の種類が多い店か」
「なるほどね。でも何でもっと沢山の人を眠らせなかったのかな?」
「動機が分からんなー」
「あ! あの店は? 誰も並んでないし、人気は無さそうよ」
沢山の出店が並ぶ中で、唯一と言っても良いくらい誰も並んでいないお店。
『コモのカルカル屋』と黄色と黒で毒々しく書かれた文字。
見るからに怪しい。店主は、分厚い眼鏡にかなりの猫背。
豆田とシュガーは意を決して、声をかける。
「すいません。このコモのカルカルってどんなものですか?」
シュガーが探りの一言を発する。
「ああ。コモをカルカルにしたものだよ」
店主は当たり前のように答える。
「店主。コモと言うのはなんなんだ?」
「ああ。コモも知らないのか……。コモは異界に生える草だよ」
「店主は、異界人か?」
「ああ。そうだよ。五年前に急にこっちに迷い込んでしまったんだ。今はコモの栽培で何とか生計を立てているよ。出店を出しても、わしを見る事が出来るのは『こだわリスト』『純人』それに異界から来た者たちだからな。商売としては厳しい。あんたらは、コモを知らんという事は、『こだわリスト』かい?」
「あ、わたしは」
「二人とも『こだわリスト』だ」
(あ、そうだ。『純人』っと言うのはなるべく伏せないとね)
「そうかい。どおりでコモを知らないはずだ」
「ところで、店主」
「なんだ?」
「私たちと同じように『こだわリスト』がここに来なかったか?」
「あー。そうじゃのー。異界の物以外で、ここに来たのは、もう一人いたな」
「どこの人か分かるか?」
「ああ。分かるぞ。ここから見えるひと際派手な看板があるじゃろ? あそこはくじ引き屋なんだが、あそこの店主がやってきたわい」
(くじ引き屋。なるほどくじ引きの景品の1つに寝たきりを誘発するものを混ぜておけば、被害者の人数を調節することも可能か。かなり怪しいな)
豆田は思考をまとめた。
「店主。ありがとう。コモのカルカルを二つ」
豆田は情報をくれたお礼に商品を購入した。
「お、ありがとよ! 二つで銀貨1枚だ」
小さなカップに入った『コモのカルカル』は、深緑色で少し酸っぱい匂いがする。
見るからにグロテスク。食べ物とは思えない。植物のはずだが何故かウネウネうごめいている。
豆田とシュガーは覚悟を決めて一口食べた。
「うそ! 美味しい!!」
「ああ。凄くコリコリしていて、癖になる食感だ」
「そうだろ! 喜んでもらえて何よりだ」
豆田達は店主にまた食べにくる事を誓い『コモのカルカル屋』を後にする。
***
『パタパタ』
羽音を立てながら、ポロッポがシュガーの肩にとまる。
「豆田さん。言われた通り、周囲の偵察に行ってきました!」
「ポロッポ。どうだった?」
「祭りに来た人に、何かを配っているような人はいませんでした」
「そうか。やはり、犯人はこの中か」
「豆田まめお。そうなると『くじ引き屋』が怪しい?」
「ああ。そうだな。今のところ1番怪しいな。最大限警戒しながら向かってみるとしよう!」
「豆田さん。私は?」
「ポロッポは、戦闘が始まりそうなら、周囲の人々を逃がしてくれ」
「分かりました」
さて、どうやって、事件に関与している証拠を見つけるかだな。
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