第42話 あの時のキャンディ
終業式をサボった。
資料室を出た後、そのまま学校を出た。
駅からの道を急いでいたら、ちょっとした段差につまづいて、リュックのサイドポケットに入れておいたスマホが落ちて転げて行った。
それを前から来たキックボードに轢かれて、メキメキにヒビの入ったスマホは、電源も入らなくなった。
キックボードに乗っていた人は弁償すると言ってくれたれど、それを断った。
なんだかおかしかった。
何かのコントを見ているみたい。
スマホの中にあった思い出まで一瞬で無くなってしまった。
家に帰る前に、桔平ちゃんの部屋に寄った。
ここに泊まったことは一度もないから、わたしのものなんて何もない。
でも、この間来た時に偶然見つけてしまった。
わたしの痕跡。
冷蔵庫の中から大きな瓶を取り出した。
何でこんなの取ってあるのかなぁ……
瓶の中には、わたしが今まであげたキャンディーが全部取ってあった。
こんなの、残しておかないでよ。
こんなの、捨てちゃってよ……
瓶の蓋を開けて、中のキャンディを一つ取った。
袋を開けて、それを口に入れると、オレンジの味がした。
2人で映画を観に行った日のオレンジ。
続けてもう一つ取り出して口に入れた。今度はレモン味だった。
ピザを頼んで部屋で食べた日のレモン。
瓶の中にはまだまだいっぱいキャンディが残っている。
だから、キャンディを、噛んだ。
早く全部なくなってしまうように。
甘いキャンディーを食べてるだけなのに、涙が出た。
だから泣きながら、食べ続けた。
思い出を、ひとつひとつ消していくみたいに。
一番最後のキャンディは、いちごミルクで、それだけはどうしても食べることができなくて、ポケットに入れた。
キャンディの包み紙を全部集めて、持って来ていたビニール袋に入れて、桔平ちゃんの部屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます