第28話 能力検証


「さー! 今から能力の検証を行う。シュガー。準備はいいか?」

「豆田まめお。私は良いけど、何で皆さんがいるの?」


 王様の依頼を断った次の日。

 豆田は、城に向かう馬車の中で発見した事を試す為に、探偵事務所にクロス達を呼んだようだ。


「まめっち。重大な発表って聞いて慌ててやってきたけど、何するの? 検証?」

「あぁ。昨日タヌキおやじに呼ばれて、城に行ったんだが、その途中、シュガーのアドバイスで分かった事があるんだ」

「ん? 何が分かったんだい? 大切なこと?」

「何と!!」

「何と?」

「コーヒー銃を作ると、カップの中のコーヒーは、ひっくり返しても溢れない!」

「えーーっと。まめっち。帰っていい?」


(そうなるわよね)


 シュガーは、心底そう思った。


「まー待て。話はここからだ!」

「え? そうなの?」

「何と! シュガーがコーヒーカップを持っていても溢れないんだ!」

「そうなの?」

「クロス! これは画期的な事だぞ!」

「えー。そうかな?」

「そうだろ? いいか? シュガーがコーヒーカップ持っていれば、私は2丁拳銃が使えるんだぞ?」

「あ! そっか。それは便利だね」

「そうだろ?」

「でも、何で僕たちが呼ばれたの? 関係ないよねー。風雷さん」


 クロスは、ソファーに座り黙って話を聞く風雷に尋ねた。


「クロスの兄ちゃん。あっしは、豆田の兄ちゃんに命を助けて貰った身だ。その恩がある。何でもやれる事は、やらせてもらう」

「えー。僕は、帰りたいんだけど......」

「まー。クロス。お前にも関係あることだ。聞いて行って損はないはずだ」

「え? どういうこと?」

「まー。説明する。風雷。ここからは他言しないでくれ」

「豆田の兄ちゃん。分かりやした」


 豆田は大きく深呼吸した後、話し始めた。


「いいか? 風雷。シュガーは、『純人』だ」

「な、何と!!」


 風雷は心底驚いたようだ。


「あれ? まめっち。『純人』って珍しいの?」

「ああ。『こだわリスト』達の間では、知らない者はいないくらいだが、実際に見た者となると、ほとんどいない」

「え? そうなの?」

「そうだ。なので、実際聞いている能力と、本当の能力に違いがあるかもしれない。そこで、今日は検証しようと思って、集まって貰った」

「あ。なるほどー。そう言う事か、今後まめっちのアシスタントを続ける訳だし、分からないと不都合なことがあるもんね」

「ああ。そう言う事だ」


 シュガーは、少し不安そうな表情を見せた。


「シュガー。大丈夫だ。この検証は、シュガー自身の身を守ることにも繋がる」

「豆田の兄ちゃん。それはそうでやすね。知らなければ、どのような危険があるかも分からない。最低限自分のことは分かっていた方がいい」

「そう言う事だ。では、シュガー」

「豆田まめお。『純人』って大変なの?」

「んー。大変ではないんだが、利用しようとする者がいるのは確かだ」

「そうなんだ......」


 シュガーは深刻そうな顔で豆田を見つめた。


「さ! 検証タイムだ!! んー。実に楽しみだ!」

「まめっち......。良く一気にそのテンションになれるね」

「いやー。楽しみで楽しみで仕方なかったんだ! さー。コーヒーを用意するぞ!」


 豆田はそう言うと、鼻歌を歌いながら、キッチンに入っていった。


「シュガーちゃん。ごめんね。デリカシーの無いまめっちで」

「いえ、深刻にされる方がよっぽど大変なので......」

「まー。シュガーさん。悪い事ばかりではありやせん。どんな能力も使う人次第でやす。それに豆田の兄ちゃんも相当特殊でやすからね」

「え? 豆田まめおもですか?」

「ええ。あっしは長い間、戦場にいましたが『こだわりエネルギー』をそのまま操作する人は、はじめて見やした」

「え? 普通は違うんですか?」


 シュガーは驚きの声をあげた。風雷は少し間を置き、話を続けた。


「ええ。普通は『こだわりエネルギー』は物に流して、使うものなんです。あっしは刀に流し、クロスの兄ちゃんは箱に、ぬいぐるみの『こだわリスト』はぬいぐるみに......」

「そうなんですか? でも、風雷さんは身体にも流してましたよね?」

「ああ。そうでやす。身体も使う『物』と解釈すれば、使えやす。あと、変わったところだと、自分の身体を変化させる者もいますね......」

(あ、蛇使いの『こだわリスト』とかがそうね......)


 シュガーは『こだわリスト』について分かってきたようだ。


「じゃー。風雷さん。職人の『こだわリスト』さんは?」

「シュガーさん。一番の違いは、その『こだわリスト』から離れても能力が使えるかになりやすね」

「職人さんの物は、能力が長続きするってことですか?」

「ほう。シュガーさんも豆田の兄ちゃんのように鋭いですな。その通りでやす」

「じゃー。職人さんの『こだわリスト』の方が、凄いんですか?」

「いや、そう一言で、言えるものではありやせんね。職人の『こだわリスト』は、物に『こだわりエネルギー』を流すのに時間がかかりやす。しかし、手元から離れても生きる。一長一短でやすね」


 風雷は、シュガーに分かるように簡潔に説明した。


「クロスさん。じゃー。この前の寄生金属の『こだわリスト』は? すぐに寄生金属を作り出していたと思ったんですけど......」

「あー。シュガーちゃん。多分、事前に寄生金属を沢山用意しておいて、『こだわりエネルギー』を流すと、起動するようになっていたんじゃないかな? で、起動してから、それを部屋中から飛ばしたんじゃないかな?」

「あ。あの時に寄生金属を作った訳じゃないと......」

「多分だけどね」


 クロスは、アゴに手を当てながら、その時の光景を思い出しているようだ。

 キッチンの方からは、コーヒーの甘い香りが漂ってきた。


(あれ? いつものコーヒーと違う?)


 シュガーは、その香りの変化にすぐに気付いた。


「さー。コーヒーが出来たぞ。今日は、検証作業に最適な、酸味が強い。ターメリア産のコーヒーした」


 豆田は1人ニコニコしながらコーヒーを持ってきた。


「まめっち。僕はコーヒー以外がいいなー」

「シュガー。クロスはお帰りのようだ」

「豆田まめお。そんなこと言わないの!」

「嘘だ嘘。まー。飲んで見てくれ」


 クロス達は、仕方なくコーヒーを口にした。


「ん! これはいつものと全然違うね! 酸味が強いのに、鼻から抜ける香りは凄く甘い」

「だろ? クロス。検証には最適だ」


 風雷も片眉をあげながら、香りを楽しんでいるようだ。


「さー。検証を始めようか!」

「まめっちは、ほんと楽しそうだね。で、何からやればいいの?」

「よく聞いてくれた。まずは、私のコーヒーの能力からだ。どうやら『こだわりエネルギー』を直接操るのは、私だけのようだしな。私自身も分からない事があるかもしれない。だが、しかし!!! 今から言う事が、この検証をする中で、一番大切な事だ!」

「え? なに?」


 クロスは誰が見ても分かるほど露骨に嫌がった。


「コーヒーは一滴も。いいか? 一滴も無駄に出来ない! 検証する為にカップをひっくり返すが、風雷。一滴も床に落とさず、この空のカップに回収してくれ」

「あー。そう言うこと……」


(この為に風雷さんが呼ばれたのね)


 シュガーは完全に納得した。


「では、風雷。よろしく頼む」


 そう言うと、豆田はソファーに座る風雷にコーヒーカップを渡した。


「豆田の兄ちゃん。人使いが荒いでやすな」


 口ではそう言うが、風雷は何故か嬉しそうだった。

 おそらく寄生金属のせいで、今まで人と接するのを必要最小限にしていた為だろう。前までの風雷が嘘のように朗らかである。


「では、まず。これからだ!」


 豆田は、メインフロアのど真ん中で、コーヒーカップを傾けた。床に向かって、コーヒーが落下する。

 風雷は風のように素早く動く。コーヒーが地面に当たる直前。空のコーヒーカップをその場に置いた。  

 コーヒーは、一滴もこぼれずカップに収まった。


「豆田の兄ちゃん。あっしの事も検証しているのかい?」

「はは。風雷。楽しいだろ?」

「フハハ。あぁ。実に楽しい」


 風雷は、捕えきったコーヒーを豆田に手渡した。


「流石は風雷。一滴も無駄にしていないな。では、次だ。コーヒー銃!」


 コーヒーカップから、『こだわりエネルギー』がプカプカと浮かび上がる。

 次いで、大小に分裂し、それぞれが拳銃と弾丸に変化する。出来上がった弾丸はすぐにシリンダーに装填された。


「で、この状態のときは、コーヒーがこぼれないみたいだ」


 豆田は左手に持つ、コーヒーカップを傾けるが、中の液体は固まったまま微動だにしない。


「まめっち。本当だね。て、言うか。なんで今まで気付かなかったの?」

「どんな時も水平になるように維持していた」

「え? 今までの戦いの時も常に?」

「ああ。大変だった」


 クロスは、吹き出した。


「えー! じゃー。もっと簡単に勝てたんじゃないの?」

「はは。そうみたいだ。いらない苦労をしていたな」

「はは。本当だね」

「これだけでも凄い発見だが、何と、シュガーが持つと......」


 豆田はシュガーにコーヒーカップを手渡した。


「豆田まめお。傾けたら良いの?」

「ああ。シュガー。頼む」


 シュガーは豆田に言われるままカップを傾けた。しかし、先ほどと豆田が傾けた時と同様にカップの中にコーヒーは微動だにしない。


「やはり、こぼれないな。じゃー。これをクロスが持ってくれ」


 クロスはシュガーからコーヒーカップを受け取った。


「まめっち。じゃー。僕がこぼしたらいいんだね?」

「ああ。頼む」


 クロスがコーヒーカップを傾けると、コーヒーは動き出し、カップから流れ出た。

 風雷は加速し、それをカップで受け止める。シーリングファンがグルグルと回った。


「やはり、クロスではダメか。『純人』だけの特性と考えてよさそうだな......」

「豆田まめお。もう納得した?」

「いや、ここまでは予想していた事だ。問題はここからだ。このコーヒー銃をシュガーに渡す」

「え、これ受け取っても大丈夫なの? 痛くない? 『こだわりエネルギー』なんでしょ?」

「私は痛くないから大丈夫だろ?」

「本当に?」

「じゃー。小さな玉にしてみるか......」


 豆田は、コーヒー銃を『こだわりエネルギー』の塊に戻し、そこから小さな玉を取り出した。

 そして、ビー玉サイズのその玉をシュガーの手の平に置いた。


「豆田まめお。大丈夫。痛くないわ」

「持てるな。まー。それはそうか......。コーヒーの弾丸は人に当たるしな......。空中に置くことも出来るしな」

「じゃー。私もコーヒー銃を使えるってことかな?」

「ん? そうだな。その検証も必要だ」

「じゃー。これは返すね」


 シュガーは手の平の上に置かれた小さな塊を豆田に返そうとした。


「あれ? これ動かない」

「ん? どういうことだ?」

「ほら見て!」


 シュガーは、手の平を下ろした。が、小さな『こだわりエネルギー』の塊は、その場に浮遊したままであった。


「ほう。『純人』は『こだわりエネルギー』を使える訳じゃないのか?」

「豆田まめお。私は、カップは持てるけど、『こだわりエネルギー』は使えないってこと?」

「ああ。そのようだな。あくまで道具を使えるという事か......」

「じゃー。その有効範囲はどうなんだ? 風雷。シュガーにカップを渡してくれ」

「分かりやした。シュガーさん。どうぞ」


 風雷からシュガーはカップを受け取った。


「じゃー。シュガー。カップを傾けたまま私から離れていってくれ」

「分かったわ......」


 シュガーは、豆田の横から少しずつ距離をとる。5メートル離れたところで、カップからコーヒーが流れ出した。すぐさま風雷は加速する。落下したコーヒーは風雷の持つ空のコーヒーカップに収まった。シーリングファンがグルグル回る。


「範囲は、5メートルか......。ここまで分かれば、コーヒーの検証は充分だ」

「ふー。豆田まめお。これで納得出来た?」

「ああ。次は『純人』能力の検証だ」


 その言葉を聞いたクロスは、明らかに嫌がる。


「えー。まめっち。まだやるの?」

「ああ。今からだ」

「何回目の『今から』か分からないよー」

「まー。私が知りたいことは、あと少しだ。付き合ってくれ」

「もう仕方ないな。 じゃー次は何?」


 クロスは、切り上げることを諦めた。


「次は風雷。すまないが刀に『こだわりエネルギー』を流したものをシュガーに渡してくれないか?」

「ほう。なるほど。面白い検証ですな」


 豆田は、片眉を上げ得意気だ。風雷は鞘に入ったままのタイエン刀に『こだわりエネルギー』を流した。シュガーはそれを受け取る。


「風雷どうだ? 心眼で見れば、『こだわりエネルギー』がどうなったか分からないか?」

「ほう。これは面白い。見事に『こだわりエネルギー』がそこに残ったままですな」

「ん? どういうルールだ? 1人1人の『こだわり』に対して、『純人』の能力が変わるのか?」

「まめっち。じゃー。僕のBOXはどうなるかな?」

「そうだな。その検証も必要だ」

「OK! じゃー。BOX1!」

 

 クロスは手の平を目の前にかざした。すると、シュガーの目の前にBOXが出現した。


「シュガー。じゃー。そのBOXを持ってみてくれ」

「豆田まめお。こう?」


 シュガーはクロスのBOXを持ち上げた。


「凄いよ! まめっち!! 『純人』は僕のBOXを持てるんだね! 今まで誰も持てなかったのに!」

「素晴らしい。クロスのBOXを持てるなら、色々出来るぞ! 買い物の時に便利だ!」

「いや、それは困るけど。ねー。シュガーちゃん! そのBOX開けれる?」

「えーっと。BOX1。オープン......ですか?」


 シュガーは顔を赤くしながら、そう言った。クロスのBOXは、シュガーの声には反応しないようだ。

 シュガーは更に恥ずかしくなる。


「あれ? ダメかー。開けれないのかー。オープンしたら便利なのに」


 そのクロスの声に反応して、BOX1は開いた。中から、チーズケーキが現れた。


「あー!! シュガーちゃんが持ったままでも、BOXは開くんだ!!」


 豆田は飛び出したチーズケーキを掴み一口食べる。


「ちょっと、まめっち! 僕のオヤツ!」

「クロス。糖分が必要だ」

「ちょっと! 返してよ!」


 豆田はクロスの声を無視しつつ、深く悩みだした。

 そして、ブツブツと独り言のように話し始めた。


「風雷とクロスに対しての『純人』の反応は、共通しているな......。私のケースを無視して考えるなら、『純人』は『こだわりエネルギー』を流した道具を持つことが出来る。そして、その間は道具の性質は変わらない......。『純人』については理解できて来たぞ」


 豆田は自身の横に浮遊する『こだわりエネルギー』を見つめながら、そう結論付けた。


「豆田まめお。じゃー。私は職人の『こだわリスト』が作った道具をどんな物でも使えて、他の『こだわリスト』が使う道具を持つことが出来る。って考えて良いかしら?」

「ああ。そうだな。私のことを除外して考えるなら、それで良さそうだな」

「まー。まめっちは変人だから仕方ないね」

「なにを!!!!」


 豆田はクロスにソファーに置かれたクッションを投げつける。

 クロスはそれを避けると、舌を出し、豆田を挑発する。


「やれやれ」

 

 風雷はそのドタバタした様子を心眼で見ながら、嬉しそうに微笑んだ。

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