第49話 桔平---side2

「花乃を泣かせるな」

「え? 花乃ちゃん? 何? どういうこと?」

「お前、花乃と結婚するんだろ? 結婚式の話を嬉しそうにしてたくせに、何で他の女と!」


パチンっと言う音と共に、頬にヒリッとした痛みが走った。


「あなたが誰なのかわかった」


頬を引っ叩いてきたのは、男と一緒にいた女だった。


「あなたのこと叩いたのは、この人を殴ったからじゃないからね! あなたが、花乃を泣かしたやつだってわかったからよ!」

「冬華?」

「徹人、この男が、花乃を泣かせたやつ!」


女がこちらに向けて指を差した。

それで、さっきまで歯向かって来る様子も見せなかった男が、胸ぐらを掴んできた。


「お前が、俺の未来の妹を泣かせたやつか!」


未来の……妹?


思いっきり殴られた。


「あなた、向坂桔平でしょ?」

「何で名前……」

「わたしは茅野冬華。花乃の姉。それから、何を勘違いしたのか知らないけど、この人は、わたしの婚約者」

「あ……」

「いきなり殴るなんてサイテー。あなたって本当に何もかもサイテー!」

「すみません……」

「謝るのは俺じゃなくて、花乃ちゃんにだろ?」

「そう……ですよね。その通りです。あの……」

「話すことなんかないけど!」

「一つだけ教えてください。どうか」

「何?」

「花乃……さんは、今、幸せですか?」

「何なの、それ! 許せない! あなたがそんなこと言うなんて許せない!」

「冬華、落ち着いて」

「無理! 無理よ! 何でそんなこと言えるの?」


花乃のお姉さんが、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いた。泣きながら怒りをぶつけてきた。


「花乃がどんな気持ちでイギリスに行ったと思ってるの?」


責められて当然だった。黙ってそれを受け入れることしかできない。


「すみませんでした。僕は花乃さんにフラれたのに、こんな未練がましいことを言って……」


ずっと泣いていた花乃のお姉さんが、泣くのをやめた。



「何……言ってるの? 捨てたのはあなたの方じゃない」

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