第23話 金属の『こだわリスト』

 倉庫中の壁や天井に掛けられた金属がフォルカーの能力により、淡く発光していた。


「さー!! もうここからは戦闘じゃない! 一方的な殺戮ショーだ!!」


(部屋中の金属が寄生金属になったと、考えるべきだな……)


 豆田は喚くフォルカーを無視して、打開策を探している。


 警戒している豆田の真上の鉄筋から、


『ニュルリ』


 と一本の突起物が現れ、すぐに落下した。


「豆田まめお!! 上!!」


 豆田は、シュガーの声を聞き、瞬時にコーヒー銃を作り出すと頭上に向かい発砲した。

 突起物は弾かれ、地面に落ちる。


「フハハ。さー次だ! 次!!」


 フォルカーは倉庫中の寄生金属を操り、次々と寄生金属を天井から落とす。豆田とクロスは背中合わせになり、落下する突起物を銃で狙い撃つ。


「クロス。大丈夫か?」

「大丈夫! でも、こうも次々だとキツイね」

「クロス! 右の壁!」

「横からも?!」


 豆田達の意識を天井に集中させたタイミングで、壁から矢のような攻撃が飛んできた。

 周囲に神経を巡らすことを強いられ豆田達の精神は徐々に疲弊していく。


「フハハ。俺をバカにするからだ!! さー! 足が止まると当たるぞ! 踊れ踊れ!!」


 フォルカーは、大笑いしつつ豆田達を攻撃する。


「まめっち!! これじゃ持たないよ!!」

「くそ! 次々と! しかも、こちらがギリギリ反撃出来ない頻度の攻撃にして、遊んでやがる!!」

「あ! もう弾がない! まめっち! 何かいい方法は?」


 クロスは、飛来する突起物を躱しながら、そう言った。


「ヒーハハハ! さー。飽きてきたし、そろそろスピードを上げるか!」


 フォルカーは、さらに強力な『こだわりエネルギー』を柱に流し込んだ。倉庫中の金属の発光が強くなった。


(光が放射状に広がった? 繋がっているのか? なら、これは?)


 豆田はフォルカーの攻撃を躱しながら、コーヒー銃をコーヒーソードに持ち替え、壁に向かって、投げつけた。縦に回転しながら、飛んだコーヒーソードは壁にサクッと刺さった。


「まめっち! なんでコーヒーソードを投げたの?」

「クロス! 見てみろ!」

「あそこ発光が消えている?」

「どうやら、部屋中がワイヤーで繋がっているようだ!!」


「フハハ! 隠したワイヤーに、ようやく気付いたか?! 分かったところで何もできん!! そろそろ本気で行くぞ!」


 フォルカーはさらに、『こだわりエネルギー』の力を強めた。

 倉庫中の壁、天井からおびただしい量の突起物が現れた。その数、100を超える。


「シュガー!!」

「豆田まめお!! 大丈夫。私はまだ避けられるわ!!」

「クロス!! ドーム状のシールドを展開する!! お前はBOX2をヤツの頭上3メートルの位置に向かって放て!! あそこが起点になって光が広がっている!」

「まめっち! BOX2? あ! そうか!! 分かった!!」


 豆田達に向かって一斉に突起物が襲い掛かる。


「コーヒーシールド!!!!」


 豆田は頭上に向かって、シールドを展開した。

 最大限薄く伸ばしたシールドの外側は垂れ下がり、ドーム状になる。そこに大量の突起物が刺さる。


「クロス! 早くしろ! 長くはもたない!」

「まめっち! 任せて! BOX2!! オープン!!」


 クロスは手の平の前にBOXを出現させ、それをすぐに開いた。BOXの中から、風雷との特訓時に収納した【烈風突き】が凄まじい勢いで前方に飛ぶ。


『バスーーン!!』


 飛んだ斬撃は壁に当たると轟音をあげ、特大の穴を開けた。倉庫中の発光が収まっていく。


「クロス! やったぞ!! 形成逆転だ!!」

「まめっち……。うっ」


 クロスは、険しい表情を見せながら、膝から崩れ落ちた。


「な。クロス? どうした?」


『ドサッ!』


 倉庫の入口の方から音が聞こえた。振り返ると、そこには倒れこんだシュガーの姿があった。

 状況がつかめない豆田は周囲を見渡した。


 発光が消えた倉庫内。

 壁には烈風突きが開けた大穴と、壁にめり込むぬいぐるみの『こだわリスト』。

 倒れるクロスとシュガー。

 大笑いして腹を抱える金属の『こだわリスト』。


(何が起きた? どうして、倒れたんだ?)


「フハハハ。いやー。久しぶりに滑稽な物を見せて貰いましたよ」


 フォルカーは、丸眼鏡をはずすとニヤけた目で豆田を見た。


「なんだ?」


 豆田は困惑している。

「フハハ。良いですね。その表情……。絶望が見えますね。素晴らしい」

「どう言う事だ?」

「フハハ。私はね。バカなフリをしていただけですよ。まんまと罠に嵌ってくれて、感謝しかないですね。いやー。あまりに上手くいき過ぎて、途中で吹き出しそうでしたよ」

「2人に何をした?!」


 豆田はフォルカーに向かって、銃を構えるが、身体中に痛みが走った。


「フハハ!! ようやくあなたにも効いてきましたか?!」

「? 何をした?」


 豆田は膝をついた。


「フフフ。分からないでしょ? あー。楽しい。まー。すぐに死ぬでしょうから、ヒントをあげますね」


 フォルカーは白衣のポケットから、銀色に発光する粉のようなものを取り出した。


「砂? いや、鉄粉か?!」

「ふふふ。あなた。中々賢いですね。私ほどではありませんが……。この鉄紛に『こだわりエネルギー』を流して、排気ダクトを利用して、この倉庫中に散布しました」

「そのためのシャッターだったのか!」

「そうですよ。細かい粒子となった寄生金属に感染したお仲間は、ほら。もう虫の息ですよ」


 フォルカーは、シュガーとクロスの方を指差した。

 シュガーは壁に寄りかかりながら、苦しそうにこちらを見ている。呼吸が上手くできていないようだ。

 クロスは、這いつくばいながら、フォルカーを睨みつけていた。


「おや、まだ動けましたか……。収納の『こだわリスト』でしたかね? あなたは何を出すか分かりませんからね。まずはあなたから殺しますね」


 フォルカーは、散弾銃をクロスに向けた。


(考えるんだ! 捻り出せ! そのための脳味噌だろ!!)


 豆田は脳をフル回転させる。


(くそ! 痛みで集中力が!! もう一か八かアレを使うしかないか……)

「クロス!!」


 豆田は覚悟を決めた視線をクロスに送った。


「まめっち……。それだけはダメだ……」

「クロス……。シュガーの事は頼んだ……」


「フハハ。最後の悪あがきですか? そうはさせませんよ」


 フォルカーは、ポケットにしまっていた釘を一本取り出し、『こだわりエネルギー』を込めると、豆田の太ももに向かって投げつけた。


「ぐわ!!」


 豆田の太ももに貫通した釘から、寄生金属が体内に潜る。

 豆田のコーヒー銃を維持出来なくなり、銃は球体に戻ってしまった。カップの上で浮遊している。


「フハハ。では、まずは1人目」


 フォルカーは余裕をもった歩みでクロスの目前に向かう。


「やめろ!! 寄生金属を外せる仲間を教える! だから!」


 豆田は声を絞り出した。


「はいはい。うるさいやつめ。それは、おそらく収納使いのコイツだ! しょうもない駆け引きをしようとするな。次はお前を消してやるから、まっていろ!」


 フォルカーはそう言うと、視線をクロスに向け、引き金に力を込めた。


(今しかない!)


 フォルカーの死角に入った豆田は、浮遊する『こだわりエネルギー』に手をかざした。


(またコレを使う事になるとは。ま、命には変えられないか……。栄断流暗殺鍼灸……)


 浮遊する球体から小さな球体が5つ千切れる。それぞれが高速回転し、その形状を針に変えた。

 そのコーヒー針は、豆田の四肢と眉間の前に移動する。


(活性鍼!!!)


 四肢と眉間に針が刺さり、体内へと消えて行った。


『ドクン!』


 豆田の身体中の血管が脈打ち、身体から凄まじい量の蒸気があふれ出す。


「ん? なんだ?」


 フォルカーは背後から迫るエネルギーを感じ取り振り返った。


(豆田まめお? どうなっているの?)


 壁にもたれたままのシュガーは、その様子を見守ることしか出来ずにいた。

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