タヌキおやじの依頼

第25話 琥珀色の目

 フォルカー達との激しい戦闘を終え病院で傷を癒した豆田達は、ようやく自宅に戻る事が出来た。

 

 玄関の扉を開け、階段を昇り、広々としたメインフロアに上がる。

 

「ふー。3日ぶりだが、かなり久しぶりの気がするな」


 豆田は、そう言いながら、帽子を壁に掛けた。


「そうね。色々あったもんね……。生きているのが不思議なくらい」


 シュガーは、もう一度自宅に帰ってこられた喜びを嚙みしめる。

 豆田は早速キッチンに入ると、コーヒーを淹れる用意を始めた。

 シュガーは、キッチンカウンターに座ると、豆田がコーヒーを淹れる姿を嬉しそうに眺めている。

 

「シュガー、どうした? えらく嬉しそうだな」

「ふふ。そりゃそうよ。事件も解決したし、琥珀色の目の青年は見つかるし、最高だわ」

「まさか、私が琥珀色の目の青年候補だとはな」

「候補?」


 シュガーは首を傾げる。


「そうだろ? 琥珀色の目の青年は他にいるかもしれないだろ?」

「それはそうかもしれないけど、私は豆田まめおがワイル博士が言っていた青年だと思うわ」

「ん? なぜそう思うんだ?」

「それは、私がアシスタントになってからだけでも、もう2回は世界を救っているし」

「はは。大袈裟だな」

「そんな事はないわ。風雷さんの時も、寄生金属の『こだわリスト』の時も豆田まめおがいなければ、大変な事になっていたと思う」

「そんな事はないと思うが……」

「いや、そうよ! だからワイル博士が言っていた青年は、豆田まめお!!」


 シュガーはキッチンカウンターから身を乗り出す。


「はいはい。じゃー。とりあえずはそうしておこう」


 豆田は、出来上がったコーヒーをシュガーと自分用のカップに注ぐ。柔らかいコーヒーの香りが部屋に広がった。

 

「で、シュガー。私がその琥珀色の目の青年だとして、何をすればいいのかな?」


 カウンターにシュガー用のコーヒー置いた豆田は、自身のカップに口を付ける。


「あ、前にも言ったけど、これを琥珀色の目の青年に渡すように言われていたの」


 そう言いながらシュガーは胸元のペンダントを外した。

 

「そのペンダントに何か秘密があるのか?」

「分からないの。私は渡すように言われただけだから……。豆田まめお。ちょっと見てくれない?」


 豆田はシュガーからペンダントを受け取った。

 銀色のペンダントは、筒型になっている。


(知らない金属だな。かなりの硬度だ。内部に何か入っているのか?)


 豆田は、筒型の先端付近に、接合部分を見つける。


「シュガー。内部に何か入っているようだが……」

「取り出せる?」

「そうだな。やってみないと分からないが……」

「お願いしていい?」

「OK。コーヒーソード!」


 キッチンに置かれたコーヒーカップから、液体状の『こだわりエネルギー』が浮かび上がる。

 浮かび上がった液体は、丸まり15センチの球体となった。

 豆田は、その中に手を突っ込むと、素早く引き抜き、コーヒーソードを作り上げた。


 豆田は、ペンダントの根元を摘んで待つと、その先端にコーヒーソードの刃を当てた。


「えい!」


 ペンダントの先を鋭く切り裂こうとするが、全く傷付かない。


「シュガー。メチャメチャ硬いな。全く切れそうな気がしない。これはオヤジブレンドを使ったとしても切れそうにないぞ」

「うそ。どうしたら良いの?」

「そうだな……」

「豆田まめお。風雷さんなら切れるかな?」

「んー。風雷なら切れる可能性はあるが、切れたとしてもペンダントが木っ端微塵になっているんじゃないか?」

「そっか。中身が見れないと意味がないもんねー。じゃー。誰にお願いしたら良いのかしら?」

「シュガー。誰かにこのペンダントを見せるのは危険だ」

「え? なんで?」

「いいか。シュガーがいた研究所の博士が託したペンダントだ。おそらくその研究のデータに関する物が入ってるはずだ」

「あっ」


 シュガーは事の重大さに気付いたようだ。

 

「博士の研究が細菌兵器だと仮定すると、その細菌兵器の製造方法か、解毒剤のデータが入っている。と、考えられる」

「そっか。もし、どこからか情報が漏れて、悪用されたら......」

「そう言う事だ。世界を救うつもりが破滅させることになる」

「そんな……」

「それは嫌だろ? って、事はだ。このペンダントに関しては、シュガーと私だけの秘密だ」

「分かったわ。でも、そうしたら、どうやってペンダントを開けるの?」

「そうだな。他に琥珀色の目の青年がいないか、探しながら、コーヒーを極めていくしかないな」

「豆田まめお。青年の事は分かるけど、なんでコーヒーを極めるのが関係あるの?」

「いいか、シュガー。私はコーヒーの『こだわリスト』だ」

「知ってるわ」

「と、言う事はコーヒーを極めていけば、能力が上がる、つまり、ペンダントを切れるようになるかもしれない」

「あ、そっか。風雷さんも言っていたわね」

「だろ?」


 豆田は、得意げな顔をする。

 

「じゃー。豆田まめお。具体的にはどうしたら良いの?」

「はは。シュガー。それは今から考える」

「え? 何も案はないの?」

「んー。そうだな……。とりあえず私の好きなように生きるのが、1番の近道かな」

「え……?」


 シュガーは絶句する。


「他に案はあるか?」

「そう言われたら無いわ」

「まー。問題が一つあるが」

「それは何?」

「いつ博士の研究が完成してしまうか分からない」

「そうよね。じゃー。急がないと!」


シュガーは、事の重大さを再度認識した。

 

「よし! そうと決まれば、急いで好き勝手に生きるぞ!」

(あれ? 正しいけど……。何故か納得出来ないわ)と、シュガーは思った。

 

「では、早速、オヤジの豆屋に行くとしよう! 豆田ブランドを更に高めてご極上のブレンドにして貰わないと!」


 そう言うと、豆田は、すぐさまオヤジの豆屋に行く為の用意を始めた。

 

「シュガーはどうする? 一緒に町に出るか?」

「あ、私も行くわ! カエデさんと、ハンナさんにお礼を言わないと!」

「ああ。そうだな。2人のお陰で今生きているからな」


 豆田は帽子を被り、コーヒーを持ち、階段を降りていく。シュガーもそれに続く。

 

「そうだ! 豆田まめお。他にも聞きたい事があるの」

「ん? では、オヤジの豆屋に向かいながら、聞こうか」


 豆田は、玄関の扉を開け、通りに出た。

 シュガーは、豆田の横に並んだ。

 

「あのね。豆田まめおは、栄断流の技で、琥珀色の目になったじゃない? 師匠さんも琥珀色の目になるの?」

「いや、栄断師匠があの技を使った時は、澄んだ青色の目になっていたな。私もてっきり同じ青色の目になっているもんだと思っていた」

「そうなんだー。青色の目だったんだ? なんで違うの?」

「あー。おそらく私は栄断流を極めてないからじゃないかな? 私のは紛い物だ。コーヒーの力も使って、それっぽくしているだけだ。だから、あの恐ろしい反動がある」

「じゃー。師匠さんは反動なくあの技を使えるの?」

「そうだ。栄断師匠の技は凄まじいからなー」

「凄い師匠さんなのねー」

「ああ。凄い『こだわリスト』だ。特にあの1ミリの誤差もない刺鍼には、感動を覚える。そうだ。あと時の背後からの頚椎への直刺。憧れるな……。それに……」


(あー。完全に自分の世界に入ったわね)と、シュガーは思った。

 

 そうこうしているうちに、豆田達はオヤジの豆屋に着いた。

 シュガーは、そこで豆田と分かれ、カエデとハンナに会いに向かった。

 

『カラカラ』


「おっ! 豆田の旦那じゃーねーか」

「オヤジ。実は前に貰ったモンシン産の豆で、良いブレンドが出来たんだ。味見してくれないか?」

「へぇー。そいつは楽しみだ。どれ、見てみよう」


 オヤジは、カウンター裏の椅子に腰かけた。

 豆田は自身の作ったブレンド豆を入れた袋をオヤジに渡した。

 オヤジは、それを小皿に出し、観察し始めた。


「ほー。これはモンシン産の豆をベースに、3種類の豆を入れたのか?」

「おお! オヤジ流石だ! そうなんだ。で、このブランドをベースに3種類作って欲しいんだ」

「ほう。どんなのが希望だ?」

「そうだな。まずは、キレ味に特化した。鋭いイメージ」

「なるほどな……」


 オヤジは引き出しから紙を取りだし、メモを取る。


「で、次は、そうだな。コクが強くて、苦みが後から来る感じで」

「苦味ね……」

「最後は、毎日飲んでも飽きないオーソドックスなコーヒー。それでいて飽きの来ない後味」

「だと、あの豆も入れた方がいいかもしれんな……。分かったそれを参考に最高のブレンドを作っておこう」

「オヤジ。よろしく頼む」

「ああ。任せとけ! 上質のブレンド案を出しておこう」

「ありがとう!」


 豆田は、満面の笑みを浮かべた。

 

***

 

 一方、シュガーは、パン屋『ショパール』でカエデにお礼を言った後、ハンナのお店『リスフランス』に到着していた。

 

「ハンナさん! こんにちは」

「あー! シュガーちゃん! 心配してたのよ! 身体は大丈夫?」

「はい! もうスッカリ元気です」


 シュガーはにこやかな笑顔をハンナに見せた。


「大変だったんでしょ? 連れ去られたって聞いたわ」

 

 シュガーは、金属の『こだわリスト』との戦いを簡潔にハンナに説明した。

 

「凄い戦いだったのね。よく無事でいれたわね」

「そうなんです。ハンナさんがくれたガムシロップがなかったら、死んでいたかもしれないです」

「それは大げさだろうけど、役に立ってよかったわ」

「本当にありがとうございます!!」

「でも……」

「でも?」


 シュガーは、首を傾げた。

 

「シュガーちゃん。職人の『こだわリスト』の話をしたじゃない?」

「聞きました! お陰で本当に助かりました!」

「違う違う! 寄生金属を体内に入れられたのよね?」

「はい。そうです! すごく痛くて」

「よね?」

「そうですよ?」


 シュガーは首を傾げる。

 

「良く取らないで我慢できたわね。作戦だったの?」

「え?」

「まさか、忘れてたの?」

「え? なんのことですか?」

「あのー。シュガーちゃんは、『純人』だから寄生金属は、自分で取れるわよ」

「え!!」


 シュガーは、しばらく固まったあと、あの瞬間を思い出し、恥ずかしさがこみ上げる。

 

「シュガーちゃん……。気付かなかったのね」

「ハンナさん! お願いです! 豆田まめおだけには黙ってて下さい!!」


 シュガーは、ハンナに必死に訴える。


 が、背後に妙な視線を感じた。

 

「シュガー……」


 そこにはオヤジの豆屋の用事を終え、ハンナの店までやってきた豆田がニヤけた顔でこっちを見ていた。


「いやーーーーー!!」


 シュガーは恥かしさが頂点に達した。

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