第40話 なんでもない

終業式の前日、いつもより随分早く学校に行った。


挨拶当番が桔平ちゃんだったから。


桔平ちゃんにも「早めに学校に行ってね」とお願いしておいた。

挨拶当番の先生は裏門から入るので、裏門は正門より早く開いている。だからわたしは、正門からぐるっと裏門まで回って校内に入った。




職員室に行くと、思った通り、桔平ちゃんしかいなかった。


「おはよう」

「おはよう。何だった? 早く学校に来てって言うのは?」

「クリスマスプレゼントを渡したくて」

「クリスマスはまだ先だよ?」

「うん、でも渡したかったから」


リュックとは別に持っていた紙袋からマフラーを出して、桔平ちゃんの首に巻いた。


「挨拶当番が寒くないように」

「ありがとう」

「あのね……」


ずっと筒井先生のことを聞くのが怖かくて聞けなかった。

でも、聞かないでいるとそればかり気になってしまう。

だから、今日こそは聞くつもりでいた。


桔平ちゃんの顔を間近で見るまでは。


「まだ何かある?」


あの指輪は?


「なんでもない」

「いいの?」

「うん。いい。他の先生来る前に行くね」

「じゃあ、僕も正門に行くよ。マフラーありがとう」


2人で一緒に職員室を出て、反対の方向に向かった。



聞いたら、桔平ちゃんはきっと否定してくれるはず。

『そんなの嘘だよ』って。


でも、怖くて聞くことができなかった。



気が付いたから。


あの時わたしは、指輪は誕生日のプレゼントだと思った。

でも、誕生日のプレゼントだと思っていたのはわたしだけ。


だって、わたしは自分の誕生日を桔平ちゃんに教えていない。



全部、わたしが自分に都合のいいように思ってただけなのかもしれない。

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