第29話 何でだろう
学校から帰って、おにぎりを作った。
桔平ちゃんの好きな鮭と昆布を入れたやつ。
それを、だーって走ってアパートの桔平ちゃんの部屋に置いて、すごいいきおいで家に戻った。
誰にも見られないように。
もし見られても、パーカーのフードを被って行ったから、誰かはわからないはず。
夜の10時を過ぎて、『起きてる?』とメッセージが届いた。
「起きてる」と返信したら、電話がかかってきた。
「まだ寝てないんだ?」
「10時に寝てる高校生なんていないよ」
「部屋に来たらダメって言ったよ?」
「ごめんなさい。ご飯、食べてないんじゃないかと思って心配だった」
「うん……ずっと夜食べてなかった」
「文化祭が終わるまでだけだから」
「……文化祭が終わるまでだよ」
「わかってる」
「本当はすごく嬉しい。おにぎりの中身、好きなやつだった」
「良かった。学校で、いつも楽しそうだね」
「前の仕事と忙しいのは一緒だけど、辛くないから。そうだ! 生徒に、僕の彼女は2次元の人だと思われてる。ひどくない?」
笑ってしまう。
「早く3次元の彼女と思いっきり遊びたい」
「わたしも」
「えっと、おかかも好きだったりする」
「卵焼きもね。桔平ちゃんは甘いのが好きだよね」
「無理はしないで」
「何もできなくてごめんね」
「いきなり何? 何かあった?」
「何もない。彼女らしいこと何もできないから」
「僕も彼氏らしいこと何もできてない。ふたりして同じだから」
『同じことあると嬉しいね』
初めて遊びに行った時に言われた言葉を思い出して、泣きそうになった。
「もう切るね。桔平ちゃん、明日も早いんでしょ?」
「最近毎日早起きしてる。生徒が来るの早すぎる」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
電話を切った後、なんでだか涙が止まらなかった。
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