第34話 王様再び

 杖職人の『こだわリスト』からの依頼を解決した豆田達であったが、家賃支払いのための目標金額にはまだ全然足らない。さらに小さな依頼をこなし続けた2人だが、ついに支払期限の3日前になってしまった。

 シュガーは、朝食を食べた後、このひと月の稼ぎをローテーブルの上に並べた。


「もう! こんなに働いたのに2か月分の家賃にもなってないわ」

「足らないかー。シュガー。何かいいアイディアはないか?」

「そうねー」


 2人はソファーに座りながら、知恵を絞る。

 しばらく沈黙が続いたあと、豆田が重い口を開いた。


「シュガー......。仕方ない。あきらめるか」

「豆田まめお。嫌よ。あきらめないわ。この空間は私にも特別なの。わたしもこの空間の維持にこだわるわ!」

「シュガー。『こだわり』。いいね。素晴らしい!」

「はぁー。なにか良いアイデアないかしら......。あ! 王様の依頼は、どうかしら?」

「ん―。気乗りしない。タヌキおやじは嫌いだ」

「じゃー。変わりに良いアイデア出してよ!」

「んーーー」


 豆田は腕を組み本格的に悩む。


「豆田まめお。思い出して。誰のせいでこうなったの? ね?」


 シュガーは、ソファーに座る豆田の目前に詰め寄る。豆田は顔を背ける。


「ねー! や・ち・ん!」


 シュガーは、さらに豆田に詰め寄る。豆田は天井を見上げて、視線を逸らす。


「ねー! 誰かさんの忘れる才能!!」


 シュガーは、さらにさらに詰め寄る。豆田の顔まであと10センチ。


「シュガー。分かった分かった。私の負けだ! いうことを聞くとしよう」

「豆田まめお。じゃー! 早速、王様に会いに行かないとね!」


 シュガーは黒電話の元に走ると、豆田の気が変わらない内に、お城に電話をかけた。


「豆田まめお! 今から行ってもいいって! コーヒーを淹れて、すぐに用意して!」

「はいはい」


 豆田は渋々出かける用意を始めた。


 ***


 コーヒーの用意を終えた豆田とシュガーは、馬車を手配し、お城に向かった。

門の前に待機していた執事に連れられ、謁見の間を訪れた。


「王様、前にお伺いしていた依頼の件ですが、まだ未解決なら、お話を聞かせてもらえませんか? それに報酬についても」

「豆田くんシュガーくん。よく来たのー。ふぉふぉふぉ。あの事件はまだ未解決じゃ。しかし、どういう心変わりじゃ? 金では動かんのじゃろ?」


 王様は、分かりやすい嫌味を言った。


「私は金では動かないが、家賃では動く!」

「豆田くん。名言っぽく言っておるが、かなりカッコ悪いぞ」


 豆田は王様の発言を一切気にしない。


「王様―。すいません。依頼について教えて頂けませんか?」

「ふぉふぉふぉ。シュガーくん。よかろう。ここ最近、カイナタウンで子供が寝たきりになる相談が相次いでおってのぉー」

 

 王様は、護衛の者に視線を送る。一礼をした護衛の者が1人退席した。


「寝たきりが多発? タヌキおやじどういうことだ?」

「それが、分からんのじゃ。なぜか子供たちが急に寝たきりになるのじゃ」

「急に? 病院でか?」

「それが医師の診断では、何も異常がないらしくてのぉー。全員自宅に帰っておるのじゃ」

「単純に寝ているだけだと?」

「そうじゃ。寝ているだけじゃ」

「じゃあ。栄養はどうなっている?」

「それが不思議な事に、栄養は必要ないようなんじゃ。本当に寝ているだけなのじゃ」

(なぜ衰弱しないんだ?)


 豆田は、眉間にしわを寄せ悩む仕草をした。


「タヌキおやじ。そのような子供は今で何人くらいいる?」

「それがの。68人にものぼるのじゃ」

「68人か。多いな。一度寝た者の中で回復したものは?」

「それがまだ一人もいないのじゃ」


 退席していた護衛の者がバインダーを持って現れた。


「王様。ドンドン増えたら大変な事になるんじゃないのですか?」

「そうなんじゃ。困っておってのー。なにが原因なのか全く分からんのじゃ。どうじゃろーか? 解決の糸口だけでも探してきてくれんかのー?」

「ん――。なるほどな。糸口を探すだけならなんとなるか」

「豆田まめお。断る理由は何もないわ」

「ふぉふぉふぉ。引き受けてくれるんじゃな?」

「家賃の為だ。仕方ない! 引き受けよう」


 その言葉を聞いた王様は護衛の者に視線を向ける。護衛は一礼したあと、王様にバインダーを手渡した。


「ここにカイナタウンまでの地図が乗っておる。では、明日にでも早速カイナタウンに向かってくれるかのぉ?」

「王様! 明日なんて待ってられないです。今すぐ向かいます!」

「ふぉふぉふぉ。シュガーくんはやる気じゃのぉー」

「はい! で、王様……。聞きにくいんですが、報酬はいくらくらい……」

「ふぉふぉふぉ。シュガーくんはしっかりしておるのー。金貨20枚でどうじゃ?」

(金貨20枚!! まだ家賃半年分には足らないけど、ありがたいわ)


 シュガーはその条件を飲むことにした。


「王様。ぜひお願いします」

「うむ。よろしく頼む。カイナタウンの役所に詳しいものがおる。そこで話を聞いてもらえるかの?」

「王様。分かりました。豆田まめお。行くわよ!」

「ふー。やれやれ」


 豆田とシュガーは、謁見の間をあとにした。


***


「豆田様。この車を使って下さいませ」


 執事は、門の前に用意した車のカギを豆田に手渡した。

丸いフォルムの水色の車は何とも愛らしい姿をしていた。


「これを自由に使っていいのか?」

「はい。さようでございます」

「もし、破損した場合は?」

「故意でなければ問題ございません」

「なるほど。分かった」


 豆田は、車のドアを開け乗り込む。シュガーは助手席に座った。執事は深々と頭を下げていた。


「さてと……。シュガー。カイナタウンまで、ここから車で45分ほどだ。遠いな」

「コーヒーは私が持とうか?」

「ああ。頼む。では、こぼれないように、コーヒー銃!」


 シュガーが持つコーヒーカップから、『こだわりエネルギー』があふれ出す。

 フワリと浮かんだ液体は丸まったのち分裂し、拳銃と弾丸に形状を変え、豆田の右手に収まった。


「これで、コーヒーカップからコーヒーがこぼれないわね!」

「ああ。これで安心だ! では、出発するぞ!」

「豆田まめお。家賃の支払いまで、あと3日よ!」

「ああ。急ぐとしよう」


 車は一気に加速し、お城をあとにした。

 目指すは、西の町カイナタウン。

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